屋内でも“GPSケータイナビ”を実現──神戸自律移動支援プロジェクトの今(前編):神尾寿のMobile+Views(2/2 ページ)
兵庫県神戸市三宮周辺地区と神戸空港を中心とした2地点約2キロ四方では、2月26日まで「神戸地区自律移動支援プロジェクト」を実施中だ。そこではナビタイムジャパンやKDDIなどが、地下街でのGPSナビゲーションを可能にするための実験を行っている。新たに開発したIMESの威力を体験してきた。
ナビ精度は実用レベル──さらなる精度向上にも期待
技術的な背景を踏まえた上で、実証実験のサービスを見てみよう。
IMESを用いた屋内ナビでは、auの「EZナビウォーク」をベースに開発された専用アプリが用いられており、端末は「W62SH」を使う。市販品との主な違いは、GPS制御ソフトウェアを変更したことと、実験用の機能を追加しEZナビウォークを搭載すること。地下部分の地図は国土交通省が用意し、ナビタイムジャパンが車いすやベビーカー利用者向けにサーバ側のナビゲーションエンジンを改良している。しかし、これらの変更・修正はハードウェアに依存せず、既存のアプリやサービスを元にしているため、IMES対応やナビゲーション機能の拡張を「既存のauの端末やサービスに展開することは容易になっている」(大原氏)という。
プレス向けの体験サービスは、まずはポートライナー三宮駅前を出発ポイントにし、地下にある「さんちか10番街」の中に目的地を設定する形で行われた。地上から地下に向かってナビゲーションするというルートである。
まず最初に体験した地上部分のGPSナビゲーションは、最新版のEZナビウォークそのものだ。機能メニューやUIは実験用に一部変更されているが、地上部分のサービス内容はまったく同じ。交差点の横断歩道情報などもあり、非常に分かりやすい。
しばらくナビの指示どおりに歩くと、エレベーターが見えてきた。今回、筆者は「車いすルート」で目的地を検索したため、地下に降りるために階段ではなく、エレベーターの位置が示されたのだ。健常者であれば、効率重視で階段から下りるルートが案内されるという。
エレベーターで地下に下りると、GPS衛星からの信号が受信できなくなり、画面上の「GPS」アイコンに×印がつく。しばらくすると「IMES」のアイコンが点灯。IMES局による位置測位が行われて、地図が地下街のものに切り替わる。この間の処理時間は30秒から1分程度である。
IMESによる位置測位とナビゲーションは、複数のGPS衛星からの信号が使える地上ほどスムーズではない。しかし、今回の実証実験では68基のIMES送信機が投入されたこともあり、ユーザーの「移動」がきっちりと検知できるレベルになっている。EZナビウォークでは進行方向を矢印で表示する機能もあるので、目的地まで歩行者を誘導する「ナビゲーション」はきちんと実現していた。
大原氏によると、プレス体験会時点のシステムはまだ調整段階であり、今後さらに精度は向上するという。
「今回の実証実験では歩行者の速度を秒速80センチメートル程度と、少しゆっくりとした移動で想定し、ソフトウェアの調整をしています。これから始まる実験を通じて、IMESの電波とソフトウェア側の調整を進めていけば、現在よりもさらにスムーズなナビゲーションが実現できるでしょう」(大原氏)
筆者が唯一不満だったのが「地上/地下への切り替え」の遅さだが、ひとたび切り替わってしまえば屋内でも「移動支援サービス」として実用レベルまで達している。今後さらに測位精度やナビゲーションの追随性が向上すれば、商用サービスとしても通用するレベルまで進歩しそうだ。
屋内ナビ実現で“モバイルビジネス”は拡大する
基本的に屋外を走るクルマと違い、歩行者は屋内を移動することも多い。特に都市部では駅構内や地下街、商業施設が発達しているため、本当の意味で“ドア・トゥー・ドア”を実現するには、屋外/屋内でシームレスに利用できるナビゲーションサービスが不可欠だ。
さらにモバイルビジネス全体にまで目を広げると、“屋根がある場所でもナビができる”ことは、電子クーポンやケータイを使った送客ビジネス、リアルタイム情報の提供サービス、マーケティング分野などにおいて大きな可能性を秘めている。
むろん、そうした未来が到来するには、IMESのさらなる技術革新と運用性の向上、IMESインフラの構築を誰が行うのかといった課題を乗り越えなければならない。だが、それを踏まえても、今回の実証実験のような、将来に向けた技術的な布石は重要である。
神戸自律移動支援プロジェクトは2月26日まで実験を行っており、モニターもまだ募集中だ。新たなナビゲーションサービスやモバイルビジネスに興味があるならば、参加しておいて損はないだろう。
関連記事
- 屋内でもIMESで音声ナビを実現:ナビタイム、KDDI、KDDI研が「神戸自律移動支援プロジェクト」実証実験に参加
ナビタイムジャパン、KDDI、KDDI研究所が、神戸市三宮周辺と神戸空港近辺で行う「神戸地区自律移動支援プロジェクト」に参加すると発表した。EZナビウォークを活用し、屋内外でのシームレスな音声ナビや歩行者の特性に合わせたルート検索を提供する。 - KDDIとナビタイム、地下街でGPSを利用する実証実験に参加
大阪の阪急三番街では2月1日から14日まで、地下街でGPSを利用した歩行者ナビゲーションを行う実証実験が実施される。KDDIとナビタイムジャパンが「EZナビウォーク」で参加する。 - 大阪で実験中!“屋内で携帯GPSナビ”体験記
知らない場所を歩くのに非常に便利なケータイGPS。GPSは仕組み上、空を見上げられるところでしか利用できないが、現在阪急三番街では「地下街でGPS」の実験中だ。果たして実用になるものなのか? 筆者も現地で試してみた。 - KDDIとナビタイムジャパン、バリアフリー経路案内の実証実験に参画
KDDIとナビタイムジャパンが、愛知県豊田市で行われる「豊田自律移動支援プロジェクト実証実験」に参画する。徒歩ルート案内で、健常者、車いす、ベビーカーなどの条件に合わせたルート案内を行う。 - ナビタイム、NAVITIMEとEZナビウォークに駅構内の乗り換え案内機能を追加
歩行者ナビゲーションサービス「NAVITIME」と「EZナビウォーク」に「駅案内ルート」機能が加わる。開始は2月21日。 - 多機能化と裾野の拡大を重視──成長する「EZナビウォーク」
GPSを活用した、ケータイ地図・ナビゲーションサービスを黎明期から牽引してきたKDDIの「EZナビウォーク」。このサービスはKDDIがキャリアとして深く開発に関わり、市場の創出と成長に貢献してきた。EZナビウォークは今後どう進化していくのか。担当者に聞いた。
関連リンク
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.