「箱根かざしてゲット!」は、おサイフケータイの“最新”サービス(後編)
小田急グループが箱根で行っている情報配信サービス「箱根かざしてゲット!」。対応機種の少なさを不思議に思って取材するうち、実はこれが“最新かつ唯一”のおサイフケータイ向けサービスであることに気が付いた。同サービスで利用されている最新機能とは――?
この夏より、小田急箱根ホールディングスが箱根で展開している情報提供サービスが、NTTドコモの携帯電話で利用できる「箱根かざしてゲット!」だ(7月30日の記事参照)。実はこれ、おサイフケータイの最新機能を利用した、他にない新しい取り組みなのである。
箱根かざしてゲット!でできることは、大きく分けて4つある。
- 箱根の観光情報を入手する
- 近所のお店や観光施設で使えるクーポンを入手する
- 箱根の乗り物(登山鉄道、観光船など)の待受画像を入手する
- 写真をスライドショーで楽しむ「フォトアルバム機能」を利用する
利用手順は以下の通りだ。「対応機種に、専用iアプリをインストール」→「『箱根かざしてゲット!』のポスターに携帯をかざす」。利用に際して、注意したい点は3つある。事前に専用iアプリをインストールする必要があることと、対応機種がFOMA 903i/904iシリーズだけと少ないこと、そしてiアプリを起動した状態で携帯をかざすことだ。おサイフケータイを利用するサービスはほとんどが“かざすだけ”だが(端末を閉じたままでも構わない)、このサービスではおサイフケータイをかざす前に、ユーザーが意識してアプリを起動する必要がある。
サービスの詳しい内容については記事前編をお読みいただくとして、後編となる本記事では、「箱根かざしてゲット!」がどのような機能を使っているのか、なぜ対応機種が少ないのかを解説していく。
理由その1:Favor 2.0対応機種が必要
箱根かざしてゲット!は、おサイフケータイの中でも対象機種がFOMA 903i/904iだけと少ない。なぜなのか気になる人もいるだろう。対応機種が少ない理由は、大きく分けて2つある。
一般に「おサイフケータイを使った(情報配信)サービス」という場合は、事業者の店舗にあるFeliCa用リーダー/ライターに、ユーザーが持っているおサイフケータイをかざす、というスタイルがほとんどだ。この場合、おサイフケータイの中に入っているFeliCaチップの情報を、リーダー/ライターが読み書きしている。
箱根かざしてゲット!では、この逆のことをしている。おサイフケータイは“読まれる”側ではなく、“読む側”なのだ。
箱根かざしてゲット!のポスターには、リーダー/ライターは付いていない。ポスターの「ここにかざす」マークの裏には、リーダー/ライターではなく、FeliCaチップが埋め込まれているのだ。1枚のポスターに、かざすところは11カ所。つまり、ポスター1枚当たり11個のFeliCaチップが裏に貼り付けられているのである。
通常のおサイフケータイ向けサービスでは、リーダー/ライターがおサイフケータイ内のFeliCaチップの情報を読み書きする(左)のに対し、箱根かざしてゲット!では、おサイフケータイの中のFeliCaチップそのものがリーダー/ライターとなって、ポスターの裏に貼られたFeliCaチップの情報を読み出す(右)
箱根かざしてゲット!のポスターにおサイフケータイをかざすと、携帯の中のFeliCaチップが、ポスター側のFeliCaチップ内の情報を読み出す。これは、FOMA 903i以降で採用された新しいFeliCaチップ(第二世代モバイルFeliCa ICチップ、コードネームの「Favor 2.0」で呼ばれることが多い)で新しく実装された、FeliCaチップが通信を行う機能を利用したものだ。
Favor 2.0の通信機能には2種類ある
Favor 2.0の通信機能といった場合、実は2つのケースがある。1つは、Favor 2.0どうしで通信を行い(アドホック通信)、データを送受信するケースだ。NTTドコモ、auともにFavor 2.0搭載機種ではこの機能を実装しており、この機能のことをドコモでは「iC通信」、auでは「Touch Message」と呼んでいる。
もう1つの通信方法が、Favor 2.0をFeliCaのリーダー/ライターとして用い、おサイフケータイでほかのFeliCaチップ内にあるデータを読み出すというケースだ。この場合、おサイフケータイの中のFeliCaチップがFavor 2.0であれば、読み出すFeliCaチップはバージョンを問わない。おサイフケータイでもいいし、カード用FeliCaチップでも読み出せる。箱根かざしてゲット!はこちらのケースである。
理由その2:メガアプリ対応も必要
箱根かざしてゲット!の対象機種が少ないもう1つの理由は、インストールする専用iアプリがメガアプリであるためだ。
FeliCaチップ同士の通信速度は赤外線通信程度とそれほど速くなく、おサイフケータイを短時間かざしただけでは、ポスターのFeliCaチップから大量のデータを読み出すことができない。
そこで、箱根かざしてゲット!では少し変わった方法を採っている。“ポスターから受け取る”クーポンや観光情報などのデータを、メガアプリとしてあらかじめ携帯内に持っているのだ※。メガアプリのデータは初めユーザーから見えないように隠されているが、ユーザーが箱根かざしてゲット!のポスターに携帯をかざすたびに、少しずつ見えるようになってくる。ポスター側のチップの中には01、02、03……など数字データだけが書き込まれており、読み取った数字データに対応する情報だけにアクセスできるようになる、という仕組みなのだ。
ポスターのQRコードからアプリをダウンロードしようとしても、対応機種以外ではインストールできない(写真はFOMA SO902i)。対応機種としてアナウンスされている903iと904iシリーズの他、70xiシリーズの中にも一部対応機種があることが分かる
このような仕組みになっているため、箱根かざしてゲット!を利用するためにはFavor 2.0を搭載したおサイフケータイで、かつメガアプリに対応したNTTドコモの機種でなくてはならないことになる。対応機種である「904i/903iシリーズ」は、この2つの条件を満たしている。
実は、904i/903iシリーズ以外でも、この2つの条件を満たしている機種がある。例えばSH703i、F703i、SH704i、F704iといった機種だ。箱根かざしてゲット!の対応機種には入っていないが、Favor 2.0を搭載し、メガアプリに対応したこれらの機種であれば、箱根かざしてゲット!を利用することができる(ただし、SO903iだけは機種依存の理由があるとのことで、非対応)。
おサイフケータイをリーダー/ライターとして使うメリット
通常のおサイフケータイ関連サービスにおいて、おサイフケータイはあくまで“読まれる側”である。おサイフケータイをリーダー/ライターとして利用する、このような事例が一般的に行われたのは、箱根かざしてゲット!が日本で初めての例だ。
こういう方法をとるメリットは、大きく3つある。1つはコストだ。ポスターの裏にリーダー/ライターを付けるより、FeliCaチップを付けるだけで済むので、この方法は安く上がる。
2つ目に、ポスターに複数のFeliCaチップを貼っておけば、1カ所のポスターでたくさんの種類のデータを配信できる。現在流通しているリーダー/ライターでは、1台でたくさんの種類の情報を配信することは難しい。
3つ目は、リーダー/ライターを使わなければ電源の心配が不要という点だ。ポスターにリーダー/ライターを付けず、FeliCaチップだけで済むのであれば、ポスターのそばに電源を確保する必要がなくなる。
新しい取り組みだけに、もっと告知が必要なのでは?
もちろん、デメリットもある。最大のデメリットは、Favor 2.0を搭載したおサイフケータイはまだ少ないという点だ。またauやソフトバンクモバイルの携帯を使っている人も、当然このサービスは使えない。Favor 2.0かつメガアプリ対応という機種を持っている人はまだまだ少数派なのが現状だ。
2つ目は、ユーザーに自発的にアプリをダウンロード・セットアップしてもらう必要があることだ。ポスターに入っているのがリーダー/ライターであれば、アプリが入っていない状態でおサイフケータイをかざした場合でも、特定のURLでブラウザを起動させるという機能を使うことができるので、そこからダウンロードページに誘導できるのだが、FeliCaチップではそうはいかない。アプリが入っていない状態でポスターにかざしても何も起こらないので、ユーザーにサービスを“気付かせる”ことが非常に難しいのだ。
3つ目は、ポスターにおサイフケータイをかざすときには、常にアプリを起動していなくてはならない点だ。一般におサイフケータイを利用するときは、アプリを起動する必要がないのはもちろん、携帯を閉じた状態でも、ただリーダー/ライターにかざせば処理が完了する。それだけに、ポスターにかざす前にアプリを立ち上げる、あるいはアプリをずっと起動したままでなくてはいけないというこの仕様は、使いにくいと感じる人が多そうだ。
“最新の機能を生かす”と“より多くの人にサービス提供する”を両立する難しさ
率直にいって、箱根に行った一旅行者が、箱根かざしてゲット!のポスターを見かけて興味を持ったとして、
- 自分の携帯が対応機種かどうか
- どうやってアプリをダウンロード、セッティングするか
- 使い方を把握し、意識して“アプリを起動して”かざす
の3点すべてをポスターの記述だけで理解するのはかなり難易度が高い。利用率を高めたいと思えば、箱根の旅のスタート地点に説明員を配置し、興味を持った人に対して、上記の3点を説明し、アプリのダウンロード・起動方法まで付き合うなどのフォローは必須だろう。
小田急箱根ホールディングス側でも、この問題点は認識している。「確かに(箱根かざしてゲット!を使い始める)スタート地点として、交通の要所である箱根湯本駅は最適です。ただ、箱根湯本駅は今、大規模な工事中なので、長期間にわたって『箱根かざしてゲット!』のポスターを設置しておけるところが確保できなかったのです。私たちも箱根湯本駅には是非ポスターを設置したかったのですが……」(小田急箱根ホールディングス営業統括部の佐伯重幸氏)
新しい機能を使うことにより、対象機種が減るというリスクはあっても、同社の「携帯の新しい機能を生かした、新しいサービスを提供したい」という気持ちが強いという。おサイフケータイともう1つ、佐伯氏が挙げるのがGPS機能だ。
前編でも述べたように、同社ではこの夏から「モバイル版はこねnavi」という携帯サイトを運営している(http://hakonenavi-m.jp/)。PC版「はこねnavi」の情報を携帯向けにも配信するだけでなく、外で利用する携帯ならではの使い勝手を意識したサービスが特徴となっている。「携帯のGPS機能を使った行き方検索や時刻表検索など、携帯ならではの新しい機能を積極的に取り入れていきたいと思っているんです」(佐伯氏)
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