“LiMo仕様でiPhone的なもの”も実現できる――「ACCESS Linux Platform v3.0」:ACCESS DAY 2008
2009年2月に創立25周年を迎えるACCESSが、携帯電話向けアプリケーションプラットフォームの「ALP」を刷新。LiMo仕様に対応し、ドコモのオペレーターパックをサポートするなど、オープンプラットフォーム化を意識したものへと進化させた。“iPhone”的なタッチ操作が可能なLinuxケータイの開発も可能になるという。
専門メディアのみならず新聞などでもAndroidやSymbianの動きが報道されるなど、今や携帯電話のプラットフォームのオープン化は、広く注目を集める世界的な趨勢だ。Webブラウザ「NetFront」シリーズを初めとする多数の携帯電話向けソフトウェアを手がけてきたACCESSで取締役副社長兼CTOを務める鎌田富久氏は、20日に開催された「ACCESS DAY」で、同日発表した「ACCESS Linux Platform v3.0」を中心とする同社のプラットフォーム戦略について説明した。
“増築”の機能拡張に限界、ソフト構造を“仕切り直し”
「(ACCESSは)『すべての機器をネットにつなぐ』というビジョンで25年やってきた」という鎌田氏は、プラットフォームの重要性が注目されるようになった背景を次のように解説する。iモードが始まった当初は、限られたネットワーク帯域と端末の処理性能の中でどのようにサービスを展開するかが課題だったため、テキストや白黒画像など比較的小容量のコンテンツを、いかに小さな軽いソフトウェアで表示できるかが求められていた。その後、帯域や処理性能の向上に合わせて、当初のソフトウェアにその都度“増築”を重ねることで、端末は新しいコンテンツに対応していった。しかし、動画などの大容量コンテンツや、JavaScriptを多用したWebサービスなどが携帯電話の世界に入って来るとともに、最近では家電など他の機器との連携も求められるようになり、増築による機能拡張は既に限界に近づいている。
この状況に対して、増築式のソフト構造を仕切り直し、OS、ミドルウェア、ブラウザなどのアプリケーションソフトを統合的に提供することで「端末側の土台をしっかりさせる」(鎌田氏)のが、ACCESS Linux Platform(以下ALP)の狙いだ。特に、この日発表されたバージョン3.0では(1)タッチ操作などの新たなユーザーインタフェース(UI)の搭載、(2)NTTドコモなどの「オペレーターパック」への対応、(3)LiMo仕様への対応――といった重要なアップデートが行われている。
まず、機能面で大きな進化となる(1)については、iPhoneに代表されるタッチ操作式の高機能携帯電話を想定したもので、画面上で指をすべらせて行うスクロール操作などの機能が提供される。また、待受画面上にブラウザのブックマークや小さなアプリケーションを貼り付ける「Widgets(ウィジェット)」機能に対応したのも特徴だ。
講演の中で鎌田氏は、米Texas Instruments(TI)の「OMAP3430」を搭載した開発ボード上で動作する、ALP 3.0のUIのデモを公開。待受画面上にカレンダーや天気予報といったウィジェットを次々と呼び出し、指先で触れると好きな場所に移動させることができる。待受画面自体を複数持つことも可能で、壁紙部分で指をすべらせると画面全体がスクロールして別の待受画面が現れる。ブラウザのブックマークはWebページのサムネイルとして表示され、このサムネイルを待受画面に配置することも可能。画面上のスライドバーを動かすとWebページの表示を拡大することもできる。いずれの機能も先発のスマートフォンを強く意識しているようで、実際に鎌田氏も「“iPhone的なものをやりたければできる”という選択肢を用意するということが、プラットフォームとしては重要」と述べている。
WidgetsはHTML+CSS+JavaScriptというWeb標準の技術で作られているので、デバイスを問わずに同じコンテンツ利用できる。PC上の開発画面、セットトップボックスを接続したテレビ、Windows Mobile端末上で、ほぼ同じ表示結果を得られている。同社のWidgetsプラットフォームはこのほかWILLCOM 9やNokia S60などにも対応している
機能強化のうち(2)と(3)については、ソフトウェアの構造に関するものになる。(2)のオペレーターパックは、携帯電話に搭載されるソフトウェアのうち、特定のオペレータ(携帯電話事業者)に向けた機能だけを切り分けて取り出したものだ。これにより、従来国内向けにしか携帯電話を作れなかった日本のメーカーも、オペレーターバック部分を海外オペレータ用に交換するだけで海外向け製品として提供することが可能になる。逆に海外メーカーが日本向け端末の開発を開発する場合にも、自社製品にドコモ用オペレーターパックを追加することで、キャリア独自のサービスをサポートできる。オペレーターパックの仕組みを最初に導入するのはフランスの大手携帯電話事業者・Orangeと、日本のドコモになる。ドコモは、オペレーターパック採用機種は2009年後半から投入していく予定だ。
また(3)は、ドコモ、NEC、パナソニックモバイルコミュニケーションズなどが参画する携帯電話用Linuxの標準化団体「LiMo Foundation」が定める仕様をサポートしたという内容。LiMoはSymbian、Androidと並ぶオープン系携帯OSの有力陣営と見られており、ALPがLiMoに正式対応したことで、世界中のサードパーティが開発するアプリケーションが、ALPを搭載した携帯電話で(技術的には)動作可能になる。
4つのアプリケーションの実行環境を用意
ACCESSはもともと、2005年に設立した携帯電話向けLinuxの推進団体「Linux Phone Standard Forum」(LiPS)において、Orangeらと携帯Linuxの標準化作業を行っており、その後LiPSがLiMoに合流したという経緯がある。Orangeとドコモがオペレーターパックで先行し、また今回LiMo仕様をサポートしたことには、このような背景がある。
また、ALPのベースとなっているOSは、かつてPalm OSだった「Garnet OS」の流れを汲んでおり、現在でもPalm OS用に開発されたアプリケーションが実行できる。つまり、ALPにおいては、ALPネイティブアプリ、Garnet OSアプリ、Javaアプリ、そしてWidgetsという4つのアプリケーション実行環境が用意されていることになる。鎌田氏は「Androidが、今のところGoogleの用意した仮想マシン向けにプログラムを書かなければいけないのに比べると、ALPはCのプログラムを載せやすく、(このような携帯電話向けプラットフォームは)いまのところあまり他にない」と話し、ネイティブアプリが作れるのは、同じLinuxをカーネルに採用したAndroidに対して有利な点であり、Linuxに慣れた開発者からは支持を得やすいとしている。
その他の業界動向として、自社でコンテンツサービス「Ovi」を立ち上げたNokiaの動きや、iPhoneなどについて「ある意味で、オペレーターのサービスがバンドルされていないプラットフォーム」(鎌田氏)の登場であると分析。オープン化の流れの中では必要なラインナップとして一定の評価をするが、オペレーターから見ればネットワークを使われるだけで「サービス収入には寄与しないため、あまりこれに喰われてしまうと収益が減ってしまう」(同)と指摘する。そして共存していくには、オペレーターのサービスとの端末独自のサービスの両方を展開できるオペレーターパックのような形が、今後のトレンドになると予想している。
また、昨今スマートフォンやAndroidが話題に挙がることが多いのは「PCのダウンサイジングの流れ」(同)であり、これに対してACCESSはあくまでも携帯電話が進化することでインターネットデバイスの主役になるとの考え方で、想定するデバイスのサイズなどは近いが、発想の出発点が違うと主張。日本では、携帯電話のユーザー層とインターネットのユーザー層がほぼ重なっているが、世界的に見るとこの2つの市場は「そんなにオーバーラップしていない」(同)と見ており、今後10年でインターネットに接続される機器は世界人口を上回る100億台以上になると予想。そのとき、インターネットサービスが展開される主戦場はPCではなく、携帯電話の発展系デバイスの上にあり、ALPはそんな時代を見据えたプラットフォームであるとアピールした。
鎌田氏は、AndroidやWindows MobileがPCの小型化の流れにあるのに対し、ACCESSの原点はあくまで携帯電話だと主張。Symbianを採用するNokiaのプラットフォームに対しては、ALPのほうがより高機能な機種を想定していると違いを強調した。ミドルレンジ以下の機種には、ALPの4分の1程度のメモリ容量で動作する「ACCESS Linux Platform mini」を用意している
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