日本の“家計簿”文化を世界に――300万ダウンロードを超えた「おカネレコ」の狙い:佐野正弘のスマホビジネス文化論(1/2 ページ)
2秒で入力できる簡単さで人気の家計簿アプリ「おカネレコ」。自分自身がお金で困った経験から生まれたという開発背景を、スマートアイデアの江尻氏に聞いた。
2秒で入力できる簡単さで人気を集め、300万ダウンロードを記録した「おカネレコ」。競争が激しい家計簿アプリの中で高い人気を獲得している理由とは何か、また今後の展望とはどのようなものなのか? おカネレコを提供するスマートアイデアの代表取締役社長CEOの江尻尚平氏に話を聞いた。
お金がないから家計簿アプリを作った
数あるスマートフォンアプリの中で、密かに激しい競争を繰り広げている人気ジャンルの1つが“家計簿”。多くの家計簿アプリがしのぎを削る中、iPhoneアプリで頭一つ抜きん出た存在となっているのが、スマートアイデアの「おかねレコ」だ。
おカネレコは支出の入力を重視した家計簿アプリで、カテゴリを選択した後に金額を入力し、「入力」ボタンをタップするだけという手軽さが最大の特徴だ。6月11日に300万ダウンロードを記録したほか、執筆時点でも、家計簿アプリが集まるiOSの「ファイナンス」ランキングにおいて、有料・無料ともにトップ3の位置をキープするなど、人気の高さが見て取れる。
なぜ、スマートアイデア社長の江尻氏は家計簿アプリを開発しようと思ったのだろうか。その理由を聞いたところ、江尻氏自身「お金がなかった」ことが大きく影響しているという。
元々携帯電話メーカーに勤めていた江尻氏は、独立してスマートアイデアを立ち上げ、市場調査関連の仕事をしていた。しかし受注が減少してお金に困り、一時は一食200円で暮らさないといけないほどになってしまった。そこで節約に励むべくスマートフォンでさまざまな家計簿アプリを試してみたものの、「ズボラな方なのでなかなか続かなかった」(江尻氏)。そこで江尻氏は、自分でも続く家計簿アプリがあれば喜ばれるのではないか? とアプリ開発に着手。完成したのがおカネレコだった。
レシート取り込み機能をメインにしなかった理由
江尻氏自身が挫折を経験したように、実際のところ家計簿を真面目に付けようとなると、毎日の収支だけでなく、最初に現金をいくら持っているのか、支出する項目や1カ月の予算額など、使い始める前にさまざまな決め事が必要で、面倒になってしまうことが多い。そこで江尻氏は、まず誰でも続けられるよう、面倒な要素を全て取り払うことを考えた。
そして事前の決め事だけでなく、「当時は自分の収入が伸びなかった」(江尻氏)ことから収入自体の入力も省略(現在は収入の入力もできるようになっている)、支出のみを入力する方式を選んだ。その上で、誰もが馴染みのある計算機をモチーフにしたデザインとし、アプリを起動すると入力画面がすぐ現れて素早く入力できるなど、使い勝手に配慮したインタフェースを作り上げていったという。
さらに江尻氏が、もう1つこだわりを見せたのが、カテゴリ別に支出の割合を表示するグラフ表示だ。「グラフを見れば、何にお金を使っているかが一目で分かる。これくらいシンプルじゃないと使い続けられない」(江尻氏)とのことで、一目で無駄な支出がチェックできる分かりやすさが、特に女性から人気を獲得する要因になったと分析する。
しかし最近の家計簿アプリのトレンドを見ていると、少し前から買い物のレシートを撮影し、機械あるいは人力でスキャンするスタイルの家計簿アプリが人気を得ている。おカネレコにも有料版にはレシート読み取り機能が付いているが、なぜこの機能をメインにしなかったのだろうか。
江尻氏は、「レシートのスキャンは、機械による読み取りでは認識率が100%にはならず修正が必要になる。人力の読み取りでは結果が返ってくるまで時間がかかる」など、スピード感に欠けると感じたと説明する。その結果、ユーザーによる手入力を突き詰めた方がスピーディーだと判断。現在の仕組みに落ち着いたのだそうだ。
レビュー掲載を機に女性のiPhoneユーザーから人気を獲得
こうして完成したおカネレコだが、2012年8月のiOS版公開直後から順調にダウンロード数が伸びた訳ではない。App Storeではアプリ公開直後の初動が、その後のアプリの人気を左右すると言われているが、おカネレコの初動は決して大きなものではなく、「ダウンロード数がせいぜい数百程度で、相当不安だった」と江尻氏は振り返る。
それでも江尻氏は、おカネレコに対するニーズは絶対あるものと信じ、完成度を高めるために公開後もアップデートに積極的に取り組んだ。そして3カ月間継続的にアップデートを続け、機能がある程度そろったところで、あるレビューサイトで紹介されるという大きな転機が訪れた。これをきっかけにダウンロード数が急速に伸び、App Storeのランキングにも定期的に入るようになった。この勢いが現在も続き、継続的にダウンロード数が伸びる要因となっているという。
現在、おカネレコのユーザーは7割が女性で、20〜30代の会社員が中心とのこと。女性が家計管理に利用する一方、男性はお小遣いの管理、スマートフォンゲームの仮想通貨やギャンブル資金の管理など、趣味・娯楽に使う割合が多く、明確に用途が分かれているそうだ。
そしてもう1つ、OS別のユーザー数が大きく違うのも特徴だ。iOSの利用者がおよそ9割を占める一方で、Andoridの利用者は1割に満たないという。その理由として江尻氏は、「Andorid版の提供がiOS版の約1年後と遅くなり、すでに他のアプリが人気を獲得してしまっていたため苦戦している」と説明する。
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