「Snapdragon 845」で何が変わる? “順当進化”の中身を解説する:Snapdragon Tech Summit 2017(2/3 ページ)
Snapdragon 845を一言でいえば「順当進化」だ。全体でパフォーマンスが向上した他、映像表現、カメラ、VR/AR、セキュリティも強化されている。その内容を見ていこう。
UltraHD Premiumコンテンツをキャプチャーできる
ほぼ1年ペースで更新が続くSnapdragonのフラグシップモデルだが、パフォーマンス向上と同時に毎回映像表現面での進化がある。例えば4K映像の入出力自体はSnapdragon 800の時代から既に可能だが、世代ごとにHEVC再生サポートやその取り込み、60fps対応、そしてUltraHD Premium再生対応といった具合に、少しずつできることが増えている。今回の845世代では、UltraHD Premium映像のキャプチャーが可能になっている。
UltraHD Premiumとは、いわゆる4K世代のHDRコンテンツの規格だ。過去にSDからHD、フルHD、さらに4Kという形で進化してきた解像度の概念だが、色表現については当時から1677万色の24bit階調、RGB単位で分割すると8bitの状況から進化しておらず、UltraHD Premiumではこれを改善する。
色の深度が従来の8bitから10bitに拡張される他、ガンマと輝度も大幅に拡張される。結果、これまではベタ塗りのようになってしまった空の映像のグラデーション表現が豊かになり、ガンマや輝度の拡張で、これまではつぶれていた色表現や明暗がよりくっきりとなる。Snapdragon 835では再生に特化していたこの機能が、845ではカメラ映像として取得可能になる。
では、Snapdragon 845のプラットフォームでは具体的にどういった映像の取得が可能になるのだろうか。最も分かりやすい例が暗所撮影で、HDRの高いダイナミックレンジ性能を生かした暗所での花火風景動画などがキレイに撮れるようになる。暗所撮影で重要となるのはノイズ除去技術だが、マルチフレームでの最適化のほか、手ブレ補正技術の組み合わせで映像のディテールをつぶさずにHDRならではの映像を作り出す点だ。スマートフォンのカメラにありがちな「暗所に弱い」というデメリットを克服できるだろう。
また向上したパフォーマンスを生かすことで、480fpsのスローモーション撮影を可能したり、ポストプロセス(後処理)で動画に特殊加工を施したりと、ややトリッキーな動画も取得が容易になる。
MCTF/EIS(Motion-Compensated Temporal Filtering/Electric Image Stabilizer)というノイズ除去技術と電子手ブレ補正技術を組み合わせた暗所撮影。暗所部分の除去をノイズしつつ、画像をつぶさずにコントラストが出ていることが分かる
強化されるVRとセキュリティ
メーカーやサービス各社が現在製品開発とプラットフォーム整備に力を入れるVR/ARの世界だが、Qualcommではこの仕組みを「XR(eXtended Reality)」と呼んでおり、深度計測による空間把握や、それを利用した“ボケ”映像の作成など、さまざまな形で応用することを考えている。
Spectra 280 ISPで提供される空間把握技術はセキュリティにも用いられ、例えば顔認識によるバイオメトリクス認証はその応用の1つとなる。また、この仕組みをVR HMDのようなデバイスに応用することで、空間把握を含めたVR/AR体験が可能になる。Snapdragon 845では6軸移動に加えて部屋空間のマッピング(SLAM)を組み合わせることで、例えば1つの部屋全体を利用した仕掛けが実現できる。
ショッピングにおける仮想試着や部屋の模様替え、あるいはゲーム的なものなど、今後このプラットフォームを利用したコンテンツやサービスが出てくることが期待される。
Snapdragonの進化により、820時代は3軸方向の単純な中心視点だったVR HMDでの表現が、835では6軸方向で解像度も上がり、845では6軸移動に加えて部屋空間のマッピング(SLAM)を組み合わせたAR的な表現も可能になるなど、より現実世界との融合が進む
ステレオ画像を投影する必要があるVR HMDの場合、これを高速化するテクニックもSnapdragon 845では採用されている。「Foveation(フォビエーション)」という技術では、距離的に近いものや視点の合っている部分などを丁寧にレンダリングし、残りの部分を省略化して処理スピードを高速化させる。
マルチビューレンダリングというテクニックを用いることで、眼の左右別々に描かれてステレオ表現を実現している映像について、オブジェクトの一部を片方にコピーすることで描画を高速化する。これにより、単純に左右別々に2枚の絵を描画するよりはスピードが大幅に向上する。VR HMDが登場したころから存在する技術ではあるが、汎用プロセッサへの搭載でより身近なものとなるだろう。
Spectra 280 ISPでは顔認証や虹彩認証のサポートなどがうたわれているが、これを補助するのが「Secure Processing Unit(SPU)」という専用のセキュリティコアの役割だ。SPUの特徴として、プロセッサコア上で動作するメインOS(HLOS:ハイレベルOS)や、プロセッサコア内の保護領域であるTrustZone上で展開されるTEE(Trusted Execution Environment)などとは異なり、完全に異なるコアとして存在しており、他の2つの領域の影響を受けない。
画像では虹彩認証の例が紹介されているが、生体認証データの保存の他、認証処理そのものをOSとは別レベルで実装できるなど、より安全性が高くなる。指紋や音声を含む生体認証ではデータそのものの秘匿性が重要となる他、この仕組みを活用してパスワードなどの鍵情報の他、一部アプリケーションなどに含まれる個人情報などを保存する領域としても利用可能だ。一種のセキュア領域(セキュアエレメント:SE)として機能し、そのままSIMカードや決済アプリケーションにおける決済情報、そして交通系カードの保管など、従来までSIMカードや組み込み式SE(eSE)の仕組みも代替できると考えられる。
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