販売数1万台を突破 カード型ケータイ「NichePhone-S」はなぜ売れたのか?:SIMロックフリースマホメーカーに聞く(1/3 ページ)
クラウドファンディングを経て、一般発売した「NichePhone-S」。機能をそぎ落としてほぼ通話に特化したことで、カード型のサイズを実現。既に販売台数は1万を突破。なぜシンプルなケータイがここまでヒットしたのか?
スマートフォン全盛の時代に、主な用途を通話に特化した端末が突如として現れ、クラウドファンディングで2000件近い出資を集めて、話題を呼んだ。フューチャーモデルの「NichePhone-S(ニッチフォンS)」が、それだ。
同端末は、シンプルなカード型のケータイで、テザリングには対応しているものの、ブラウジングなどは一切できない。通信方式は3G。Androidケータイをラインアップに用意している大手キャリアからではなく、SIMロックフリーケータイとして発売された点も、注目されたポイントといえる。クラウドファンディングで好評を博したことを受け、家電量販店の取り扱いも開始された。
この端末を発売したのは、フューチャーモデルという企業。これまで携帯電話そのものを開発、販売したことはなく、NichePhone-Sが同社の最初のモデルとなる。そんな同社が、なぜ携帯電話を発売するに至ったのか。あえてこの時代に、スマートフォンではなく、シンプルな携帯電話に狙いを定めた勝算はどこにあったのか。こうした疑問を、フューチャーモデルを率いる曲亮氏にぶつけた。
通話専用端末を作ろうと思った理由
―― 御社の主な事業は携帯電話の開発ではないと思います。失礼ですが、NichePhone-Sの開発経緯をうかがうまえに、まず、御社が普段どのような事業を行っているのかというところから教えてください。
曲氏 スマホのアクセサリーの製造、販売や、メーカーの下請けをやっている会社で、設立は2009年です。私は、日本の大学を卒業して(曲氏は中国出身)て、ケータイの販売スタッフを1年ぐらいやった後、そのまま今の会社を起業しています。会社の事業内容としては、主に「X-Doria」というケースや、Nikeのケースなどを扱っています。昨年(2016年)ぐらいから、「DONUT LIGHT」などのライトや、ワイヤレスイヤフォンの「KOU」を始めています。規模としてはOEM事業が一番大きいですね。
―― いわゆるアクセサリーの販売を行っていた会社が、なぜ携帯電話そのものに着目したのでしょうか。
【更新:2017年12月25日18時00分※フューチャーモデルの取引先の中に非公開情報が含まれていたため、当該記述を一部修正しました。】
曲氏 スマホのアクセサリーは作っていましたが、スマホは数が多すぎる。NichePhone-Sを開発した一番大きな動機は、通話専用の端末を作りたかったということです。私もそうですが、スマホだとやることが多すぎてコミュニケーションがなかなか取れない。一方でLINEだと返事はスタンプだけで済んでしまいますが、それではコミュニケーションが足りません。そこで、通話専用の端末を作りたいと思うに至りました。通話専用端末だと、大きなものはいらない。極力小さくした方が、セカンドケータイとしてはいい。そういう理由で、最終的に、今のNichePhone-Sの形にまとまりました。
「3G」への対応が大変だった
―― とはいえ、シンプルケータイで日本語対応しているものは、なかなか難しかったのではないでしょうか。中国のODMから買ってきてすぐに発売というわけにもいかないと思います。
曲氏 日本のフィーチャーフォンは世界的に見ると独自のものですからね。ただ、それ以前に悩んでいたのが、この商品が本当に売れるのかということです(笑)。半分、私の趣味で出そうとしていたので、そこまで投資もできず、日本語は最低限できればいいという感じで作っています。
―― 確かに、売れるかどうかを見極めるのは難しそうです。製造は中国のODMでしょうか。
曲氏 はい。この事業者は、Mobile World Congress(スペイン・バルセロナで毎年開催される、世界最大の携帯電話関連見本市)で見つけました。当時、似たような商品は他にもありましたし、NichePhone-Sより、もっと薄いものもありましたが、残念ながら、それらは全て2Gまでしか対応していません。もうすぐ5Gになるのに、なぜ3Gがないのか(笑)。その中で3Gがあれば、チャンスだと思いました。
―― 3G対応や周波数対応などは、大変だったのではないでしょうか。
曲氏 難しかったですね。仕様がかなり特殊なこともあり、工場はほとんど作った経験もありませんでした。ヨーロッパやアフリカ、ロシアなどは(2Gの)ありものが使えましたが、日本向けにする場合、アンテナから基板まで、作り直さなければいけなかったからです。
製造を依頼したとき、丸々同じ基板がないので、スマホの基板を取って、それを1から改造しています。基板を作った後は、ちゃんと通話ができるか、通信ができるかのテストを繰り返しました。もう1つ難しかったのがディスプレイで、スマホの基板をこんなに小さなディスプレイに対応させるのに、かなり苦労しました。
―― とはいえ、800MHz帯が非対応です。
曲氏 今後開発する端末では、対応周波数をもっと広げていこうと思います。
―― スマホの基板を使ったということは、Androidベースなんですよね。
曲氏 はい。でも、Androidの機能はほとんど削除しています(笑)。泣きそうになるぐらい、削りました。システムを開発している会社も、フィーチャーフォンを使っていない人がほとんどな中、日本のユーザーがどうすれば使いやすいかを考え、今の状態になっています。これをゼロから(AndroidではないOSで)作ると、もっと大変になってしまいます。
―― スマホがベースにあるためか、テザリングもできます。いっそのこと、単体でブラウジングできるようにはしなかったのでしょうか。
曲氏 それはないですね。この大きさだと、ネットはしないでしょうから。通話とメールができるぐらいの方がいい。他の機能がついてしまうと、この端末がスマホのようになってしまいます。
―― 3Gは、どのくらいの速度に対応しているのでしょうか。
曲氏 実測では、6Mbpsぐらいのスループットが出ています。ただし、場所や時間によっては1Mbpsを切ってしまうこともあります。
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