FOMA SH901iC数多くの新機能を盛り込み、デザインも変化を遂げた「SH901iC」。フルスペックのFOMAを開発するに当たって、開発者たちの意図は、狙いはどこにあったのか。広島にあるシャープ 通信システム事業本部の開発者に聞いた。
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![]() 商品企画部の渡邉夫美子氏 |
「今までの携帯の流れだと、電話のみだった。その後iモードブラウザが乗って、カメラが付いてきた。『SH900i』では、ドキュメント──PCで作るファイルも見られるようにした(SH900i参照)。今回は、さらにエンターテインメントに世界を広げられないか」
SH901iCの最大の狙いを、そう話してくれたのは商品企画部の渡邉夫美子氏だ。エンターテインメントの王様といえば、テレビ。このテレビと連携して、テレビ番組を録画したり、撮った動画をテレビに出力したりして楽しめる──このAV入出力機能が最大の特徴である。
「そういった機能をより生かすモバイルASV液晶を載せています。AQUOSの液晶技術がシャープのブランドですから、そのブランドを高めていけるように、全社を挙げて携帯に協力していくということです」(渡邉氏)
テレビとの連携機能を入れる上で、SH901iCが採用したモバイルASV液晶は大きな意味を持つ。モバイルASV液晶とは、液晶テレビAQUOSで培われた技術を生かした液晶だ。高コントラストや広視野角といった技術的な特徴はもちろん、「テレビとの連携を図ることで、AQUOSの高いブランドイメージをSH901iCにも感じてもらいたい」(渡邉氏)という狙いもある。
では、テレビ番組の録画機能はどのように使われるだろうか。
「会社員の方って、なかなか時間がなくて、話題の番組が放送されているリアルタイムの時間に自宅にいることがないですよね。かといって、帰宅してHDDレコーダーなどに撮ったものを再生するかというと、その時間も取れない。少しでもテレビ番組を見る機会を広げられないかと考えました。SH901iCを使えば、テレビ番組を簡単に撮って持ち歩くこともできる。外に出ていても、少し空いた時間に気軽に見られるんです」(渡邉氏)
携帯は外に持ち歩いているので、リアルタイムに録画というよりも、HDDレコーダーなどで撮り貯めていたものを、もう一回SH901iCに録画するという使用シーンが想像しやすい。渡邉氏自身も、試作機段階からSH901iCで録画した動画を楽しんでいる一人だ。
「ドラマとかをよく撮ります。早送りしながら、要所要所を効率よく見ています。バラエティなどでも、自分の好きなコントだけ見たり」
少しでも多くの人に、気軽に録画を楽しんでもらうための工夫も随所に凝らした。家庭のビデオデッキなどとケーブルでつなぐだけで番組の録画ができるというのもその1つだ。
「PCはどの家庭にもあるわけではない。PCからのファイルって、いろんな方式があってフォーマットとか音声コーデックとか、いろいろ合わないと再生できない。携帯自身が録画してしまえば、何の心配もいらないんです」
![]() 通信デザインセンターの芝田博和係長 |
新機能を搭載する一方で、デザイン面でも新しい試みが行われた。
「縦方向の流れを作り出すことですっきりしたデザインにした。今までだとカタマリ感だとか存在感を出していたものを、SH901iCでは縦方向のベクトルを持たせました」
これまでとの違いをそう表現してくれたのは、通信デザインセンターの芝田博和係長だ。コンセプトは“カットシェイプデザイン”。端末を果物に見立て、スパッと2つに切る。そして中の実の部分と皮の部分を色と形状で表現した。
「多機能コンテンツや自分で撮り貯めた動画、さらに今回は電子マネー──FeliCaも入っていますので、内側の大切な情報を、外側でしっかりとつつみこむデザインがコンセプトです」(芝田氏)
3色のボディカラーも同じイメージから決められた。内側のインフォメーションエリアは、“媒体”という意味で、紙(白)とディスプレイ(黒)に。外側は「シェルに徹していきたい」(芝田氏)ということから、金属としてメタル(銀)、鉱物としてルビー(赤)を選択。この組み合わせで、大事な情報を堅い皮が包み込むイメージを表現した。
このデザインのために、機構設計も新しい取り組みを行っている。
「デザインコンセプトやヒンジ部をすっきりさせたいというデザインからの要求に基づいて、今回はカバーをして、形として外側から支えていく設計に取り組みました。セットサイズやコスト、組み立て性などに不利な条件ですが、うまくまとめることができました」と第2技術部吉村康弘主任。
![]() 第2技術部吉村康弘主任 |
本来回転2軸ヒンジ型の端末は、液晶背面の形状が限定されることなどからデザインが非常に難しい。ヒンジを目立たせず一体感を出すために、この部分はあくまでデザインを優先して取り組んだ。
カットシェイプデザインを実現するために、パーツの組み合わせでもチャレンジがあった。「一番大きかったのは、正面から見ても薄皮が見えるということ。これをデザインからどうしてもやりたいと要請があった」(吉村氏)。SH901iCを開いた状態で見ると、液晶の周りまで赤い外側のパーツが回り込んでいるのが分かる。通常は側面の中央で、上下のパーツが組み合うように作るが、今回は「上のパーツが下にも入り込んでいる」(吉村氏)のだ。
![]() 技術部の田中博文主事 |
![]() 第2ソフト開発部の山本晴之主事 |
さて、変わったのはデザインだけではない。
「デザインも変わったが、実は中身も相当変わっています。3Dグラフィックスと3Dサウンド仕様を満たすために、描画用LSIも音源LSIも変更しています。実は最初作ったときはものすごく遅くて、大丈夫かという話もあったのですが、ソフト技術者に苦労してもらって(3Dグラフィックスのクオリティはアップしたにもかかわらず)前機種と変わらないスピードを確保しました」(技術部の田中博文主事)
FeliCaにも対応し、内部の要素ハードウェアも一新。さらにソフトウェアも多大な改良が加えられている。ひとつの大きなトライは、携帯電話初となる901i共通のアンチウイルス機能(スキャン機能)の搭載だ。
「McAfeeのモジュールをドコモ様と共同で組み込みました。ブラウザでページを見た時とか、iアプリを実行した時とか、メールを見た時とか、コンテンツを実行する時にエラーになるのを防ぐものです。異常があったときはその後の処理をさせないようになっています」(第2ソフト開発部の山本晴之主事)
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[view]ボタンを押すと「SH901iCサポートブック」というヘルプ機能が立ち上がる。対話形式で楽しみながらSH901iCの機能を理解できる電子書籍だ |
こうした大きな機能追加のほかにも、細かな点まで改善点を挙げたらキリがないほどだ。開発効率を優先してソフトウェアの変更を控えるメーカーも多い中、あくまで使い勝手の良さを追求する姿勢には感嘆する。そのヒミツはどこにあるのか。
「毎回、基本機能といわれるものを向上させるためにユーザビリティテストをやっています。例えば50xシリーズのユーザーに集まってもらって、メールを作ったり画像を表示したり取説を見せないでやってもらう。正しくできるかどうかをみんなで観察して、その後議論して、次の商品への改善ポイントをピックアップしていきます」(渡邉氏)
こうした改善点の洗い出しと、ソフトウェア技術者の努力によって、世代を追うごとにシャープ製端末の使い勝手は向上していくわけだ。