VR市場が急拡大し、“モノのスマートフォン化”が進む――CES 2016を振り返る:佐野正弘のスマホビジネス文化論(1/2 ページ)
「CES 2016」取材で見えてきたIT業界の新たなトレンド。それが、VR市場の急速な広がりと、IoTを通り越した車や家電など、“モノのスマホ化”だ。
1月6日(現時時間)に米国・ラスベガスで開幕した、世界最大級の家電・IT総合見本市イベント「CES 2016」。広大な会場でさまざまな企業が製品を発表・展示したが、その中から見えてきたのは、VR(仮想現実)市場の急速な広がりと、IoT(モノのインターネット)を通り越した、“モノのスマートフォン化”が進みつつあるということだ。
VRの大衆化をもたらす、スマートフォンを用いたVR HMD
CESは家電・ITに関する見本市イベントであると共に、年初に開始されることもあって、その年のITに関する動向を占う上でも重要なイベントとなっている。実際、ウェアラブルやIoTなどは、過去にCESでの盛り上がりが注目を集めたことで、世界的に取り組みが拡大したといえる。
筆者は今回も現地で取材を進めたのだが、業界全体に明確な方向性を与えるテーマが見えたかというと、そこまでのものはなかった――というのが正直な感想だ。しかし、今後に変化を与えるであろう大きな要素を幾つか見ることができた。
その1つがVRである。VRは今回のCESで大きな注目を集めたテーマの1つであり、「Oculus Rift」に代表される、VRを体感できるヘッドマウントディスプレイ(HMD)のデモには、多くの人が列をなしていたのが印象的だった。
CESにはOculus Riftの一般発売を開始したOculus VRがブースを構えていたほか、ソニーブースに展示された「PlayStation VR」にも大きな関心が集まっていた。しかしながらCES全体でより注目されたのは、手軽にVRを体感できるスマートフォンを使ったVR HMDだったといえるだろう。Samsungが一般発売を開始したばかりの「Gear VR」がその代表例だが、他にもさまざまなブースで、スマートフォンを挿入してVRが楽しめるHMD製品が多く展示されていた。
Oculus Riftを快適に利用するには高性能なゲーミングPCが必要といわれているし、PlayStation VRもPlayStation 4を持っていないと利用できないため、VRに高い関心のある人でなければ利用のハードルがかなり高い。しかしながらスマートフォンを利用したVRであれば、手持ちのスマートフォンをHMDに装着し、コンテンツを用意するだけでよいことから、利用のハードルはかなり低くなる。VRの裾野を広げる意味で、スマートフォンを活用したVR HMDが大きく貢献する可能性が高い。
技術の広がりでVRがゲーム以外に広がる可能性も
もっともVRは、現在のところゲームでの取り組みが先行しているため、ゲームに対する関心が薄い人の注目度は低い。しかしCESに出展された幾つかのデバイスや新技術によって、ゲーム以外のVRコンテンツや利活用が急速に高まる可能性も感じることができた。
その理由の1つが、リコーの「THETA」に代表される360度カメラが急激に増えていること。こうした機材が一般化することにより、360度の写真や映像の撮影がカジュアルなものとなり、それをよりリアルに楽しめるデバイスとして、VR HMDが活用される可能性は大いに考えられる。同じく今回のCESで盛り上がりを見せたドローンの普及も、360度カメラと組み合わせた空撮VRコンテンツの広がりに大きな影響を与えるだろう。
そしてもう1つが、Googleの「Project Tango」である。これはカメラやセンサーを用いて、人の目のように現実の3D空間を正確に認識できるようにする技術だ。CES期間中、LenovoはこのProject Tangoに対応したスマートフォンを、今夏発売すると発表した。こうした新技術がスマートフォンに標準搭載されるようになれば、VRとAR(拡張現実)の組み合わせによって、現実空間を活用した多彩なコンテンツの開発が可能になる。
VR用のコンテンツは現在のところ、あくまでHMD上で楽しむことを重視して作られており、現実空間とは完全に切り離されているものがほとんどだ。しかしそれがARと結び付き、現実空間の情報を反映したコンテンツが提供できるようになれば、VRの幅は大きく広がることになるだろう。
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