“サブブランド規制”を巡る議論の行方は? 総務省の検討会で見えたもの:石野純也のMobile Eye(1/3 ページ)
総務省で「モバイル市場の公正競争促進に関する検討会」が開催され、注目を集めている。検討会ではMVNOとMNOの双方が、見解を主張し終えたところだ。テーマは「サブブランドつぶし」ともささやかれるが、果たしてどのような決着を迎えるのか。
総務省で「モバイル市場の公正競争促進に関する検討会」が開催され、注目を集めている。現在、検討会は第3回が終わったところで、MVNOとMNOの双方が、見解を主張し終えたところだ。テーマは「サブブランドつぶし」ともささやかれるが、果たしてどのような決着を迎えることになるのか。第2回、第3回の事業者ヒアリングを振り返りながら、今後の展開を予想していきたい。
通信速度面での不利を訴えるMVNO、音声定額やテザリングの開放も
検討会第3回までのヒアリングに応じたMVNOは、IIJ、ケイ・オプティコム、楽天、トーンモバイル、UQコミュニケーションズの5社。ネットワークを貸す側のMNOとしては、ドコモ、KDDI、ソフトバンクの3社が出席し、それぞれの意見を述べている。1月15日に開催された第2回の検討会では、IIJ、ケイ・オプティコム、楽天の3社が、サブブランドとの“格差”を主張。公平な競争環境を実現するため、何らかの対策が必要なことを訴えた。
それぞれの主張は、細部にやや異なるところはあるが、大枠は共通している。1つ目のポイントが、通信速度だ。MVNOはMNOから帯域単位でネットワークを借りているため、ユーザーの通信が集中すると、相互接続点(POI)が混雑してしまい、十分な速度が出なくなる。特にビジネスマンや学生がお昼休みに入る12時台は、速度低下が顕著に表れるMVNOが多い。対するUQ mobileやY!mobileといったMNOのサブブランドの通信は、一般のMVNOよりもはるかに速く、安定した速度が出ている。ここに何かカラクリがあり、不公平になっているのではないかというのが、MVNO側の主張だ。
例えば、楽天で楽天モバイルを率いる、執行役員の大尾嘉宏人氏は、「サブブランドのネットワーク速度は、他のMVNOを大きく上回っている。コスト面で、MVNOでは提供不可能な水準」と語っている。ケイ・オプティコムの取締役常務執行役員、久保忠敏氏も自社でサブブランドと同程度のスピードが出るよう帯域を確保した場合のシミュレーション結果を提出。結果として、「1加入者あたりのデータ利用料が極めて高額になる」としながら、「言い方は悪いかもしれないが、膨大な利益が、一般のMVNOつぶしに使われているのではないか」(同)と疑問を投げかけている。
ネットワークの速度以外でも、MNOに対する要求が挙がった。楽天の大尾嘉氏は、音声通話の卸料金が従量制であることを指摘しながら、「MNOの言い値で高止まりしている。準定額や、定額料金が適用されない」と語る。同様の問題意識は、トーンモバイルも挙げており、音声定額の卸プラン化を提案している。データ通信とは異なり、音声通話は卸プランで一律に提供されているが、この料金が従量制のため、サブブランドと比べたとき、不公平になっているというのがMVNO側の理屈だ。
また、サブブランドの宣伝手法や、番号ポータビリティを利用する際に、電話口でサブブランドへの引き留めを行う行為も問題視された。宣伝の仕方について、トーンモバイルの取締役 中村礼博氏は、「同程度のテレビCMを展開するのは困難」と言いつつ、「1480円、1980円という言葉が躍っているが、実際に見てみると、光回線を契約したときだったり、2年目は料金が上ったりしている。端末代が含まれているのも一部のみ」と語る。固定回線とのセット契約時の料金や、キャンペーンで1年目だけ下がった料金を大々的にアピールするのは問題があるというわけだ。
サブブランドへの誘導については、IIJの取締役 島上純一氏が、「プライムブランドからサブブランドへの移行を、差別的に扱うプロモーションがなされている」と指摘。番号ポータビリティ利用時に、auがUQ mobileを、ソフトバンクがY!mobileを案内する宣伝が、MVNOへの移行を妨げているのではないかと疑問を呈した。この他、「MNOによる端末販売では、代理店による高額キャッシュバックあり、一括0円が横行している」(大尾嘉氏)、「SIMロック解除の見直しで利便性は向上したが、中古市場では課題が残る」(久保氏)といった、端末販売やSIMロック解除についての問題提起も行われた。
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