SKTのHanaro買収でどうするKTF・LGT、どうなる韓国の通信市場:韓国携帯事情
SKTのHanaro買収問題で、韓国情報通信部が最終決定を下した。無線と有線を独占する巨大通信企業の誕生に、公取委はどんな条件を提出したのか。また他キャリアはどんな反応を示したのだろうか。
韓国公正取引委員会(以下、公取委)は2月15日、SK Telecom(以下、SKT)のHanaro Telecom(以下、Hanaro)買収について審議を行った。その結果、さまざまな条件を付けたうえで買収を承認する方針をまとめた。2月20日には、韓国情報通信部による最終決定がなされた。「SK」の名を冠した巨大通信グループと韓国の通信市場は、今後どうなっていくのだろうか。
公取委が突きつけた条件とは
SKTは現在、韓国の携帯電話市場で独占状態にある。そのSKTがブロードバンド市場で2位のHanaroを買収するとなれば、通信市場全体が独占状態に陥りかねない。そのため、公取委の審議は慎重に行われた。買収を承認する条件とは下記の通りだ。
韓国公正取引委員会による、SKTのHanaro買収に対する是正措置
- SKTとHanaroは、情報通信部による認可の決定日から5年間、次の事項を順守すること
-
SKTは自身の移動電話サービス(系列会社による販売分も含め)を、Hanaroと結合商品(SKT系列会社との結合商品も含む)として提供する際、次のような行為を禁止する。
- 個別に利用できる有/無線通信サービスの提供を廃止/制限したり、結合商品のみ利用するようにしむける行為
- SKTおよびHanaroの各代理店をはじめとした流通網に、結合商品販売を強要すること
- 他の電気通信事業者が、SKTの移動電話サービスとの結合販売をしようと要請した場合、これを拒否する行為
- 他の電気通信事業者が、結合商品の共同提供を要請した場合、Hanaroに対するSKTの移動電話サービスの提供条件とは別に、不利な条件を提示する行為(系列社と非系列社とを差別することを禁止)
- SKTは自身の無線通信サービスを、他の電気通信事業者に対し販売してもらう目的で提供する場合、この取引条件をHanaroとは別途に、不利な条件で提供したり、拒否したりしてはいけない(系列社と非系列社とを差別することを禁止)
- SKTは他の電気通信事業者が800MHz周波数に対する共同使用(いわゆるローミング)を要請する場合、正当な理由がない限り、拒否しないこと
- SKTとHanaroは、上の1、2の各事項を誠実に履行し、その結果を四半期ごとに公正取引委員会に報告
- ただし2001年6月30日以降90日以内に、SKTおよびHanaroが上の1、2および3の是正命令の再検討を要請する場合、公取委は是正与件および関連市場の競争状況などを再検討し、上の是正措置のすべてもしくは一部を撤回・変更することもある
また周波数割り当てで競争を制限するようなことが発生しないよう、公取委は以下のような措置を情報通信部に要請した。
- 情報通信部は、SKTが持つ800MHz帯の利用期限である2011年6月30日が到来したら、これを回収し複数の電気通信事業者に公正に再割り当てを行う。
- 2011年6月末まで、情報通信部はSKTが現在独占使用している800MHz帯から余裕のある帯域を毎年末に回収し、SKT以外の電気通信事業者に公正に再割り当てを行う。
- 情報通信部は、800MHz帯の共同使用が実質的に可能となるよう、迅速に関連規定の制定と改定を行う。
上記条件の中で、SKTにとって一番厳しいのが800MHz帯に関する項目だろう。公取委の条件に従うとすれば、再割り当てのために2008年末にも一部の帯域を手放す必要がある。
これまでにも800MHz帯のローミングに関して、LG Telecom(以下、LGT)がSKTの独占状態を解くよう再三に渡って訴えてきた。しかし、800MHz帯へのこだわりが強いSKTは、一貫してこれを拒否してきた経緯がある。そのため、もし公取委の提案通り800MHz帯に関する条件を情報通信部が認めるとなれば、SKTは大きな譲歩を強いられることになる。
800MHz帯は「絶対に」渡さない
しかしSKTは、公取委の提案が出された後に、「これらの案は絶対に受け入れることはできない」という文書を発表している。もともと移動体通信用の周波数は、改定電波法により基本的には2011年まで現行のまま利用し、その後に再編することになっている。SKTは、改定電波法に従えばローミングは不可能であると主張する。
一方、800MHz帯の再割り当て、またはローミングを強く望むのがKTFとLGTだ。800MHz帯に対するこの2社の主張は、KTFが「再割り当てをするのが良い」、LGTが「すぐにでもローミングを実施すべき」というというスタンスだ。この2社に対しても、SKTは反論をしている。
SKTは、KTFの親会社であるKTグループが固定通信では最大手であり、KTこそ独占であると指摘する。「(SKTのHanaro買収は)結合販売を活性化させるだけでなく、既存の固定通信市場でKTの独占体制を緩和し、競争を促進する重要な出発点になる」と述べている。さらに固定通信事業者のHanaroを買収するのに、800MHz帯は別問題であるとも主張した。
また、800MHzのローミングを強く主張しているLGTに対しては「投資する余力を十分持っている」と切り捨てた。つまり、ローミングに頼らず基地局を自社で増やせばよいということだ。
SKTの態度は大変強固だが、かといってLGTやKTFも引き下がるわけにはいかない。800MHz争奪戦は、3社3様の見解がもつれあったまま、最終的に情報通信部の決定に委ねられる形となった。
情報通信部が突きつけた条件とは
2月20日、情報通信部は「SK TelecomのHanaro Telecom株式取得認可審査結果」を発表した。条件付きでSKTのHanaro買収は認可するというものだが、争点となっていた800MHz帯のローミングという条件は含まれなかった。情報通信部がSKTに対して提示した認可条件は、下記の通りだ。
情報通信部によるSKTのHanaro買収条件
- SKTとHanaroは共同で2010年までに、全国の農漁村地域に「情報化促進基本法」第2条第5の2号規定に基づく広帯域統合情報通信網の構築計画を、株式取得から60日以内に情報通信部長官に提出し、承認を得、これを履行しなければならない。また急速な事業環境の変化など、やむをえない理由でこれを変更する際は、変更理由、内容などを情報通信部長官に提出し、承認を得なければならない。
- SKTは自社の移動通信サービスを、他社に販売してもらうために提供する場合、これを非系列会社より先に、系列会社に提供してはいけない(非系列会社に先に提供しなければならない)。系列会社とは別に、販売条件や手続きおよび方法などの取引条件を、適当な理由なく不利なものにしたり拒否してはいけない(非系列会社に対して、差別的な行為をしてはいけない)。
- SKTは自身の移動通信サービスと、Hanaroの電気通信サービス、インターネットマルチメディア放送(IPTV)も含めた結合商品を販売する際、次のような行為を行ってはいけない。
- 消費者が個別的に加入したり利用できる、既存の有/無線電気通信サービスの提供を、廃止もしくは制限するといった方法で、結合商品だけを利用するよう強制する行為。
- SKTおよびHanaroの各代理店などといった流通網で、差別的な取引条件提示などを通じて、結合商品の販売を強制する行為。
- Hanaroなど系列会社を除外した別の電気通信事業者が、SKTによる結合商品に含まれているのと同じ形態の電気通信サービスを、SKTの移動通信サービスと結合販売しようと要請した場合、これを適当な理由なく拒否してはいけない。
- 他の電気通信事業者が、自社の商品を結合商品に組み入れることを要請した場合、SKTの移動通信サービス提供条件を、Hanaroとは別に、正当な理由なしに不利にする行為(非系列会社に対する差別を禁止)。
- SKTは無線インターネット市場などの公正競争促進および利用者利益の向上のため、次のような時事項を履行しなければならない。
- 無線インターネットサイト間の接続経路の差別化を避けるべく、無線インターネット接続体系の変更履行計画を、情報通信部長官が定めた手続きと方法に従って、これを命じられた日から60日以内に情報通信部長官に提出し、承認を得なければならない。
- 内部コンテンツ提供事業者(携帯電話事業者との契約を通じて携帯電話事業者のポータルでコンテンツを提供する事業者)と外部コンテンツ提供事業者(事業者とポータルサーバ契約を行って網開放事業者のポータルでコンテンツサービスを提供する事業者)に対し、料金制や課金方式などを、正当な理由なしに差別化してはいけない。
- HanaroのIPTVでSKTの無線網と系列社のメッセンジャー、ポータルサイトなどと連携した有・無線連動型サービスを提供する場合、類似した有・無線連動型サービスをIPTVで提供する目的で電気通信事業者がSKTの無線網との連動を要求した場合、正当な理由なしに拒否したり差別してはいけない。
- SKTは株式取得認可日から90日以内に、認可条件履行計画を作成し、情報通信部長官に提出。3年の間、半期ごとに認可条件の履行現況を報告しなければならない。情報通信部長官は、必要だと判断した場合、SKT、Hanaro、競合事業者、関係機関などの意見を聴取する場合もある
- 情報通信部長官は、市場での変化および市場競争状況などを考慮し、認可条件の全てもしくは一部を撤回したり変更することができる。SKTは株式取得認可日から3年が経過した時点で、90日以内に情報通信部長官に、認可条件を再検討してもらうことを要請できる。
ここを見ると分かる通り、800MHzに関する制限がない。これについて情報通信部は「(SKTがHanaroを買収するための)審査とは別に、電波法および電気通信事業法に従って、ローミングや周波数回収と再割り当て方案などを樹立、推進するのが好ましい」と述べている。つまり今回に限っていえば、800MHzのローミングや再割り当てなどを決めることはないという判断だ。
この理由について同部は「SKTの市場支配力は、800MHz帯を持つ効率性だけでなく、有線と無線の結合商品による競争力強化、流通網の共同活用、資金力などにもよるものだから」だと述べている。
その一方で、「周波数利用実績が低調な場合、または周波数帯域の整備を通じて利用効率を高める必要がある場合」(情報通信部)と、周波数の回収や再割り当てが可能であるという考えも明らかにした。ローミングに関しては、2008年上半期に同部が検討する意向を示しているので、KTFやLGTにも希望が残っている。
通信界に、「SK」「KT」「LG」という3強が誕生
SKTは条件付きとはいえ、800MHzを確保したままでHanaroを手に入れるという、当初の願いがかなった形となった。そうなると韓国の通信市場は、KT陣営(KT、KTFなど)、LG陣営(LG DACOM、LGTなど)、そしてSK陣営(Hanaro、SKTなど)といった3強の様相を呈してくる。とくに固定通信で1位のKTと、無線で1位のSKTの戦いは熾烈になるだろう。
KTはかねてから、もしSKTがHanaroを買収することになったら、KTFを合併するという見解を明らかにしており、いよいよKTグループ再編も現実味を増してきた。他社からも、何らかの動きが出てくるかもしれない。
再編されるのは民間だけではない。買収を認可した情報通信部は、2月25日に発足した新政権によってさまざまな政府機関に統廃合される。今後、“情報通信部”という政府機関はなくなるのだ。同部にとってSKTのHanaro買収問題は最後の大仕事だったわけだが、当事者には始まりに過ぎない。
また、公取委が意見した800MHzの扱いについて情報通信部は“別件”として取り入れなかった。そのため、2機関の間に少なからずひびが入ったとの見方もある。今後、通信関連の業務を情報通信部から受け継ぐ予定なのは「放送通信委員会」という組織だが、ここが通信事業者や関連機関との間を取り持ちながら、動きの速い携帯電話市場に対応する必要がある。しばらくは、重要な局面が続くことになるだろう。
政治的な話が続いたが、ユーザーは、SK陣営がどのような商品やマーケティングで市場を攻略してくるのかという部分に注目している。固定回線におけるKT独占状態は揺らぐのか、あるいはKTやLGが他社との提携を進めて束になって巻き返してくるのか。当分、韓国の通信市場から目を離すことはできないようだ。
佐々木朋美
プログラマーを経た後、雑誌、ネットなどでITを中心に執筆するライターに転身。現在、韓国はソウルにて活動中で、韓国に関する記事も多々。IT以外にも経済や女性誌関連記事も執筆するほか翻訳も行っている。
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