Windows Mobileへのこだわりはないが、期待はしている――WILLCOM 03の今後:開発陣に聞く「WILLCOM 03」 第3回
“W-ZERO3シリーズの集大成”として登場したウィルコムのシャープ製スマートフォン「WILLCOM 03」。果たして、今後はどのように進化するのだろうか。採用OSやUIの展望について、開発担当者に聞いた。
W-ZERO3シリーズの生みの親、ウィルコム サービス計画部課長の須永康弘氏に聞く「WILLCOM 03」の開発ストーリー。スマートフォンだけでなくケータイ全体の課題であるユーザーインタフェース(UI)への取り組みと、同社のスマートフォンや端末が今後どのように進化するのかを聞いた。
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Windows Mobileへのこだわりはない
WILLCOM 03は、OSにWindows Mobile 6.1 Classic 日本語版を採用している。かつてのWindows Mobile端末は、PCのWindowsと同じようにどれもMicrosoft製の標準的な画面デザインを使っていた。多少のカスタマイズは行えたが、根本的な使い勝手は変わることがなかった。
しかし最近は、キャリアやメーカーが独自のメニュー画面をプリセットする例が増えてきた。HTCが「HTC Touch」(NTTドコモのHT1100、イー・モバイルのEMONSTER liteのベース機)で採用した“HTC Home”や“TouchFLO”、Samsung電子が「OMNIA」に搭載した“TouchWiz UI”などだ。
ウィルコムも、「Advanced/W-ZERO3[es]」からオリジナルメニュー画面を用意するようになった。ケータイのようにアイコンがタイル状にならぶ「Standard」と、ヤッパが開発した3Dデザインの「Roller」という2種類のホームメニューを端末アップデートで提供したのだ。
WILLCOM 03では、アプリの立ち上げだけでなく、インターネット上のサービスにワンタッチでアクセスできるなど、さらに多機能になったホームメニューをプリセットしている。
「正直なところ、Advanced/W-ZERO3[es]のホームメニューはあまり評判が良くありませんでした。ヤッパさんは、常にいろいろな提案をしてくれるパートナーです。いろいろな意見をいただいて、我々も多くのフィードバックを返しました。まだまだ煮詰め足りない部分もあるが、理想に近いメニュー画面を作れたと思います」(須永氏)
ウィルコムがケータイのようなメニュー画面の開発に力を入れているのは、片手での操作にこだわっているからだ。ケータイは、片手操作に対する操作性が完成されているが、スマートフォンはまだまだという印象が強い。その理由は、少し前までスタイラスペンを使った両手操作を前提としたからだと須永氏は言う。
「絵を描きたいとか、手書き入力したいとかは別として、たいていの操作はスタイラスペンなしで行えるようにしたい。そのためにはWindows Mobile標準のUIでは難しい面もあり、独自のメニュー画面で補完する必要があります。そのメニュー画面も、ただのランチャーではなく、さまざまなサービスと直結するものを目指しています」(須永氏)
Windows Mobileを使いながら、そのUIから少しづつ独立し始めたスマートフォン。WILLCOM 03には、それを象徴するような“ある違い”があるという。
「Windows Mobileを採用する端末は、Windowsのマークが入ったスタートキーが必須なのですが、WILLCOM 03にはそれがありません。実際にはイルミネーションキーに割り当てられていますが、物理的なものはないのです」(須永氏)
スタートキーについての条件を課していたMicrosoft側は、当初この仕様に難色を示したという。須永氏は試作段階のWILLCOM 03を手にMicrosoft本社を訪れ、“こういうUI(イルミネーションキー)を実現したいが、物理的なスタートキーを置く場所はない”と説得。渋々了承してもらったという。
WILLCOM 03やW-ZERO3シリーズは、PHSの通信機能をモジュール化した「W-SIM」を内蔵している。Windows MobileにはGSM/3G通信規格をサポートする“Standard”“Professional”というエディションもあるが、PHSはサポート外。そのためウィルコムは、PDA用のClassicエディションを採用しPHSの通信と通話にかかわるソフトはウィルコムが開発した
それではなぜウィルコムは、UIに難があると言わざるを得ないWindows Mobileを使うのだろうか。須永氏は、トータルでの開発コストの低さを理由に挙げる。
「さまざまな要因がありますが、Windows MobileはほかのケータイOSと比べても圧倒的に安い。OSとしてベースがしっかりできていますので、ソフトウェアが作りやすく、検証環境も比較的簡単に用意できます。そのため、WILLCOM 03に搭載したソフトの多くがウィルコム製です。ソフト開発をすべて端末メーカーに依頼すると、膨大な開発費が必要になりますが、Windows Mobileならば自前で用意できます。メーカーとキャリアが別ラインでアプリを開発し、最後に統合できるのはWindows Mobileだからこそ。このフレキシビリティやスケーラビリティの高さがポイントです」(須永氏)
柔軟な開発体制が取れるWindows Mobileだが、高解像度なフルワイドVGAディスプレイや非接触ICカードなど、日本でいち早く普及したハイエンドな機能には対応が遅れがちだ。この点について須永氏は、「我々は『Windows Mobileへのこだわりはない』とMicrosoftさん側に伝えてあります。代わりにいいものが出てきたら、いつでも乗り換えるでしょう。高解像度ディスプレイや非接触ICはいずれ世界中に広がる技術。Microsoftさんもそのことは理解はしていると思いますので、Windows Mobileに対するサポートを今以上に厚くしてほしいですね。こだわってはいませんが、非常に期待しています」と語った。
ウィルコム端末の多機能化はさらに進むのか
W-ZERO3[es]やAdvanced/W-ZERO3[es]は外付け機器で対応していたワンセグだが、WILLCOM 03はウィルコム端末で初めて内蔵した。またウィルコムは、FeliCaを搭載した端末を2008年度末までに発売すると告知しており、モバイルSuicaとEdy、QUICPayへの対応を発表している。ウィルコム端末もケータイ同様に多機能化が進むのだろうか。
「ワンセグやFeliCaなど、ケータイであたりまえになっている機能は、音声端末はもちろんスマートフォンでも対応していきたいですね。先ほども触れたとおり、ワンセグやFeliCaは日本独自の規格かもしれませんが、モバイル放送や非接触決済はいずれ世界的に普及するでしょう。日本のケータイは進化を止めるわけにはいきません。今止まれば、海外メーカーに追い落とされるのではないでしょうか。
我々が2005年に発売したW-ZERO3は、3.7インチという大きなディスプレイを搭載しており“ケータイとは別物”という扱いでした。しかし今や3インチのディスプレイを持つ音声端末が数多く登場し、3.5インチディスプレイを採用したモデルすらあります。ディスプレイの大型化はひと段落すると思いますが、ほかの技術の進化はとどまることがないでしょう」(須永氏)
スマートフォンだけでなく、ケータイ全体の進化も視野に入れて開発されたWILLCOM 03。これまでのW-ZERO3シリーズで挙げられていた多くの不満点を改善したモデルだが、気になるのは“集大成”というキーワードだ。「WILLCOM D4」という新機軸の製品を打ち出したこともあり、集大成であるWILLCOM 03を持って、ウィルコムはスマートフォン開発のペースを落としてしまうのだろうか。
「そんなことはありません。WILLCOM 03の“集大成”とは“完結”を意味するものではなく、新しいスタートを切るためのものです。これまでお話してきたように、WILLCOM 03はW-ZERO3シリーズとはちょっと違ったスタンスで開発しました。また、想定するユーザー層も広げ、端末の出荷台数も増やすなど、ビジネス規模を一回り大きくしました。我々の持つスマートフォンのDNAを残し、ブランドを転換して次なる競争に備える、そのための集大成なのです」(須永氏)
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