デモ機で検証する「WILLCOM D4」(後編)(2/2 ページ)
ウィルコムが“Atom搭載機で世界最速発売”を目指して投入するシャープ製の「WILLCOM D4」。本企画の後編では、ウィルコム端末としての使い勝手と、ノートPCとしての利便性を検証した。
ノートPCとしての使い勝手は
最後にノートPCとしての使い勝手にも触れておこう。トレンドになりつつある低価格UMPCでは、解像度が800×480ピクセルほどのディスプレイを採用する製品も多いが、D4のディスプレイの解像度は1024×600ピクセル。情報表示量が多いとは言い難いが、縦の解像度が600ピクセルあるため、設定画面などが表示しきれずに「OK」や「キャンセル」ボタンが押せないといったトラブルは発生しない。
Webブラウジングも、今時のWebサイトは800×600ピクセル、もしくは1024×768ピクセルのディスプレイを最低解像度に想定していることが多いが、横の解像度はこれを満たすため、ITmediaのような3列構成のWebサイトでも違和感のない表示が可能だ。ディスプレイ右に配置されたポインティングデバイスも、パッドとして認識されるエリアがかなり広く確保されており、両手持ちで利用するポインティングデバイスとしての出来は悪くない。
発表会当日のITmedia +D Mobileのトップページを表示したところ。Windows Vistaやブラウザの設定は標準のままだが、無理ない表示になっているのが分かる。ディスプレイ右側はかなり広い面積をパッドとして利用できる。指紋が付きやすいのがちょっと気になった
パフォーマンスと動作音については、現時点では言及を避けたい。発表会で公開されたデモ機はチューニング過程にあり、ファンも常時全開で動いているとの説明を受けた。一応、パフォーマンスの目安になるであろうWindowsエクスペリエンスインデックスはPCUSERのリポートでもすでに公開されているが、グラフィックスやHDDのスコアは意外と思えるほど高い。またWebブラウザを利用しても、プリインストールされるオフィス2007を起動しても、特にストレスを感じることはなかった。“外部ディスプレイとキーボードを接続し、高解像度でメインPCとして使う”のなら話は別だが、モバイルノートPCとしては、デモ機の段階でも十分に実用的なパフォーマンスを発揮していると感じた。
Windowsエクスペリエンスインデックスは最低のサブスコアこそ1.8と低いが、CPUとメモリを除けばWindows Aeroを利用するための基準をほぼ満たす。Windows Vista Home Premiumがインストールされているので当たり前という気がしないでもないが、少なくとも筆者の予想よりはずっと高いスコアだった
まとめ
かなりネガティブなことも書いてしまった気がするが、音声端末としてW-ZERO3シリーズと比較するとかなり後退した部分は多い。もちろん音声端末としての利用を期待しない層も多いとは思うが、初代W-ZERO3の延長線上の端末を期待していた層がいるのもまた事実だろう。Windows Vistaの起動中しか音声端末として機能しないのは、正直なところ中途半歩すぎる気がする。少なくとも移動中に音声の待ち受け用に利用する気にはならない。ただ、現時点でははっきりしていないバッテリーの駆動時間次第では、この評価も少し変わってくるかもしれない。
UMPCとしてみると魅力は多いが、価格設定はかなり微妙だ。ウィルコムストアでの新規購入価格は12万8600円で、W-VALUE SELECT(2年間のウィルコム端末としての継続利用)で購入すると、実質価格は9万200円になる。例えば重量面でほど近い富士通 「LOOX U」、ソニー「VAIO Type U」などと比較しても価格競争力は十分にあり、質感という点でも負けない。特にW-VALUE SELECTで分割払いを選択した場合の頭金は3万9800円で済み、初期導入コストを低く抑えられる点は魅力になる。
一方、トレンドになりつつある海外ベンダー製が中心の低価格UMPCと比較すると、価格面の見劣りも感じる。それぞれ重さもコンセプトもD4とは異なる面もあるが、同じ1024×600ドットディスプレイを採用したGIGABYTE M704が7万9800円、8.9インチで1024×600ピクセルディスプレイを搭載し、内蔵SSDを12Gバイトに増強したASUSTek EeePC 900も発表済みで、好評の現行モデルから価格が大きく上昇することもないとされている。これが6〜7万円で販売されたとしたら、かなりの脅威だ。M704は両手親指打ちが、EeePC 900は通常スタイルのタイピングが前提になるが、どちらかで十分な人にとっては魅力が大きい。安価なインターネット端末という意味で、これらのデバイスとD4を比較する人も多いはずだ。
もちろんここに挙げたライバルたちは、D4のように屋外や移動中でも利用できるインターネット接続機能を内蔵しておらず、プッシュでEメールを受信できるわけでもない。音声通話機能もしかりだ。だからこそ、D4にはもっと魅力的なウィルコム端末としての機能を搭載してほしかったと思うのだが、現時点で得られる情報から判断する限り、ウィルコム端末としての魅力は中途半端になってしまった感もぬぐえない。
筆者は詳細な説明を受けるまで、D4が音声端末としてもう少し便利に使えると思っていた。例えば、オプションのBluetoothハンドセットを使えば、Windows Vistaが起動していなくても通話には使えると思っていた。W-SIMを使った音声通話機能が独立したハードウェアとして実装されていれば不可能ではなく、PCとしての利用ができなくなったバッテリー残量でも、いくらかは音声の待受や通話に使えると思っていたのだ。また、D4本体だけで通話ができるとも思っていた。もちろん、これは筆者が「ウィルコム端末としてのD4」に期待をしすぎていたからだということは否定しない。
ポジティブな話としては、発表会において2009年に登場予定の次世代PHSへの対応も、何らかの形でサポートするという発言があったことだ。対応がW-SIMの交換という形で提供されるのか、別途USBモジュールのような形で提供されるのかは分からないが、少なくとも導入コストを抑えるためにW-VALUE SELECTの分割払いで購入しても、次世代PHSのサービス開始時に指をくわえて4xパケットで我慢するようなことにはならずに済みそうだ。おそらく無償というわけにはいかないと思うが、それなりにリーズナブルな形で次世代PHSへのアップグレードパスが提供されるのだろう。1年以上は先である次世代システムへの対応を明言した点は大いに評価できる。
今はともあれ、バッテリーの駆動時間の公開を待ちたい。バッテリーの持ち次第でウィルコム端末としてもUMPCとしても大きく評価が分かれそうだ。
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