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広がる通話定額 “話し放題”に打って出るキャリア各社の思惑とは?佐野正弘のスマホビジネス文化論(1/2 ページ)

国内通話が定額になることで注目されているドコモの新料金プラン。他キャリアも通話定額サービスを追従する動きを見せている。“話し放題”に打って出る各社にはどんな思惑があるのだろうか。

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 NTTドコモの新しい基本料金プラン「カケホーダイプラン/データプラン」の事前予約が、10日で120万を超えるなど好評を得ている。しかしなぜ、スマートフォンによるインターネット経由のコミュニケーションが全盛の今、音声通話定額のサービスが登場し、人気を得ているのだろうか。

NTTドコモの新料金プランが事前予約で120万を獲得

 4月10日にNTTドコモが発表した新料金プラン「カケホーダイ&パケあえる」が好評だ。サービス開始は6月1日で、5月15日から事前予約をしていたのだが、予約開始から10日が経過した5月25日には、予約数が100万を超え、120万にも達した。

 今回の新料金プランは、発表当初から大きな注目を集めているようで、ドコモの加藤薫社長も新製品発表会や決算発表の場などで「iPhoneの発売に匹敵する問い合わせを頂いている」と、反響の大きさを語っている。

 それだけ大きな注目を集めた新料金プランだが、中でも注目されているのが“カケホーダイ”の部分、すなわち音声通話定額サービスである。カケホーダイではドコモの携帯電話だけでなく、他社の携帯電話、そして固定電話に電話をかけても、フィーチャーフォンなら月額2200円(税別、別途記述がない限り以下同)、スマートフォンは月額2700円で通話し放題となるのだ(“104”などの特番などごく一部を除く)。

 しかし現在、携帯電話のコミュニケーションは、Eメールや「LINE」などのインターネットを活用したサービスに押されて音声通話の利用が減少。それに伴い、音声通話のARPU(月間電気通信事業収入)も低下の一途をたどっている。にもかかわらず、なぜドコモは、カケホーダイで音声通話への回帰を狙ったのだろうか。

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新料金プラン「カケホーダイ&パケあえる」。事前予約開始から10日で、予約数が120万に上った

スマホの音声通話はなぜ高額になったのか?

 その背景の1つには、スマートフォンの音声通話料金に対する不満があるといえよう。LTE対応スマートフォンで現在主流となっている料金プランを見ると、今や基本料よりパケット定額サービスの料金の方が高額であるし、音声通話の料金も30秒当たり20円と高額。かつて存在した、料金プランに応じて毎月一定時間通話が無料でできる“無料通話分”も存在せず、通話すればするだけお金がかかる仕組み。これでは積極的に音声通話を利用しようと思わなくなっても不思議ではない。ではなぜ、携帯電話の料金は現在のように音声通話料金が高額で、選択の余地がないものとなっているのだろうか。

 以前の料金プランは音声通話を主体に設計されており、ドコモのFOMAの料金プランと同様、基本料は高いが通話料は安い「L」「LL」プラン、逆に基本料は安いが通話料は高い「S」「SS」プランといったように、音声通話の量に応じて適したものを選ぶ仕組みとなっていた。だがそうした仕組みが“複雑で分かりにくい”という声が多く上がり、シンプルな料金プランの導入を求める機運が高まっていったのである。

 転機が訪れたのは2007年、ソフトバンクモバイルが「ホワイトプラン」を提供したことにある。これは月額980円で利用できる料金プランで、音声通話料は各社の「SS」プランの料金に相当する30秒21円に設定されたが、ソフトバンクモバイル同士であれば21時〜翌1時以外の時間は無料で通話ができる点が大きな注目を集めた(料金は発表当時の税込価格)。

 当時、自社内での音声通話定額サービスを提供していたのはウィルコムのみであった。そのため大手の一角であるソフトバンクモバイルが、時間制限があるとはいえ安価で音声通話定額を実現したことから、ホワイトプランは人気となった。それ以後、ソフトバンクモバイルの料金プランは、ホワイトプランにほぼ一本化されていくことになる。

 そしてホワイトプランがもたらした“料金プランの一本化”という流れは、スマートフォンの広まりとともにデータ通信、ひいてはパケット定額制サービスを重視する傾向が強まり、音声通話に対する関心が薄れていったことから、他社にも広まっていくこととなる。実際auは、スマートフォンシフトを急速に進めた2011年に、ホワイトプランと近い内容の「プランZシンプル」を提供。その後導入されたLTEスマートフォン向けの「LTEプラン」も、ほぼ同じ内容を踏襲している。

 またドコモも、2011年のXiスマートフォン導入時に、「タイプXi」(月額1560円)「タイプXi にねん」(月額780円)を導入(料金は発表当時の税込価格)。同キャリア同士の無料通話はオプションとなるなどやや違いはあるものの、料金の一本化という意味では共通の変化といえるだろう。

photophoto スマートフォンの広まりとデータ通信需要の高まりによって、料金プランも一本化され、音声通話の重要性も薄れていった

スマホで“置き去り”になった人達に目を付けたドコモ

 キャリアのスマートフォンシフトとともに急速に進んだ料金プランの一本化。このことはデータ通信を積極的に利用するユーザーに“基本料の低廉”という恩恵をもたらした一方、音声通話を頻繁に利用するユーザーには、他キャリアの携帯電話との通話料が高額になり、無料通話分もなくなるなど、マイナスの要素を多くもたらしたている。“スマートフォンは通話料が高い”というイメージは、ある意味料金の一本化がもたらした弊害といえるだろう。

 そこで急速に人気を高めたのが、格安通話サービスである。NTTコミュニケーションズの「050plus」や、LINEの「LINE電話」などIP電話の仕組みを用いたものから、「楽天でんわ」のように電話回線を用いたものなど、“スマートフォンの高額な音声通話”という弱みをカバーするべくさまざまなサービスが登場し、注目を集めているのはご存じの通りだ。

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高止まりするスマートフォンの通話料に対する不満に応えるべく、「楽天でんわ」など格安通話サービスが増加した

 だがそもそも、日本ではスマートフォンの利用者がようやく5割を超えたといわれている状況で、フィーチャーフォンユーザーが現在も半数近くを占めていることを忘れてはならない。そうした人達の多くは一本化以前の料金プランで音声通話を主体に利用しており、通話料が高額になることなどを嫌ってスマートフォンへの移行を拒んでいるのである。

 ドコモは、そうした通話主体のユーザーに目を付けて新料金プランを提供したといえる。カケホーダイで音声通話定額という大きな魅力を与えるとともに、自分だけでなく家族でパケット量を分け合うシェアプランに対して、「ずっとドコモ割」を組み合わせて長期契約者へのメリットも打ち出した。音声通話定額やパケットシェアといったアイデアは海外発のものだが、特にドコモは他社よりも年配層の割合が高く、音声通話主体の長期契約ユーザーも多いことから、そうした施策がうまくマッチしてユーザー獲得につながったといえそうだ。

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ドコモは夏商戦に向け、フィーチャーフォン2機種を投入。フィーチャーフォンユーザーもカケホーダイの対象としたことは、非常に大きな意味を持ったといえる
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