ネットワークの高速化で、端末・サービスはこう変わる――ドコモの辻村氏:CEATEC JAPAN 2008
「量的には成熟期を迎えたが、質的にはまだまだ進化する」――。こう話すのはドコモで副社長を務める辻村清行氏だ。CEATECの講演では同氏が、HSPAやLTEの導入で端末やサービスがどのように変わるかに言及した。
「量的には成熟期を迎えたが、質的にはまだまだ進化する」――。CEATEC JAPANの基調講演に立ったドコモ 副社長の辻村清行氏は、日本の携帯電話市場の今後をこんな言葉で言い表した。
日本の携帯電話市場は契約数が1億を超えるなど、数の上では飽和しているが、その90%がモバイルインターネットを利用し、80%が3Gに移行しているなど、世界でもまれに見る先進性のある市場といわれている。
ドコモは2009年にも上りを5.7Mbpsに高速化するHSUPAを、2010年度には下り100Mbps以上という光通信なみのモバイルネットワークインフラを導入する計画で、辻村氏は、こうしたインフラの高速化がサービスの多様化を促し、携帯の質的な進化を生むという見方を示した。
同氏は講演で、携帯市場の進化は(1)ブロードバンド化(2)リアルとサイバーの融合(3)グローバル化 が軸になり、それを表すキーワードは「インターネットのケータイ化」であるという、従来の考えを再度強調し、こうした進化がもたらす変化について言及した。
通信の高速化で端末はシンクライアント化、動画のCGMも活性化
通信速度の高速化による変化の一例として辻村氏が挙げるのが、動画CGMの活性化だ。下り3.6Mbpsの通信速度を実現している現在は、動画をダウンロードして視聴したり、ストリーミングで楽しむという新たな利用シーンが生まれている。
今後、ネットワークがHSUPA化、LTE化すると上りが高速化し、ケータイで撮影した動画のアップロードが1つのトレンドになると辻村氏は予測する。
「ネットワークが高速化すれば、重要なイベントや事故などに遭遇した人が、その場でケータイカメラで撮った動画をサーバにアップできるようになる。多くの人が、さまざまななシチュエーションでリアルタイムな情報をアップするようになると、例えば外出前に、“混雑 新宿”と検索すると、今の新宿の混雑状況を動画で確認できるようなCGM的な流れができる。これがインターネットのパワーであり、(携帯の持つ特性が、インターネットをさらに進化させる)インターネットのケータイ化といえる」(辻村氏)
もう1つの例として挙げるのが、携帯電話のシンクライアント化だ。LTEを導入すると、端末とネットワークを結ぶパイプが太くなるとともに、遅延も少なくなることから、これまで端末側でまかなっていたデータの蓄積やCPUを使った処理のかなりの部分をサーバ側で処理できるようになるという。サーバ側に情報を預けられるようになれば、例えば端末内の電話帳をサーバ側に置くような使い方も可能になり、セキュリティ面でも安心して使えるようになる。動画や静止画もしかりだ。
「重要な情報はサーバに預けて必要なときに見る――というように、ケータイ端末側は入出力だけにチューニングしたようなシンクライアントになる。スピードが速く遅延がないので、さほどストレスなく端末内データと同じような感覚でストレージのメモリを使えるようになる。端末側の負荷とロード、サーバ側のロードとのバランスが、LTEという太くて遅延の少ないパイプでつながることで変わってくる。ケータイ側からサーバ側に負荷が移っていくだろう」(辻村氏)。それに伴い、ケータイ端末側も出入力機能をチューニングする方向に進化するとし、進化の方向性がこれまでとは変わってくると予測する。
辻村氏はさらに、最近、法整備が進みつつあるフェムトセルにも言及。マンションの高層階や地下などの電波の届きにくい場所向けに提供する方向で準備を進めているとした。「電波が届きにくい場所には、フェムトを置いていただき、フェムトとコアネットワークを結ぶ回線は、ドコモが提供するのではなく、家庭やオフィスにある固定のブロードバンド回線を使ってもらう。LTEの高速化とデッドスポットをなくすためのフェムト化が、これからの重要な要素になる」(辻村氏)
エージェントケータイの導入で、リアルとサイバーの融合を加速
リアルとサイバーの融合については、同社の山田隆持社長が導入を予告している「エージェントケータイ」のサービスイメージに触れ、ユーザーにもたらす利便性の一端を紹介した。
エージェントケータイは、サーバにエージェント機能を持たせ、ユーザーに必要な情報をケータイに配信するサービスだ。例えば通勤経路をエージェントに登録すると、通勤経路の交通機関で事故が起こり、ダイヤが乱れたときには、その情報がケータイに配信される――といったサービスが可能になる。「会社を出る時間を変更するなど、サイバーからの情報で自分の(現実世界の)行動を変えられる。秘書代わりに使える機能」(辻村氏)
ほかにもDVDの返却日前日に自動で通知したり、サーバ上の電話帳に登録した飲食店の営業時間の変更を通知したりといった活用シーンが考えられるという。「リアルの行動をサポートするエージェントサービスができるだろうと考えており、早晩、こうしたサービスを提供したいと考えている」(同)
さらにもう1つの取り組みとして、テレビ、PC、ケータイという、3つの主要な“情報の窓”をシームレスにつなぐ融合サービスを検討していることを明らかにした。「この3つの窓を、どうすればシームレスにつなぐことができ、いろいろな画面をストレスを感じさせることなく自由に使ってもらえるのか。ここでケータイが1つのキーにならないかということで、融合サービスについても検討を進めている」(辻村氏)
オープンOS+グローバルアプリ端末は来年後半に登場
グローバル化への取り組みについては、世界的なトレンドとして注目を集めるオープンOSへのドコモとしてのアプローチを説明した。
携帯電話向けプラットフォームは、共通化とオープン化の動きが加速しており、ドコモもこのトレンドに同調して端末開発を進める方針だ。
その理由として挙げるのは、端末の高機能化に伴うソフトウェア開発コストの高騰で、1999年時点のソフトウェアを1とすると、2006年時点のソフトウェア量は30倍に増えたという。開発にかかるコストや手間を軽減するための1つの策が、オープンOSの採用というわけだ。
携帯電話向けのオープン系OSは、基盤となるOSの上に、グローバルキャリアに対応したアプリケーションが載った構成になっており、おサイフケータイやiモードなどのドコモ固有のサービス部分はドコモのオペレーターパックを搭載することで対応できる。
採用のメリットとして挙げるのは(1)共通部分やグローバル部分の開発にかかるコストをキャリア単独で負担せずにすむため、端末開発コストを軽減できる (2)国内メーカーが海外に進出しやすくなる (3)海外メーカーが日本市場に参入しやすくなる といった点だ。
オープン系のOSにはSymbian、LiMo、Androidの3種があり、ドコモは「将来、どのOSが主流になってもいいよう」中立的な立場でコミットし、各OSを搭載した端末をリリースするとしている。「こうした新たな構造のソフトウェアが搭載された端末は、2009年の後半から投入したいと考えている」(辻村氏)
今後の携帯電話は、フルキーボードやフルタッチパネル、Bluetoothなどのさまざまな機能が搭載され、これまでのようないわゆる“単一構造のケータイ”ではない、バリエーションに富んだ構造に変わってくると辻村氏は予測する。「ソフトウェアの構造の変化もあるし、リアルとサイバーの融合の中でもさまざまな機能が付いてくる。動画も視聴しやすいよう画面が大きなるなど、技術やサービスの要素が融合され、それが端末の多様化につながってくる」(同)
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