第21回 今年の夏モデルはスポーツ、防水、女性で“夏らしさ”を演出:小牟田啓博のD-room
数々の端末を世に送り出してきたデザインプロデューサーの小牟田啓博氏が、日常で感じたこと、経験したことを書き綴る「小牟田啓博のD-room」。各社の“夏モデル”が勢ぞろいする中、小牟田氏が魅力を感じたモデルとは?
毎年この時季は、各キャリアの夏モデル発表ラッシュ。5月27日にはNTTドコモが、そして6月3日にはau(KDDI)とソフトバンクモバイルが、示し合わせたかのように同じ日に発表会を行いました。
auとソフトバンクから発表された夏モデルは、文字通り“夏らしさ”を感じさせるものが多く、auは“スポーツ”、ソフトバンクは“防水と女性”という、テーマが明快だったように感じました。
梅雨真っ盛りの中、今回は今年の夏モデルにスポットを当ててお話ししたいと思います。
夏らしさが薄かったドコモだけどSH906iは可能性に期待大!
まずはドコモです。ほかの2社と比べて早い発表で、とくに季節感を打ち出したわけではありませんが、全体的に高品質感で統一されたイメージのデザインが取りそろえられている気がします。
ただ全体では、ドコモらしさが見られるデザインではあるものの、新鮮さやオリジナリティーといった観点では、ちょっとパンチに欠ける印象は否めません。
個性的というよりは、粒ぞろい! そんなイメージのラインアップとでもいいましょうか。もちろん、個々のモデルを見てみると相当質感に意識が行き渡っていますし、完成度は高いと思えるのですが、どうも機種変更したい! と思わせるまでのメッセージは薄いかなという印象を受けました。
そんな中、「SH906i」には技術面で今後の可能性に期待できそうです。デザインという意味ではもう少し先進性があってもいい気がしますけど、タッチパネル操作などインタフェースを含めた今後の展開と可能性に、大い想像が膨らみます。
一方のau。僕が魅力を感じたのは「Sportio」と「G'zOne W62CA」、それから「フルチェンケータイ re」です。
Sportioは日本では当たり前となっているキー配列に対して、ものの見事に当たり前を崩すことに挑戦してきたモデルだといえるでしょう。まぁ、それは手段だったとしても、“デザイン面からプロポーションにオリジナリティーを持たせたい”という強いメッセージが込められています。
各社のメインモデルが軒並み“ザ・ニッポンのケータイ然”とした印象であるのに対して、アンチテーゼとして、デザインプロポーションから切り込んできたところを評価したいと思います。
さらにスポーツをテーマにしたモデルらしいカラーリングも大きな魅力の1つでしょう。GUI(グラフィックユーザーインタフェース)もカラフルというわけではなさそうですけど、シンプルでクリーンなインタフェースデザインに仕上がっています。
でも、やっぱりキーを小さくして狭いエリアに配置したことで、デザイン的な特徴は出たものの操作性が著しくダウンしてしまった感があるのは残念です。このあたりの割り切りこそがデザインの魅力に変えたい、というメッセージなのでしょうけどね。
それから、このモデルの最大の特徴がスポーツというコンセプト。このコンセプトを引き立たせる演出として、アディダス ジャパンとのコラボレーションという手法が用いられています。アディダスのオリジナルケースは、当たり前だけどスポーティーでなかなかの出来。合わせてGUIもスポーツをイメージさせるデザインで魅力的です。
auはフルカスタムという、やりたくてもできなかった新コンセプト
G'zOne W62CAは、のG-SHOCKテイストから少し離れてモダンデザインに近づいてはいるものの、タフネスというイメージはしっかりと踏襲していて、G'zOneファンがどう評価するのかが楽しみなモデルです。
もちろん、G'zOneファンでない人にとってみても、年輪を重ねた分の熟成感は伝わるのではないかと思っています。
カシオ計算機のデザインらしいしっかりとした質感と、各ポイントに利かせたアクセントのカラーの主張、部分部分に採用された金属パーツなど、質感の追求に対する深いこだわりは、いつのモデルであってもカシオ端末としての存在感を放っています。
あとはこれに、カシオモデルらしいインタフェースのデザインセンスと操作感が満たされていれば素晴らしいなと思います。
auからもう1つ注目したいモデルがフルチェンケータイ reです。着せ替えパネルを使ってカスタムできるモデルは今までも多々ありましたし、長い歴史もあります(……といっても10年も経っていませんけど)。
“外装パーツのフルカスタム”というアイデア自体は新しいわけでもなく、むしろやりたくてもできない事情の方が多かったわけです。それは外装パーツを交換することによる本体設計の制約条件や販売サイドの物流管理、個々のパーツの数量管理の問題などなど、ちょっと考えただけでも実に多くの課題がイメージできてしまうからです。
そんな中、auがサービスとしての展開に踏み切った、その決断力が僕はとても素晴らしいと思います。製造サイド、調達サイド、販売サイド、運営サイド……、いろいろな方々の反対意見や抵抗がたくさん出てきたと思うのです。インタフェースまで含めたカスタマイズの実現に踏み切ったという、これはただただすごいことです。
半面、デザインという視点で見ると、ベースデザインのボディカラーがブラックだけというのがちょっと気になりました。本体のメインシャシーは共通で、外観部品だけで色変更をしていると見ると、どうしても効率化のための企画に受け取れてしまって、とてももったいないと感じるのです。
僕としてはフルチェンをうたうのであれば、本体カラーも豊富にそろったバリエーションから選んでもらった方が、効果的で世界観も遥かに広がると思います。
このフルチェンケータイという企画サービスが、今後もauから続けて提供されるのであれば、本当の意味でのカスタマイズを楽しめるサービスとして日々進化してくれるといいなと思っています。
ソフトバンクは女性がどんなシーンでも使い倒せる防水モデル
端末デザインの魅力という意味で、今回の夏モデルの中で一番元気を感じさせてくれたのがソフトバンクでした。
女性に対するメッセージとして、スタンダードな中にも個性の光るモデルが多く見受けられます。
とくに、「THE PREMIUM WATERPROOF 824SH」と「TROPICAL 823P」の2機種による防水モデルが象徴的でした。
防水ケータイといえば、前述したカシオ計算機のG'zOneに代表されるタフなイメージが先行していたと思います。ただでさえケータイ本体を薄くコンパクトに設計するには難しい技術が必要なのに、ファンクションとして防水を付け加えることで、防水機構が追加された分だけ本体サイズがどうしても大きくなってしまうものなのです。
そんな中、上記の2機種は普通のケータイとして魅力的なサイズでありながら、スタンダードなデザインに仕上げていて、なおかつしっかりと防水を実現しています。THE PREMIUM WATERPROOF 824SHでは上質でエレガントなElegant Lineと、カラフルでアクティブなActive Lineという2つのデザインラインを持つ、計11色の豊富なカラーバリエーションが特徴です。さらに、高品位な金属パーツやリッチな表面処理でまとめあげています。
このモデルはTHE PREMIUMシリーズに防水機能が付加されたものですが、その名の通り上質さと、普遍性すら感じさせるシンプルな美しさと、その美しさからくる強さをまとったデザインが印象的です。また、さまざまな展開のカラーバリエーションも、端末をひきたたせる要因と考えられます。
一方のTROPICAL 823Pは、ひと目で分かる元気なカラーリングが特徴です。装飾的な要素を排除したシンプルなスタイリングをベースにして、目を引く強い色をダブルモールド(2色成型)技術でクリア樹脂を巧みに使い、夏に相応しい瑞々しさのあるデザインに仕上がっています。
プールやビーチといったアウトドアシーンはもちろん、パウダールームやシャワールームなど、日常の利用シーンで水に濡れても安心ということなので、使って使って使い倒してもらえるといいですよね。
どんなときでもべったりと付き合えるケータイ。まさに若い女性には嬉しいモデルではないでしょうか。
あとはスタンダードなところで「MIRRORII 824P」にも触れてみたいと思います。「MIRROR 821P」と同じ全面ミラーパネルによるデザインですが、先代モデルと比較して若干ではあるけどスリムなデザインになっていることが特徴です。
細部の造形処理が巧みにスリムさを演出していて、さらにミラーパネルにカッティングラインを入れることで、本体をスリムに見せています。そしてそのミラーパネルの表面処理が、サングラスのような引き締まった印象を与え、上質さの演出に一役買っています。 ミラーパネルというデザインで大きく印象付けているモデルではありますが、表面処理とディテールの緻密な完成度は、デザイナーのこだわりの部分として非常に評価できる1台と言えるでしょう。
今回は各キャリアから発表された夏モデルの中から、僕なりに魅力を感じたモデルをいくつかピックアップしてみました。
実はこの原稿を書いているとき、ソフトバンクモバイルから「iPhone 3G」を7月11日に発売予定というニュースが飛び込んできてビックリしました。
このニュースについては、いずれ機会をみてしっかり追いかけてみたいと思いますので、みなさんそれまで楽しみにしていてくださいね。
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PROFILE 小牟田啓博(こむたよしひろ)
1991年カシオ計算機デザインセンター入社。2001年KDDIに移籍し、「au design project」を立ち上げ、デザインディレクションを通じて同社の携帯電話事業に貢献。2006年幅広い領域に対するデザイン・ブランドコンサルティングの実現を目指してKom&Co.を設立。日々の出来事をつづったブログ小牟田啓博の「日々是好日」も公開中。国立京都工芸繊維大学特任准教授。
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