キャリアの勢力図に異変? 波乱含みの「ケータイ冬の陣」 :神尾寿の時事日想:
いよいよ冬商戦が本番を迎えるが、家電量販店の携帯売り場では今、ちょっとした異変が起きている。関係者は口を揃えて「あのキャリアの勢いが止まった」という、その事情は……。
駆け足でやってきた冬の寒さとはうらはらに、携帯電話販売店の現場に熱気が満ちる12月。冬のボーナスが支給され、冬商戦はこれからが本番である。
今年の冬商戦はドコモ・KDDIが「新料金プラン」と「新販売方式」を導入後、初めての大型商戦期にあたる。ソフトバンクモバイルは他社より早く販売方式や料金体系の刷新を行ったため、販売面での大きな変化はないが、今年初夏から続く純増シェアNo.1の好調を来年につなげられるかが冬商戦のテーマになっている。主要3キャリアを中心に、今年の冬商戦は見どころが多い。
2008年の業界勢力図にも大きく影響するケータイ冬の陣。戦況はどのような状況にあるのだろうか。
好調auに翳り。KDDIは墜ちていくのか?
「auの勢いが完全に止まった」
冬商戦の開始早々、ドコモやソフトバンクモバイルの関係者、複数の販売会社幹部は口をそろえた。大手量販店を覗いてみても、auのブースに昨年同時期の勢いがないのは明らか。筆者は冬商戦が始まってから、東京、名古屋、大阪、福岡の家電量販店や大手併売店の現状を見て回ったが、どの地域でも、ソフトバンクモバイルやドコモに比べて、auのブースに人出と活気がなかった。
「auの低迷は数字にも現れ始めている。冬商戦開始以降の最新の状況では、ドコモからauへの流出が大幅に減少し、12月は(互いの流出入で)均衡するか、ともすればドコモの流入分が上回り逆転する可能性すらある」(ドコモ関係者)
この傾向は東京をはじめ都市部に広がっており、地方都市でも同様の兆候が見えている。今年春商戦までの“ドコモを攻めるau”という構図は崩れ始めているようだ。
ソフトバンクモバイルも、同じくauの不調を感じ取っている。
「11月以降、明らかにauからの流入が増えています。さらに特徴的なのは、auから移ってくるお客様は『ARPUが高い』傾向にあることですね。高感度でARPUの高い優良顧客が、auから逃げ出しているような印象を受けています」(ソフトバンクモバイル関係者)
TCAの月間統計を見ても、11月のKDDIは不調の色が濃かった(別記事参照)。KDDIの純増数は6万5400契約と伸び悩み、好調であるはずのau単体でも10万7200契約とソフトバンクモバイルに及ばなかった。ドコモの905iシリーズがスマッシュヒットとなり、ソフトバンクモバイルも冬の新モデル投入で好調ぶりが加速する中で「12月のKDDIは純増3位になるのでは」と話す業界関係者は多い。
端末戦略の見誤りで、店頭競争力が減少
なぜ、au、そしてKDDIは苦戦しているのか。
最大の要因は、端末ラインアップの投入タイミングの遅れや魅力減少から、店頭での競争力が大きく減退していることだ。
KDDIはauの冬商戦モデルとして、話題のINFOBAR 2を含む9機種を発表している。しかし、この中でKCP+対応のハイエンドモデル3機種の投入が遅れており、来年1月中旬以降もラインアップが完成しない模様だ。INFOBAR 2は話題にはなったものの調達台数が少なく、すべて売れても焼け石に水という状況である。あるKDDI関係者は、「今年の冬商戦の(auの)セールスポイントは、『フルサポートコースで1円』端末。他キャリアの端末より安い」と苦笑混じりに話す。そして、それが実態なのも販売現場の現実だ。
KCP+対応機の遅れは店頭競争力だけでなく、auの「先進性」をも損なっている。同社はKCP+端末において、au oneガジェットやマルチプレイウィンドウといった新機能を投入する予定だった。au唯一のワイドVGA液晶搭載機や、Bluetooth対応など"全部入り"のハイエンドモデルもKCP+対応機においてである。しかし、これらがKCP+対応機の遅れによって、すべて12月に間に合わないことになった。ハイエンドモデルの需要が高い冬商戦で、この出遅れは痛い。
さらに端末の販売価格を抑えるための「端末の低コスト化」が、この冬商戦では裏目に出ている。
auは従来の販売奨励金制度の仕組みを改訂した“フルサポートコース”を販売モデルの主軸に置き、これまでどおり店頭での価格競争力を増すために端末の低コスト化を行った(別記事参照)。一方、ドコモとソフトバンクモバイルはauとは逆に、分離プラン導入による端末価格上昇と、割賦制によって端末利用期間が延びるユーザーが増えることを想定して、端末の機能・性能や質感の底上げを行ったのだ。新販売モデルでも「端末の安さ」を重視したauと、新たな時代は「高性能と上質感が必要」としたドコモとソフトバンクモバイルとの違いが現れた。
その結果は、家電量販店の携帯電話売り場を見れば一目瞭然である。ドコモとソフトバンクモデルの最新モデルは、過去のラインアップよりもデザインがよく上質感があり、搭載される機能・性能も底上げされている。ユーザーの端末利用期間が延びる可能性が高い中で、きちんと“お金をかけている”ことが分かる。
一方、auのラインアップは最新モデルの数が少なく、デザインや質感、搭載されている機能・性能面で、ライバル2社に見劣りしてしまっている。販売価格は確かに安いが、「モノとしての魅力」が薄いのだ。コスト削減は企業の姿勢としては間違っていないが、他キャリアの製品と比較して分かるようでは、ユーザーは興ざめしてしまう。新販売方式で最長2年間はつきあうとなればなおさらだ。
各キャリアが新販売モデルに大きく舵を取ったことで、ユーザーは「長く使う」ことを意識して端末を選び始めている。デザイン・質感のよさと基本性能の高さを重視する傾向は、今後さらに強くなりそうだ。しかし、今のauは端末のコスト削減に気を取られて、このユーザーと市場の変化を捉え切れていないのではないか。また、かつてのauが得意としていた“他キャリアより低コストな端末を魅力的に見せる”デザインの手法も、失われているように見える。
auの不調が、2008年の波乱を呼ぶ
このままauの不調が続き、冬商戦での敗色が濃厚になると、auのイメージ失墜は避けられないだろう。特にauは、MNP開始前から今に至るまで「好調である」ことが半ば当然のように思われてきた。ドコモより先進的で、端末デザインがよくてエリアも広い。伸び盛りのキャリアという“良いイメージ”が、新しい顧客を呼び込み、auの好循環を下支えしていたのだ。それがたとえ一時的にせよ、損なわれることによる損失は計り知れない。
しかも以前と異なり、ドコモに対するチャレンジャーは、auだけではない。ソフトバンクモバイルが台頭し、料金と端末ラインアップの両面で、かつてのauのような"先進的で伸び盛り"というイメージを獲得してきている。auのブランドに翳りが差せば、相対的にソフトバンクモバイルのイメージがよくなる。そして、auが冬商戦の苦境を短期間に立て直せなければ、イメージ悪化は連鎖的に広がり、2008年の争点が「ドコモ VS. ソフトバンクモバイル」という構図になる可能性も考えられるだろう。
今年のケータイ冬の陣は、波乱含みの展開になりそうである。
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