電話に見るコミュニケーションの変化

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 この人間関係の変化に大きく影響したのが,コミュニケーションツールとして最も身近な存在である電話であり,そして電話のモバイル化である。電話は人間の関係性に大きな変化をもたらした。

 電話に対する扱いの変化を見れば,ある種,ユーザーのコミュニケーションの変化,もっといえばユーザーの帰属意識に対する変化を見て取れる。

 思い出してみよう,一家に1台しかなかった黒電話を。我々はついこの間まで,家庭の中心に据え置かれた黒電話で家族を常に意識しながら通話を行なってきたのである。人との待ち合わせも,電話できちんと時間や待ち合わせ場所を決めてから行っていた。現在のようにアバウトに約束をし,その時間に近くなったら互いの携帯電話で連絡をとり合うなどということはあり得なかったのだ。要は,人間の基盤は“家”にあり,帰属意識は“家庭”にあり,価値観も,ある種“家族”が規定してきたものだったのである。

 モバイルの普及はこの概念を大きく変えた。電話は「個」のものとなり,家庭という場所にコミュニケーションの出発点を置く必要はなくなった。コミュニケーションの出発点はどこにいようが携帯電話を持つユーザー自身であるため,いつでもどこでも相手に連絡を取ることができ,自分専用のアドレス帳を突っ込むことで,誰の制約を受けることもなく好きにコミュニケーションを取れるようになった。

 機能的側面から違和感なくその言葉を使っているが,携帯電話にもかかわらず“留守電”と呼ばれる機能がある。まるで携帯電話が“家”のような,携帯電話に自らの帰属意識まで見い出し始めているような,そんな感覚さえもユーザーは持っているのかもしれない。

モバイル時代のユーザーの価値観

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 では,モバイル時代になりユーザーは「個」としての安楽の地を勝ち得たのか。自らの価値観をストレートに発散し,自らの価値観に合った人間たちとのみコミュニケートすることで,自らの楽園を皆,獲得したのだろうか。

 おそらく答えはNOである。選べない人間関係を脱し,個性や自分らしさを追及し,自らの価値観に沿った形で再編集した人間関係の中で生きていく。これは,これまでには感じることのなかった「個」としての不安を強く感じさせる環境になったことを意味する。

 考えてみれば当然のことともいえよう。これまで価値観を戦わせる必要のなかった集団の中では,それなりの個性で難なく自己を主張できた。が,個性の集まりである価値集団の中では,自らの存在意義を賭けて「個」を見出さなければならなくなった。

 その「個」を見出せない人間は,価値集団の中での厳しい競争にさらされたり,自分の属すべき価値集団を選択できなくなってしまうのだ。そのような「個」としての自由さと不安感が背中合わせに入り交じる逆ベクトル構造が,今後のユーザー心理の中にはさらに深く根差していくことになるのである。

 この逆ベクトル構造への理解が,次世代のモバイルユーザーを捉える際には重要になってくる。インターネットが普及し,凄まじい数のモバイル端末がユーザーのポケットに入ったことで,ビジネスチャンスの拡大のみが語られる。

 しかしその実,ユーザーの価値観はこれまで以上にさらに複雑怪奇なものになり,そのユーザーの心理的変化を捉えられなければ今後の競争環境で勝者になることはできない。

 その競争環境の厳しさの最たるものが,ユーザーの「個」化をここまで推し進めたモバイル業界そのものなのだ。ことモバイル向けのサービス事業者に関しては,意識するしないにかかわらず,この高いハードルの向こう側にしか,ユーザーはいないと考えるべきだろう。

 このユーザーの価値観変化を読み解くことが可能か否か。それこそが,今後のモバイルビジネス成功のための重要な鍵を握っているといっても過言ではない。

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[イエルネット 杉村幸彦,ITmedia]

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