AOLジャパン買収で「脱ホールセール」目指すイー・アクセス
イー・アクセスは5月17日、AOLジャパンとISP事業の営業譲受契約を締結した。AOLジャパンの主力事業であり、事実上企業買収に近い。譲受金額は約21億円。これは、同社のビジネスモデルが大きく転換する可能性があることを示している。
イー・アクセスは5月17日、AOLジャパンとISP事業の営業譲受契約を締結したと発表した。譲受金額は約21億円で、すべて現金で支払われる。6月29日の株主総会の承認をへて、正式に実施される見込み。
AOLジャパンのISP事業に関わる営業用資産、営業の遂行に必要とされる権利・義務、従業員をすべて譲り受ける。両者はこれまでADSLのホールセールパートナーの関係だったが、今後はイー・アクセス内に「AOL事業本部」が新設され、「イー・アクセスの権限でISP事業が運営される」(同社)。なお、AOLのブランドは残す。
AOLジャパンは、2003年12月にNTTドコモなどとの資本関係を解消し(2003年12月17日の記事参照)、米America Online(AOL)の100%子会社になっていた。4月末現在で、AOLジャパンの加入者数は約40万人。2003年12月期の譲受部門の経営成績は、売上高97億3700万円、営業利益14億3700万円、当期純利益8億2800万円となっている。
ISPのレイヤーにも進出
営業譲受のメリットとして、種野晴夫COOは「AOLジャパンのナローバンドユーザーをブロードバンド移行させることで、ブロードバンドユーザーの拡大を図れる」ことを挙げる。
また、AOLと関係を深めることで米Time Warnerが抱えるコンテンツにも「アクセスしやすくなる」とコメント。潜在的なシナジー効果は大きいとした。
今回の発表はまた、同社が従来のビジネスモデルであるホールセール事業(ADSL回線の卸売り)から、方向転換する可能性があることを示唆している。買収によって、イー・アクセスは自社提供のISPを抱えることになったからだ。種野氏はさらに、中小のISPから「ISPネットワークのアウトソーシング事業をやってほしい」とのニーズがあるとして、この分野へ事業領域を拡大すると明言している。
イー・アクセスがコンテンツ課金機能を持ち、“回線の上のレイヤー”へと進出すれば、Yahoo!BBのような垂直統合モデルの事業者に変貌するとも考えられる。そうなれば、ARPU(1ユーザーあたりの収益平均)も引き上げられるだろう。
ただしこれは、従来からホールセール提携を行ってきたISP事業者にとって面白くない話。イー・アクセス直営のISPが“直接のライバル”として認識されれば、大手ISPの反発を招く可能性もある。
この点を千本社長に聞くと、「それは杞憂だ」と断言。
「(同じホールセール事業者である)アッカ・ネットワークスにしても、(主要株主であるNTTコミュニケーションズが運営する)OCNというISPがある。そもそも、AOLジャパンの会員は40万人で、ADSL全体の市場規模からすれば、無視できるほど小さいもの。提携する大手ISPから、ネガティブな反応は出ていない」
同氏はまた、イー・アクセスが今回の発表を境に、ISP事業へと大転換するわけではないと強調する。将来的な可能性についても、「今の段階で詳しいことはいえない。ノーコメント」と慎重だった。
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AOLジャパンは1月23日,NTTドコモの資本参加にともない,2月1日より社名を「ドコモAOL」に変更すると発表した。あわせて,ロゴマークも一新する。NTTドコモは昨年11月中旬,約103億円で米America Online,三井物産,日本経済新聞社の3社から全株式の42.3%を買い取り,AOLジャパンを事実上の子会社化している。ドコモから今年1月に社長に就任した中村稔氏は,新社名について「ドコモの主導で事業を進め,AOLがサポートする」という関係を表していると説明した。 新しいロゴを披露する中村社長。「ドコモとの提携により,iモードユーザーの取り込みを図る」 - TD-CDMAの「帯域独占議論」イー・アクセスの答えは?
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