特定小電力通信+Bluetoothで屋内ナビ──神戸自律移動支援プロジェクトの今(後編):神尾寿のMobile+Views
神戸自律移動支援プロジェクトでは、前編で紹介したIMESを利用する屋内GPSナビのほか、特定小電力通信とBluetoothを活用する「ユビキタスコミュニケータ(UC)」を利用するナビの実験も行われている。“屋内ナビ”の現状をリポートする。
位置情報サービス/ビジネスの世界で、今もっとも注目されているのが、「屋内ナビゲーション」分野の開発だ。屋外でのナビゲーションサービスは、GPS(Global Positioning System/全地球測位システム)の活用が進んでいるが、GPS衛星が利用できない”屋内ナビ”は、技術的な課題も多い未踏の地。GPSの拡張仕様を使う「IMES(Indoor Messaging System)」や、Skyhook Wireless、PlaceEngineといった「Wi-Fi測位」などさまざまな方式が、屋内ナビの実現に向けて技術開発を進めている。
屋内での位置測位はどこまで進化するのか。また、それをケータイへ実装することは可能なのか。
前回に引き続き、2月5日に実施された「神戸自律移動支援プロジェクト」実証実験のプレス向け体験会の取材をもとに考えていきたい。
特定小電力通信+Bluetoothで位置情報を送信
神戸自律移動支援プロジェクトでは、2つの方式で屋内ナビの実証実験が行われている。その1つがナビタイムジャパン、KDDI、KDDI研究所の共同グループによるIMES/GPSケータイ利用型だ。そして、もう1つが今回取り上げる「ユビキタスコミュニケータ(UC)」利用型である。
UC利用型は横須賀リサーチパークが実証実験を実施し、屋内での位置測位に「位置特定インフラ(電波マーカー)」を用いる。電波マーカーから発信されているのは429MHz帯の特定小電力通信であり、これを歩行者が持つ専用端末で受信。専用端末内で特定小電力通信の情報をBluetoothに変換して再送信し、それをBluetoothを搭載したPDA型端末で受信してナビゲーションする仕組みだ。特定小電力通信とBluetooth通信を組み合わせて、位置情報を汎用端末に送信するという仕組みは、先に本コラムで紹介したNTTドコモの沖縄ユビキタス特区実証実験「ケータイ旅人サービス」と類似している。
「特定小電力通信とBluetoothを組み合わせることで、(Bluetoothに対応した)汎用型のPDAを使って低コストで屋内ナビゲーションが実現できます。タッチパネルを備え、ディスプレイが大きいPDAは、高齢者や障害者の方々にも使いやすいのもポイントです」(YRPユビキタス・ネットワーキング研究所 ユビキタス事業第2部部長の井上昭人氏)
今回の実証実験では地上と地下に合計69個の電波マーカーを設置。それを元に歩行者に経路案内や周辺施設の検索・案内サービスを提供する。健常者だけではなく、車いすや高齢者を想定したルート設定のほか、視覚障害者や聴覚障害者向けのナビサービス、また日・英・中・韓の4カ国語での音声案内に対応している。なお、ルートナビゲーションはPDA端末内に保存された地図とソフトウェアを使い、位置測位にGPSは用いていない。このあたりがGPS利用・サーバ連携を前提にしたIMES利用型システムとの違いになる。
地図ナビではなく、「方面案内」でUIを工夫
それでは実際のサービスを見てみよう。
UC型の実証実験で貸し出される端末は2つ。1つは電波マーカーからの特定小電力通信を受信し、その信号をBluetoothに変換する受信端末。そしてもう1つが、ナビゲーションを操作・提供するPDA型のUC端末だ。
今回のナビゲーションサービスは専用ソフトウェアで開発されており、あらかじめ登録されている「登録地点」までのルートガイダンスを行う。健常者だけでなく、車いす利用者や高齢者、聴覚障害者向けのナビゲーションが可能だが、一般的なGPS携帯ナビのように目的地を地図上から自由に設定する機能はない。あくまで収録された登録地点情報から目的地を選び、そこまでのルート案内をするというスタンスだ。
なぜ、このような仕組みになっているのか。
その最大の理由は、UC端末における「ナビゲーション方法」にある。一般的なGPS地図ナビサービスでは、地図上にルートが表示されて経路誘導を行う。一方、UC端末では電波マーカーの位置に応じて、画面上に周辺風景の写真が表示され、そこに進行方向が方面看板のように示される仕組みになっている。ナビの表現方法としては、交差点などの曲がり角で曲がる方向を示す「ターン・バイ・ターン」形式に近い。この方式だと、あらかじめ端末内に進行方向にあわせた写真を収録しておかなければならず、地図ナビのような自由度がないのだ。
しかし、実際に使ってみると、この「方面案内」型のナビ方法が意外と使いやすい。特に屋内ナビでは、屋外のGPSナビのようにスムーズに自位置が移動するのではなく、段階的に進んでいく。そのため地図上に自位置とルートを重ね書きするより、周辺の風景と進む方向を表示した方がわかりやすいのだ。
また筆者は今回、「車いす利用」のルートを試したため、通常のルートよりは遠回りになるがエレベーターが利用できる経路が案内された。さらに地下道でも急な勾配があるところでは画面上に警告を出して知らせてくれる。
屋外でもUC端末はGPSではなく、電波マーカーを目印にユーザーを誘導していく。UC端末にGPSモジュールを付ければよさそうなものだが、「駅前の立体路や商店街のアーケードなど、屋外でも屋根のある場所では電波マーカーの優位性がある」(説明員)という。
屋内では「地図ナビ」がすべてとは限らない
今回、UC端末を体験して筆者が感じたのは、「屋内ナビは『地図ナビ』がすべてとは限らない」という点だ。IMESにせよ、特定小電力通信にせよ、現在の屋内測位システムでは屋外で複数のGPS信号を使うようなナビゲーションのスムーズさは望めない。それならばターン・バイ・ターンのナビの方がむしろ見やすいのではないかと感じたのだ。特に地下街やアーケードならば決められた通路があるため、UC端末が基本スタイルとして採用していた「風景写真+方面案内」の使いやすさが顕著だった。
今後の屋内ナビの進化とケータイとの連携で考えると、ケータイが持つGPSチップを使う「IMES方式」、特定小電力通信をBluetooth通信に変換する「電波マーカー方式」のどちらも、比較的容易に既存の携帯電話に取り込めるものだ。また「iPhone 3G」などで採用している「Wi-Fi測位」も、各キャリアが重い腰を上げて無線LAN対応を積極的に行えば、日本の携帯電話でも利用可能になるだろう。むろん、屋内測位システムの実現では、IMESや電波マーカーなど設備インフラを“誰が設置するのか”という課題が残されているが、屋内ナビは実現へ向けた道のりを着実に進んでいる。今後の動向に注目である。
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