「auの強さ」は本物か(2/2 ページ)
不調がささやかれていても、これまで3月の戦い“サクラ商戦”でドコモが負けたことはなかった。ところが今年の3月は、純増トップの座をauに明け渡す事態となった。「auの強さ」は本物なのか? au好調の理由のひとつ、端末商品力の面から分析していく。
全機種がメガピクセルカメラやメモリーカードスロットを搭載し、部分的な機能や総合力においては、個々のau端末を上まわっているのは間違いない。すべての機種が“全部入り”であり、スペック優等生の集団なのが900iシリーズだ。
「(1999年の)初期のiモードはハイエンドユーザー層が広めてくれました。900iの路線も基本的には同じで、20代半ばから30代のiモード利用の多いハイエンドユーザーをターゲットにしています」(NTTドコモiモード事業本部iモードビジネス部コンテンツ担当の山口善輝部長)
まずはハイエンドユーザー向けから──。この「入り口戦略」は間違っていない。新市場を創出するのはハイエンドモデルに投資する高感度ユーザーであり、市場が未成熟な段階で高級モデルを投入するのは自動車や家電の世界でも正しい手法である。
また、端末スペックの平均値を揃えるのも、コンテンツプロバイダーの参入意欲を促し、豊富なコンテンツを最初から用意する点で効果がある。900iはiモードの成功モデルを忠実に踏襲しており、iモードの正嫡にふさわしい内容になっている。
だが、その反面、900iシリーズのエントリーモデルは今のところ存在せず、ライトユーザー層は世代遅れ感のある「FOMA 2102V」シリーズか、パケット料金割引を諦めて2Gのムーバを選ぶしかない。900iのターゲットユーザー層ならば端末選びの「選択肢が多い」が、一歩その外に出ているユーザーは「選択肢が極端に少ない」のが現状である。
都内の大手電気量販店携帯電話売り場の責任者は、「900iは既にiモードを多くお使いで、新機能に興味のあるドコモユーザーの方にはお薦めしやすいのですが、パケット料金割引を前提に普通の携帯電話利用を求めるお客様には端末価格の高さの方が目立つようです。あくまで店頭の印象ですが、ライトユーザーや他キャリアユーザー(のドコモ乗り換え)に対するアピールでは、900iはあまりパッとしていません」と話す。
ドコモの過信に助けられたau
auにとっての幸運、そしてドコモにとっての不幸は、3G端末市場が成熟し始めていたことだろう。
ユーザーがパケット料金割引の存在から3Gを前提にしていなければ、ドコモは商品力の高いムーバを戦力に数えることができた。“高級モデル”900iが先鋭的な高感度ユーザー層を狙い、多様な商品力を持つ505iSと252iが幅広く一般層を担う──という布陣が有効だったのである。実際、この春商戦の900iとムーバの実売価格の設定は、それを示唆するものだった。
しかし、蓋を開ければユーザーは予想以上にムーバを忌避した。すべてのユーザー層で3Gニーズが高ければ、3Gラインアップのみで完結するauが有利になるのは当然である。
この状況を作りだしたのは、紛れもなくauだ。同社は1998年から1999年にかけてスタートした(当時はDDIセルラーとIDO)第2世代携帯電話「cdmaOne」とサービスエリア互換性のある“バージョンアップ”という形で3Gの「CDMA 2000 1x」を開始(2002年3月11日の記事参照)。ソフトランディング路線で3Gシフトを積極的に促し、この分野でリードしながら時計の針を進めてきた。この効果が表れたのだ。
これまで日本の携帯電話市場におけるシナリオライターはドコモだけだった。しかし、今回は「auのシナリオ」があり、そちらにもユーザーが反応した。ドコモの失策は、自らのシナリオがすべてと過信してしまったことだろう。
逆説的だが、auは市場の雰囲気とドコモの過信に助けられた、といえなくもない。その状況を作るために周到な準備をしたのはauであり、その戦略を練ったところはさすがだと思うが、今後、ドコモも3Gでフルラインアップを揃えて正面決戦になれば、auの戦略的優位性は崩れる。
端末分野から見れば、今回、auは約束された勝利を手にしたにすぎない。これからも端末の商品力で優位性を保つには、布陣をさらに厚くし、個々の魅力を磨いていく必要があるだろう。
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