完全デジタルの放送局──MediaFLO放送施設を見た:BREW 2006 Conference(2/2 ページ)
米MediaFLO USAは、5月15日に移転したばかりの新社屋と放送施設、National Operations Center(NOC)を公開した。10月1日までに完全な放送体制を整える。
MediaFLOで提供予定の多彩なコンテンツ
MediaFLOの多チャンネルとコンテンツバリエーションの秘密は「放送と通信の融合」にある。さまざまなコンテンツ形態に対応したMediaFLOだが、いずれのコンテンツも基本的に放送波を使って伝送する。このため大勢の視聴者が集中する大型イベントの中継にも強い。これは現在、米国の携帯電話で広く使われているストリーミング放送が苦手とするところだ。
映像番組は、編集済みのストック映像番組はもちろんだが、生放送も可能だ(MediaFLOのNOCでは、既に5本の生放送を同時に中継できる施設が整っている)。こうした映像番組に加え、空いた帯域や時間帯を使って、「Clip Casting」という蓄積型コンテンツを1日最大800分配信することもできる。これはビデオPodcastやKDDIの「EZチャンネル」のようなサービスをイメージするとわかりやすい。
さらにaacPlus形式のステレオ音声番組も10チャンネル放送できるほか、「Arbitrary UP data-casting」と呼ばれるデータ放送も行う。2006年 月にラスベガスで開催されたCTIA WIRELESS 2006では、株式情報への応用のデモが行われた(4月5日の記事参照)。放送波では全株式銘柄の最新情報が「放送」されるが、そのデータを端末側で加工して、ユーザーが必要な銘柄の情報だけを待ち受け画面に表示する、というものだ。
Qualcommのエンジニアリング&マーケティング開発担当の副社長、ロブ・シャンドック氏は、このデータ放送を使えば「野球の試合データもよりおもしろいコンテンツに発展する」という。「メジャーリーグのWebサイト、MLB.comでは、主な試合における投手の一投一投の球筋などのデータを提供している。これをうまく活用して、ただ試合の結果を表示するだけでなく、試合情報をもっとおもしろい形で提供することを考えているコンテンツ製作者もいる」。実際の試合の放送では20チャンネルの1つを使わねばならず、すべての試合の放送は難しいがデータ放送を使えば、より多くの試合の情報を配信できる。
MediaFLOのデータ通信部分は、テレビ番組表の表示や、スクランブルされた番組の視聴に必要な視聴契約の手続き、スクランブル解除に必要な暗号鍵の配布、さらには視聴者に関するデータの収集や、番組からインターネット情報へのリンクにも使われる。
いよいよ現実になるMediaFLO
MediaFLOは、米国では年内にVerizonが本放送を始める予定だが、スパンゲンバーグ氏は「これはほんのはじめの1歩に過ぎない」という。「Verizonのサービスが実際に始まることで、ほかにもこのサービスに興味を示す事業者が出てくるかもしれない。その頃には、サービス受信に必要な端末も簡単に入手できるようになっている。コンテンツ提供者やサポートサービスは我々の方で体制を整えている。彼らがサービスを提供したいと思えば、電源のスイッチをいれるような感覚で始められる。必要な準備は既に整っているのだ」
Qualcommが早くから700MHz帯の無線周波数帯を取得している米国では、このNOCの完成により、MediaFLOを本格事業として始める準備がほぼ整ったといえる。
MediaFLOは決して対岸の出来事ではない。日本でも商用化に向けてクアルコムジャパンとKDDIが「メディアフロージャパン企画」という合弁会社を設立しており、周波数の獲得に向けて動き出している(2005年12月22日の記事参照)。MediaFLOは700MHz帯にしばられず、さまざまな周波数帯、さまざまな帯域で運用できる。制約の厳しい日本でも、周波数帯の確保さえできれば十分サービスの運用は可能だ。
元クアルコムジャパン取締役会長(5月31日付でQualcomm本社の上級副社長に就任)の松本徹三氏は、MediaFLOはワンセグと共存する技術だと説明したうえで「2008年頃にサービスを開始したい」という意向を表明した(5月26日の記事参照)。これにあわせてQualcommは、2007年1〜3月までにMediaFLOだけでなくワンチップでワンセグやDVB-H放送も受信できる次世代シングルチップ「UBM」を発表している。
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2006年5月31日から6月2日にかけて、米Qualcommの本拠地であるカリフォルニア州サンディエゴで、BREWの開発者向けカンファレンス、BREW 2006 Conferenceが開催される。
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