auショップの問い合わせ半減、通信品質の最適化は2年から1カ月へ短縮 KDDIが示す「AI前提社会」の道筋(1/2 ページ)
KDDIは「KDDI SUMMIT 2026」にて、AI前提社会における事業戦略を発表した。auショップの接客支援や基地局最適化にAIを導入し、業務効率化と情緒的価値の向上を図る。さらに大阪・堺などを拠点に、自動運転やロボットなどの社会実装を加速させる構えである。
KDDIは10月27日、ビジネスイベント「KDDI SUMMIT 2026」を開催した。基調講演の壇上に立った代表取締役社長 CEOの松田浩路氏は、「一人ひとりを輝かせる AIの可能性を、現実へ」と題し、通信とAIが高度に融合する時代の指針を示した。
同社は通信インフラの進化にとどまらず、店頭接客やネットワーク運用、そして全国の拠点を舞台に展開する自動運転やロボティクス、ドローン配送まで、AIの社会実装を目指していく。
AIが合理性を極める時代に問われる「情緒的な関係性」
「通信は世代が変わるたびに、つながる対象を広げてきた。スマートフォンだけでなく、あらゆるモノや産業に通信が組み込まれ、今やAIと通信が融合し、AIの存在が当たり前になってきた。これを私は『AI前提社会』と呼んでいる」
松田氏は冒頭でこう切り出し、通信キャリアを取り巻く事業環境が質的な転換点を迎えていることに言及した。
AI前提社会において最も劇的に変化するのは、「ビジネスにおける選ばれ方」だという。将来的には、ユーザー自身に代わってAIエージェントが製品やサービスを比較・検討し、購入までを最適化する世界が当たり前になる。
一方で、合理的な判断を導き出すAIが普及した際、何が起こるのか。松田氏は身近なシミュレーションを交えて問いかけた。
「例えばある日、AIエージェントが最もお得な金融機関を調べ上げ、『メインバンクから先ほど全ての預金を移しておきました』と報告してきたらどうだろうか。数字上は1円も損をしていないが、すごくゾッとするのではないか。長年培ってきた愛着や安心感が、一瞬にしてリセットされかねない」
あるいは、熱心に応援しているアーティストのファンクラブについて、「ログイン頻度が低下している」という理由だけでAIが勝手に「無駄な支出を省くため解約した」と判断してしまえば、ユーザーは強い反発を覚えるはずだ。
松田氏は「そうしたAIの合理性の前では、長年培ってきたカスタマーイナーシャ(その状態を維持しようとする慣性)が一瞬で崩壊してしまう」と警鐘を鳴らす。
だからこそ、数字やスペックの先にある要素が差別化につながる。松田氏は「合理的な比較をAIが担う時代だからこそ、最後の決断の決め手は、理屈を超えて心を動かされた体験そのものになる」と語る。店舗に足を踏み入れた瞬間の空気感、スタッフの表情、親身に耳を傾けてもらえたという安心感――それらの情緒的な価値こそが、AI時代にユーザーが特定のブランドを選び続ける真の理由になるという見立てだ。
AIで業務の精度を極限まで底上げし、最終的にユーザーの心を動かすことで、自ら進んで支払いたいと思う気持ち(WTP:Willingness to Pay)の向上へとつなげていく。これがKDDIの描く基本シナリオだ。
auショップにAIサポート導入で問い合わせ件数が半減
その具体例として松田氏が示したのが、全国約2000店舗を展開するauショップにおける接客方法の変革だ。
店頭での接客には大きな価値がある。KDDIのデータによると、スマートフォンの機種変更時に上位の料金プランへアップグレードするユーザーの割合は、オンライン手続きと比較して店頭接客の方が約3倍も高いという。松田氏はこれを「ユーザーが理解し、納得し、心から満足して選ぶまでのプロセスや体験のたまものだ」と評価する。
しかし、その体験価値を創出するため、従来の現場スタッフは膨大な商品知識を頭にたたき込み、失礼のない丁寧な応対マナーを体に染み込ませるために多大な時間を費やしてきた。
「これからは、専門知識の検索や状況に応じた最適な応対サポートを、AIが驚異的なスピードで補ってくれる。方程式を構成する基礎的な部分は、AIによって圧倒的に底上げされる」
基礎の習得と情報検索をAIに任せることで、人間のスタッフは「顧客に寄り添い、感情を通わせ、心を動かすという領域に自らのエネルギーを注ぎ込めるようになる」と松田氏は説く。
この構想は既に実用段階にある。2026年7月、全国のauショップを対象に必要な情報をAIが瞬時に提示するサポートシステムを導入した。これにより、スタッフが顧客へ回答を提示するまでの到達時間は8割から9割削減された。ショップから本部へ寄せられていた月間約20万件もの問い合わせ件数は半減し、新料金プランや新型iPhoneの発表直後に急増していた問い合わせも劇的に減少したという。
さらに、応対スキルの向上を目的として、AVITAと共同開発した「KDDI Avatar Canvas」を11月2日に法人向けに導入する。AIアバターを相手にスタッフが声を出して対話し、基礎から応用まで接客の反復練習を行える環境を整えた。「練習を繰り返すうちに知識や応対の型が身につき、自分自身に自信を持てるようになる。その自信があって初めて、目の前のお客さまと真摯(しんし)に向き合える」
AIでauネットワークの品質を最適化 2年の作業を1カ月弱へ短縮
AIによる現場の強化は、キャリアの生命線であるネットワーク品質の改善にも及んでいる。松田氏は、エリア品質を決定づける要素として「基地局のロケーション」「通信容量(周波数の割り当て)」「パラメーターの最適化」の3点を挙げた。
1つ目のロケーションは、地権者との長年の信頼関係に基づく地道な活動が不可欠であり、一朝一夕には完遂できない。2つ目の容量確保も、混雑エリアを見極めて適切な周波数を投入し続ける着実な投資が求められる。
劇的な技術進化がもたらされたのは、3つ目の「パラメーターの最適化」だ。松田氏は「電波がいい状態とは、ユーザーに必要な電波を最大化しつつ、干渉波などの不要な電波を最小化すること。この2つの組み合わせで成り立つ」と説明する。
複数の基地局(セル)が複雑に隣り合う環境下では、電波干渉を抑えつつ品質を最大化するための組み合わせは膨大な数になる。従来、人手を介した最適化には約2年を要していたが、AIモデルを導入したことで「わずか1カ月弱で最適化できるようになった」という。さらに、上り回線の干渉波を抑制する領域には量子技術を適用し、通信環境の改善を進めている。
こうした最新技術の投入により、KDDIはネットワーク評価機関、Opensignalの調査にて「最多受賞」の国内5連覇を達成した。同社が受賞したのは、ネットワークへの接続性や、動画・ゲームなどを中断せずに接続を維持する力を評価する「信頼性エクスペリエンス」、ネットワークの品質を総合的に評価する「一貫した品質」など。全18部門のうち10部門で1位を獲得した。
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