モバイルビジネスの変革は“段階的に、確実に”──総務省の報告書案まとまる:「モバイルビジネス研究会」第8回会合(2/2 ページ)
モバイルビジネス研究会の議論を経て、総務省がモバイルビジネスの問題点に関する解決案を盛り込んだ報告書案をまとめた。販売奨励金、MVNO、SIMロックなどの問題について段階的な施策で対応するよう通信キャリアに求めた。
SIMロック解除について
これまでSIMロックは、ユーザーに安価に端末を提供するための手段の1つであり、キャリアの囲い込み策にもなっていた。しかし、利用期間付きの契約が採用され、契約期間中に販売奨励金相当額の回収が行われれば、SIMロックを行う必要がなくなるとしている。SIMロックフリーの端末が市場に投入されることになると、端末メーカーが直販するモデルが登場するなど、端末市場が活性化し、利用者の選択の幅が広がる可能性があるとしている。
ただ現在、日本国内ではW-CDMA方式(ドコモ、ソフトバンクモバイル)とCDMA2000方式(au)が存在し、各キャリアごとに提供するサービスの仕様が異なる。そのためSIMロックを解除し、例え同じ通信方式の事業者間でスイッチしても、音声通話やSNSなど一部機能しか利用できないことになる。しかも異なる通信方式間のスイッチでは、ほとんどの機能が使えず、SIMロックを解除する意味がない。この場合、事業者間の競争は一部のみ(NTTドコモとソフトバンクモバイルのみ)となり、事業者間の競争をゆがめる可能性があるる。
こうした事情からSIMロック解除については、第1フェーズと第2フェーズに分けて考えることが適当としている。特に第2フェーズでFMC(Fixed Mobile Convergence)サービスの提供や高速データサービスが普及すれば、SIMロック解除は大きな意味を持つものとなる。
そのため総務省の報告書では、SIMロックは原則、解除するのが望ましいが、今後の端末市場の動向などを考慮して2010年の段階で最終的な方向性を導き出すのが適当と結論付けている。
MVNOについて
MVNO事業については、高速データ通信を中心に新規性のあるMVNO事業を創出することが、成熟期に向かいつつあるモバイルビジネス市場での新たな市場拡大につながるという見方だ。固定系事業者や地方ISP、CATV、さらには他業態の豊富な経営資源と通信サービスを組み合わせたMVNOの登場が期待できるとしている。
ただし、MVNOの新規参入における課題として、他業態からの新規参入では通信事業に関するノウハウがなく、具体的な事業計画が描けないという問題もある。そのため、MVNOとインフラを提供するMNOとの交渉や端末調達といったコンサルティング業務を行うMVNE(Mobile Virtual Network Enabler)の活用が期待されるとした。
MVNEの登場で、MVNOの事業計画が円滑に進むだけでなく、MVNEが保有する認証・課金機能をMVNOに提供したり、端末の共同調達が可能になることで、コスト削減が期待される。
総務省では2002年6月に「MVNOに係る電気通信事業法及び電波法の適用関係に関するガイドライン」を制定しているが、すでに市場環境の変化がめざましいことから2007年2月に改定を行っている。しかし今回の研究会で、MVNO事業への参入を希望する事業者から意見を聞いたところ、さらにガイドラインを見直すべきであるという結論に達したという。
モバイルアクセスの多様化・高速化の推進
報告書案では2.5GHz帯における広帯域移動無線アクセスシステムの導入(モバイルWiMAXなど)、地上アナログテレビ放送の終了後の空き周波数の有効利用(ISDB-Tmm、MediaFLOなど)といった新しい周波数の割り当てによって、モバイルアクセスが多様化する点についても、競争促進に取り組むことが必要であるとしている。
まず、WiMAXなどの通信サービスでは、ノートPCなどに通信事業者のサービスと紐づけされない通信チップが内蔵されることが予想される。そのため、2007年中を目処に端末認証の仕組みについて整備することが適当であるとした。
またFMCサービスの普及で、固定・移動を問わず同じ端末でサービスを利用できるよう、環境を整備することが必要という見方を示した。
さらに、フェムトセルの導入が検討されていることもあり、2007年末までにフェムトセルについて電波法及び電信通信事業法上の位置づけを明確にすることが必要であるとしている。
FMCに代表されるユビキタスネットワークにおいては、異なるネットワークでも1つのユーザーIDで認証できるようにする仕組み(IDポータビリティ)の実現により、多様なサービスやコンテンツ、アプリケーションの登場が期待できる。SIMカードをさまざまな端末のユーザーIDとして活用できるような仕組み作りを2010年にも実現できるようにするのが望ましいとしている。
報告書案では、ほかにも端末のプラットフォームの共通化や、消費者保護の観点から各社の料金プランを比較できるサイトに信頼性を与えるための認証制度の導入、販売代理店の販売員やコースセンタースタッフの資質向上を図るなどといった取り組みも盛り込まれた。
モバイルビジネス活性化プランの策定
モバイルビジネス活性化に向けた取り組み施策は多岐にわたることから、総務省ではこれらを総合的にまとめ、着実に実行するためのロードマップを「モバイルビジネス活性化プラン(仮称)」としてまとめる予定。行政当局は、学識経験者などの有識者で構成する「モバイルビジネス活性化プラン評価委員会(仮称)」を開催し、プランの進捗状況などをモニタリングする計画だ。
今回、総務省が発表した報告書案は研究会のメンバーの賛成を得られた模様。一部、表現上の修正などを加えて、正式に公表される予定で、総務省では近日中にパブリックコメントを募集する。
関連記事
- MVNOの定款化を迫るイー・モバイル千本氏、ドコモは反発
「モバイルビジネス研究会」の第5回会合には、3月31日に携帯電話事業を開始したばかりのイー・モバイルから千本倖生会長が登場。MVNOを活性化するための具体策を提案した。 - オープン化を望むMVNO、キャリアは慎重な姿勢
「モバイルビジネス研究会」の第4回会合で主に議論されたのは、MVNO事業を展開するにあたっての課題について。オープン化を望むMVNOに対し、MNOとなるキャリア側は慎重な姿勢を見せた。 - 「端末ベンダーは海外で挑戦する気があるのか」──慎重論に業を煮やす構成員
総務省が、携帯電話のビジネスモデルのあり方について話し合う「モバイルビジネス研究会」の第3回会合を開催。キャリアと構成員との間で、またも議論は平行線をたどり、業を煮やした構成員からは「ハードランディングすることはあり得ないのか」という言葉も飛び出した。 - 功を訴えるキャリア、罪を問う構成員──SIMロックの是非をめぐる認識のずれ
総務省がSIMロック解除やインセンティブモデル廃止など、これからのモバイルビジネスのあり方を検討する「モバイルビジネス研究会」の第2回会合を開催。研究会構成員とキャリア間で議論は平行線をたどり、認識のズレが浮き彫りになった。 - “SIMロック解除”で安くもならないし便利にもならない──ドコモの中村社長
影響の大きさを考えてから議論を進めたい――NTTドコモの中村維夫社長が、決算発表の会見でSIMロック解除やインティブモデルの廃止議論に対する考えを述べた。 - インセンティブモデルの是非、理想論だけで考えないでほしい──KDDIの小野寺氏
総務省が「モバイルビジネス研究会」を立ち上げ、携帯電話のビジネスモデルについて再検討する動きが出ていることを受けて、KDDIの小野寺社長が意見を述べた。 - 割賦販売が100%になったら、SIMロック解除も検討しうるが──ソフトバンク孫社長
ソフトバンクの孫正義社長は2007年3月期第3四半期の決算発表で、ボーダフォン買収以来掲げているソフトバンクモバイルの「4つのコミットメント」の進捗状況などを報告した。合わせてSIMロック解除についての見解を述べた。
関連リンク
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.