1セグ放送、制作現場と広告の「課題」:地デジ+モバイルが生み出す世界(3)
1セグ放送の開始によって、放送を受信する端末としてさまざまなデバイスが登場してくることになる。これに伴い、制作現場の負担増や、広告モデルの整備といった課題もあるようだ。
放送のデジタル化が進む中、コンテンツやそれを視聴するデバイスの種類は、格段に増していく見込みだ。ユーザーは、より自分の好みと目的に適したコンテンツやデバイスを選択できるようになる。
しかし一方で、コンテンツ制作側の負担が増す、との意見もある。「デジタル放送というと、単純に“放送と通信”の側面だけを見られがちだが、しっかりと放送コンテンツの制作現場の仕組みも考えなくてはいけない」と指摘するのは、電通インタラクティブ・コミュニケーション局、モバイル・メディア部の小川由紀夫部長だ。
コンテンツ制作現場の本音
デジタル放送の始まりは、視聴デバイスの多様化をも意味する。第1回(3月11日の記事参照)でも触れたように、1セグメント放送が開始すれば移動体での視聴が可能になる。家庭に備え付けられたテレビ以外にも、放送の視聴形態は広がるだろう。
しかし、これによって番組の制作側には新たな苦労が発生する。「コンテンツをデバイスごとにカスタマイズしなくてはならない」という問題だ。いうまでもなく、映像コンテンツを各デバイスに合った形に変換するには手間と制作コストがかかる。加えて、カスタマイズしたそれぞれのコンテンツに対して、権利処理などの整理も必要になる。
一般に、「デジタル化でコンテンツ制作・運営・管理は効率化できる」と考えられている。しかしふたを開けてみれば、放送のデジタル化が新たに膨大なコストをもたらす恐れがあるというのだから、皮肉な話だ。
ある放送局では1セグ放送のサービス開始当初、家庭内の固定型テレビに向けて制作したものと同じ番組を、同じ時間にサイマル放送として提供する予定でいる。
しかし、大型テレビ向けに制作された番組の中では例えば50文字のテロップが認識できたとしても、それが携帯電話に向けられた放送では、同じ文字列を読み取ることができない。映像コンテンツの視聴時間についても、モバイル端末での視聴者を確実にフォローするなら、“携帯電話向けに少し要点を絞った短いコンテンツ”に作り直す必要があるという。
実は、同様の問題はこれまでにも存在した。現在のBSデジタル放送でも、テレビ放送局ごとに運用規格が異なり、コマーシャルなどのコンテンツは各放送局向けに手直ししなければならない状況がある。
制作現場では、1セグ放送向けのコンテンツでも、こうした負担の追加が繰り返されるのではないかと懸念されている。このため、制作側からはデバイスの違いを吸収するような、汎用性の高いコンテンツ運用方式の規格化を望む声が上がっている。
放送のデジタル化で問われる広告モデル
デジタル放送では、広告モデルをどう構築するかも問題になる。
これまでのテレビ広告は、いわゆる「マス向けの広告」だった。しかし携帯電話の広告展開などでしばしば指摘されるのは、「モバイル端末はパーソナルなメディアだ」ということ(2002年11月20日の記事参照)。ここで配信する広告は、個人個人のニーズに合うようなものでなくてはならない。
「マス媒体のように情報を広く伝えればいいという世界ではなく、どうやって消費者一人一人に浸透させるかが、さらに求められる」(小川氏)
携帯電話で1セグ放送が視聴できるという前提で考えれば、その通信機能をどう生かすかもポイントになる。放送と通信の融合により、広告も通信機能によるデータ収集の要素が重視されるようになり、その広告効果が明確な数字で示されるようになるだろう。
つまり、広告主は「マス向けに流しっぱなし」の広告だけでなく、「個人をピンポイントで狙った、効率化追及型」の広告を求めるようになる。従来のテレビCMのような制作費が“1本あたり何千万円”というオーダーは、通信の世界では馴染まない。
制作は負担増、広告は単価減?
以上を総合すると、地上デジタル放送導入は“制作現場での負担が重くなり、かつ広告の単価が下がる”――という結果をもたらす懸念がある。
もちろん、広告単価が減っても、全体としての広告収益が下がるかは分からない。制作側の負担も、デジタル化によって実現できる番組のクオリティ向上に見合ったものと考えられるかもしれない。
ただ、放送と通信の収益モデルの違いも考慮しながら、新たに採算性の高いビジネスモデルをどう確立するのか。今後を見通した上で、今一度考えておくべき重要な課題が残っていることには、間違いないだろう。
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