目指すは“オールインワン決済” 急成長する「Airペイ」の戦略をリクルートに聞く:モバイル決済の裏側を聞く(1/2 ページ)
リクルートが提供している「Airペイ」は、低コストでクレジットカードや電子マネーでの決済を可能にするサービス。導入店舗や取扱高が急増している。Airペイはどのような戦略で展開しているのか?
FeliCaチップを搭載した「おサイフケータイ」が登場したのは2004年。利用率は横ばいといわれてきたが、2016年に日本でも「Apple Pay」が始まり、中国でQRコード決済が広く浸透してくると、モバイル決済が再び注目されるようになった。それに伴って、店舗向けインフラを提供する事業者も増えてきている。
リクルートもその1社で、「Airペイ」で決済インフラ事業を展開している。Airペイはモバイル決済業界で初めてApple Payと交通系ICカードの両方に対応したサービスで、導入店舗の伸び率が2016年10月からの1年間で約8倍、取扱高は約15倍というほど大きく成長している。Airペイが急拡大している現状について、リクルートペイメントの塩原一慶社長に話をうかがった。
スマートデバイスを活用したオールインワン決済
決済市場は大きく「使う人」と「使われる場所」に分けられる。リクルートは、クレジットカードの「Recruit Card」を提供し、決済サービスを利用する一般コンシューマー(使う人)を増やす事業も展開しているが、現在、注力しているのは加盟店(使われる場所)開発に当たる「アクワイアリング」だ。
まず提供開始したのが、iOS端末1つでPOSレジシステムを構築できる「Airレジ」。これとシームレスに連携する決済システムがAirペイだ。これらAirシリーズは、少子高齢化で労働力が不足する日本の労働環境を改善したいという大きな狙いもあるという。
Airペイは2015年11月にサービスを開始。開始当時、クレジットカードの対応ブランドはVISAとMasterCardのみで、交通系電子マネーにも対応していなかった。その後、2016年12月にJCB、アメリカン・エキスプレス、ディスカバー、ダイナースを追加し、全ての国際ブランドに対応。このクレジットカードのブランド全対応が転機となり、Airペイを導入するところが増えていく。2017年2月からはSuica、PASMO、ICOCAなど交通系電子マネー、同年6月にはApple Payという形でiDとQUICPayにも対応した。
2015年12月にQRコードを使った決済サービス「Alipay(アリペイ)」「LINE Pay」とAirレジを連携させた「モバイル決済 for AirREGI」を開始し、2017年7月にはビットコインにも対応している。決済手段を限定して注力する事業者が多い中、リクルートのAirペイは多くの決済手段に対応するオールインワン戦略をとっている。
ちなみに、Alipayでの決済を利用するのは、ほとんど中国人観光客なので、中国語表記や英語表記に対応している。QRコード決済は「WeChatPay」もよく知られているが、こちらは競合の「楽天ペイ」が対応しており、そこが大きな違いだ。ビットコインに対応している点も強み。ビットコインウォレットと呼ばれるアプリが数十種類存在するが、それに全て対応できるという。
決済は「広くあまねくユニバーサルなサービスであるべき」(塩原氏)という認識からだ。今は、FeliCaを利用する人もいれば、どんなところでもクレジットカードを使う人、まだまだ現金だという人もいる。これら全てに対応し、業務効率化を目指すのがリクルートのスタンスだという。
POSレジシステム「Airレジ」とシームレスに連携
Airペイを利用するには、店舗側にはリーダーライターとiOS端末があればOKだ。AirペイのアプリはiOS端末のみに対応しており、Android端末の対応予定はないとのこと。提供しているリーダーライターは、磁気ストライプのスワイプ、ICチップの読み書きと暗証番号入力、Suica、PASMOなどのタッチ(非接触)の決済手続きが可能。レジの操作自体はiPhoneやiPadで行う。
ここでは、カフェでコーヒーを購入する場合を想定。Airレジでコーヒーの購入手続きを行うと、決済手段が選べるようになる。画面上にリクルートが展開している決済方法が全て表示され、クレジットカード払いや交通系電子マネーでの支払いを選ぶと、シームレスにAirペイのアプリに移行する。
アプリが入ったiOS端末と決済端末はBluetoothで接続。クレジットカードやSuicaカードなどをリーダーライターで読み取り、決済する。Suicaカードなどは読み取り面にかざし、クレジットカードのICチップを利用する場合は、お客さんにリーダーライターで暗証番号を入力してもらえば完了だ。接続されているプリンタでレシートも印刷される。
なお、Airレジを使っていなくてもAirペイは利用できる。その場合、POSレジは使えないため、リーダーライター端末に直接、金額を打ち込んで決済する。
リーダーライターは、セキュリティの国際基準を満たしたMiura Systemsのもの。持ち運べるコンパクトサイズでありながら、NFC Type A/Bに加え、FeliCaを利用するためのType Fに対応している端末だ。
Apple Payはリーダーライターの性能で読み取りのよしあしが左右されるケースもあるが、この端末はJR東日本の基準クリアしている。読み取り精度は、端末がその方式に対応していればいいというわけではなく、アプリケーションの実装力で差が出るという。「各社、同じ端末を採用しながらも、交通系電子マネーに対応していないところもあります。われわれはJRの厳しい基準をクリアしているので自信を持っています」(塩原氏)
「Apple Payで」と言って支払える
Apple Payはさまざまなカードを登録でき、メインカードとして登録されたカードは簡単な操作で支払いが可能だ。AirペイのアプリはApple Payボタンを実装しており、iPhoneやApple Watchのメインカードが何かを自動判別するという。本来、Apple Payで支払うときも、「Suicaで」「iDで」など、お客がブランドを指定する必要があるが、Airペイの場合は「Apple Payで」と言えばいい。お客も店舗側もブランドを意識することなく支払い手続きができるのが利点だ。
「外国の方とやりとりする場合に、言葉が聞き取れず分からない場合もあるので、そういった場合に便利だと思います。もちろん、ブランドを指定して支払っても問題ありません。両方対応できるように設計しています」(塩原氏)
このメインカード自動認識の機能は業界で初めてリクルートが導入。現在はローソンのレジもApple Payのメインカードを自動認識するそうだ。
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