厚さ9.4ミリのウォークマンケータイ──ソニエリ「W880」が生まれた理由(前編):開発陣に聞くウォークマンケータイ「W880」(2/2 ページ)
ソニー・エリクソンが2月に発表した、厚さ9.4ミリのウォークマンケータイ「W880」は、世界100カ国以上で発売され、非常に高い人気を博しているという。この端末は東京で開発され、世界に向けて送り出されている。
あえて“後戻り”の決断をして厚さ9.4ミリを実現
「W880のすごいところは、この薄さを実現するために、実は変わったことはあまりしていないことです。社内でも“本当にそれでこれができたのか!”と驚かれました」(瀬尾氏)
瀬尾氏や青木氏によると、W880の厚さを実現するために、特別な機構やチップを開発してはいないという。一般的に、端末メーカーはチップセットベンダーからプラットフォームの供給を受け、それをベースに開発を進める。最新のプラットフォームを利用しようとすると、開発途上のものに端末メーカー側で独自の機能を追加することになるため、同時進行で開発を行うことになる。プロジェクトのマネジメント上、非常に難しいハンドリングが要求されるわけだが、W880では、既存のプラットフォームにはほとんど手を入れることなく開発できたという。
開発段階で手を加えたところは、大きくは2つあった。1つはデジタル系ICと電源系ICをまとめて重ねた構造のデバイスを使い面積を減らしたこと。チップベンダーがこのデバイスを持っていることを知った青木氏だったが、ベンダー側もまさか今回のW880のようなサイズのものを作っているとは考えなかったため、このデバイスを使うための交渉は難しかったという。しかし、粘り強くベンダー側と交渉した結果、この重ねた構造のICの供給を受けることができたという。
もう1つは無線通信機構(RF)部分の配置の工夫だ。W880を開発していた当時、プラットフォーム上ではRFのモジュール化が進んでいたのだが、“ひとまとめ”にしたモジュールではどうしても高さ(厚さ)が必要になる。基板1枚分厚くなってしまうため、“薄さ”を狙っていたW880には不向きだった。そこで、その要素をあえて分散させてメインの基板を覆うように配置したのである。
W880を分解すると、ダイヤルキー、基板、液晶、カメラ、電池と、大きく5つくらいのブロックで構成されている。メイン基板は500円玉程度のサイズしかない。
「こうして組んでいったほうが、面積は広がるけれども高さは低くなるということで、あえてバラバラに配置したわけです。時代に逆行したような形ですけれど、そうすることで薄くできました」(青木氏)
「このRF周りの機構は、分解してみせると周りから驚かれます。新しいものを作るために、すべて最新のものを採用しているのかと思われるのですが、そこを目指すために突き詰めていくと“後戻り”の決断もありなんですね」(瀬尾氏)
アンテナの処理にはスウェーデンからも問い合わせ
“特別なことをしていない”という点はバッテリーも同じだ。薄くてコンパクトなW880だが、バッテリーは従来からあるものをそのまま使っている。新しいバッテリーを開発すると開発工数がかかるだけでなく、それを評価する工数も加わり、全体で大きな工数となる。電池を変えなければ、当然新しく電池を開発・評価する工数が不要になるため、プロジェクトの進行が速くなる。
「バッテリーはW880の部品の中で一番大きいものです。しかし我々は“バッテリーは変えない”という決断を早々にしました。バッテリーのサイズが決まることで、メカの構造が設計しやすくなります」(青木氏)
W880のバッテリーは、背面の上半分、ちょうど液晶パネルと重なる位置にある。バッテリーが本体の上半分にあるということは重心が上がり、手に持ったときに実際よりも重さを感じてしまうというリスクがあった。しかし、これを決めないとその後が動かないということで、リスクをのみ、先にこのレイアウトを決めた。
また、本体の長さも議論の対象になった。というのもW880にはUMTS(W-CDMA)用の2.1GHzのほか、GPRSの900/1800/1900MHzに対応したアンテナに加え、Bluetoothのアンテナも搭載されている。これらはすべて本体下端のSony Ericssonロゴの下に収まっている。ここを1ミリ長くすれば、アンテナの物理体積を大きくすることができ、ひいてはパフォーマンスアップにつながる。しかし、本体を長くすると前述の電池による重心の高さをさらに助長してしまう。そのためわずか1ミリを伸ばすか、伸ばさないかを、R&Dチーム内のベースバンドチーム、RFチーム、メカチームで徹底的に議論したという。
「トライバンドのアンテナに加えて、Bluetoothのアンテナもここに入っています。スウェーデンの開発チームからは“どうやって実現したのか教えてくれ”という問い合せがくるほどすごいことをやっています。開発をしていた当時、僕らはあまりすごいことをしているという認識はなかったのですが、サンプルをほかの拠点に配ると、“Bluetoothのアンテナはどこにあるんだ?”という問い合わせがよく来るようになりました。UMTSやGPRSのアンテナと一緒に載っていると答えると、驚いて図入りで説明を求められたりすることがよくあります」(青木氏)
後編では、W880のデザインや開発コード名「Ai」の秘密、そして世界へ向けて出荷する苦労を聞く。
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