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なぜMNOのテザリングは有料で、MVNOは無料なのかMVNOの深イイ話(2/3 ページ)

MNOのテザリング有料化問題は、大多数のMVNOにとって対岸の火事ですが、なぜMNOはテザリングに課金したいのか。なぜMVNOにとって対岸の問題であるのか。MVNOはテザリングをどのように考えているのか。この点を解説します。

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テザリングはネットワークの負荷なのか?

 それでは、テザリングは依然としてネットワークの負荷になり得るのでしょうか? 既に述べた通り、4G LTEへの移行やCA(キャリアアグリゲーション)の普及で急速にネットワークの広帯域化が進展している中、既にテザリング脅威論は根拠を失いつつあると考えるのが妥当です。

 ただ、MNO各社の考えを推測するに当たり、もう1つ手掛かりとなるのが「テザリング専用APN」です。MNOのテザリングは、APNという文字列によって指定されるインターネットのゲートウェイが、他のデータ通信とは別に指定されています。テザリング専用に別のゲートウェイを設けることで、そのゲートウェイで特定ユーザーのみデータ通信(テザリング)を行わせる制御が可能になり、オプション料金を課すことができるようになるわけです。

テザリング
ドコモ端末は以前、spモードを契約したSIM以外(MVNOのSIMなど)ではテザリングが利用できなかったが、2016年夏モデルからは、spモード以外のSIMカードでもテザリングが可能になった

【更新:2018年3月30日10時53分 キャプションの一部を修正しました】

 それでは、インターネットのゲートウェイ部分だけとはいえ、このようにスマートフォン由来の通信とPC由来の通信(テザリング)を別設備で運用しているのには、どのような理由が考えられるでしょうか。

 テザリングの通信の場合、例えばWindows Updateのようなイベントによって、大量の通信が行われる可能性があり、それをいまだにMNOは恐れているのかもしれません。それらの通信がスマートフォンの通信と完全に混在していれば、そのような大量の通信による影響が全てのユーザーに及んでしまうかもしれません。APNがテザリング専用に指定されていれば、インターネットのゲートウェイの部分で対処することで、そういった被害をテザリングユーザーの中だけに限定し、多くのスマートフォンユーザ−のトラブルを回避できるかもしれません。

 これは筆者の想像ではありますが、3G時代の「PCの通信はネットワークの負荷になる」という思い込み(その当時は正しかったかもしれない)がいまだ心理的に残っていて、万が一の時にはその負荷を封じ込められるようにしよう、そのために設備を分けようという努力が、テザリング専用APNとして、いまだ各社に残っていると考えられます。

 テザリング専用APN(ゲートウェイ)や、それを制御するためのさまざまなサーバ群(認証サーバ、ポリシーサーバ等)には、当然ながらコストがかかります。そのような設備コストを賄うためにテザリングに料金を課していると考えると、いろいろなつじつまが合うのではないかと思います。

 つまり、無線区間や、光ファイバーなどの伝送路においてはスマートフォン由来の通信もPC由来の通信も1バイトは1バイト、ただ固定的なテザリング用設備の設備コストについてはテザリングユーザーに負担してほしい、という本音があると考えられます。

テザリングが平均的利用を押し上げる?

 ちまたには別の考え方もあります。現在はMNO各社とも定量制料金プランを標準的な料金プランとして採用していますが、この定量制料金プランの収益を決めるのは、各プランの上限に対して、平均的な消費データ量が何%になるかという実消費率です。例えば、月間3GBのプランでも実際の消費データ量が平均2GBであるか、2.5GBであるかが、コストを2割も変えうることになり、それによって収益が大きく変わってしまうということです。

テザリング

 昨今のスマートフォンのデータ消費量は以前の携帯電話よりはるかに高くなっていますが、PCの消費するデータ量だって依然として高いのです。そのため、テザリングを許容することで、PC由来の通信により実消費率が上がってしまい、結果として赤字化してしまうのでは? という心配が、テザリングを有償化しようというMNOの考えにつながっている可能性が考えられます。

 ただ、これについて筆者はやや懐疑的です。MNOのコスト構造はMVNOに比較して固定的であり、データ量が20%増えたから設備コストが20%上がるというものではありません。どういうことかというと、仮にユーザーの平均消費データ量が20%増えても、基地局の数を20%増やす必要はないのです。

 さらに言えば、設備コストを決めるのはMNOでもMVNOでも同じく“ピーク時のトラフィック”です。テザリングが利用されるシーンの多くは昼の外出中であると考えられ、MNOの設備のピークである夜間ではありません。そのため、テザリングを許容しても実態としてコストがMNOの収益性を大きく損ねるものではない、と考えられます。

 同時に、消費データ量が増えれば、そのうち何割かのお客さまはより上位の料金プランへアップグレードし、結果として平均的な回線収入が増えることになります。MNOは一般により多くのデータを消費してもらい、より多くのデータ料金を払ってもらえるようにしたいものですから、テザリングだけがMNOにとって目の敵にされているというのは考えにくいだろうと筆者は考えています。

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