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Y!mobileが「クラウドSIM」対応ルーターを採用した理由は? ソフトバンクとuCloudlinkに聞く(1/3 ページ)

ソフトバンクが、Y!mobileブランドで新たなモバイルWi-Fiルーター「Pocket WiFi 701UC」を投入。クラウドSIMを搭載しており、SIMを入れ替えずに世界各国で利用できる。この製品と専用プランの狙いを、Y!mobileの事業を統括する寺尾洋幸氏と、uCloudlinkに聞いた。

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 国際ローミングのデータ通信は、値下がりしたとはいえ、ドコモやauで24時間980円(非課税、以下同)の料金がかかる。Y!mobileを含めたソフトバンクは、まだここに追随できておらず、2段階制で最大2980円とさらに割高だ。この状況に一石を投じたのが、Y!mobileブランドとして発売したモバイルWi-Fiルーターの「Pocket WiFi 701UC」だ。【訂正】

Y!mobile
「クラウドSIM」に対応したモバイルWi-Fiルーター「Pocket WiFi 701UC」

 701UCは、単なるモバイルWi-Fiルーターではない。本体には「クラウドSIM」と呼ばれるバーチャルなSIMカードを内蔵。このSIMカードに、各国のキャリア設定を書き込むことで、料金を割安に抑えられる。701UCの場合、専用の料金プラン「Pocket WiFi 海外データ定額」によって、海外での通信料は1日90円。国際ローミングの約10分の1から30分の1という、破格の料金を実現した。

 クラウドSIMや701UCは、中国・深センに拠点を構えるuCloudlinkが開発したもの。キャリアのプロファイルを書き込むサービス運営も、uCloudlinkが行っている。同社のビジネスモデルは、それをWi-Fiルーターレンタル事業者などにB2Bの形で提供するというものだ。701UCと同型のルーターは、日本でも複数の事業者が取り扱っており、代表的なところでは、FREETELの端末事業を承継したMAYA SYSTEMが、「jetfi」としてサービスを展開している。MAYAはクラウドSIMの技術を、スマートフォンにも取り入れていく方針だ。

 一方で、レンタルWi-Fi事業者やメーカーとは異なり、キャリアは国際ローミングのサービスを用意している。それを迂回(うかい)する形で渡航先のキャリアと直接つながるクラウドSIMのような仕組みは、敬遠される傾向がある。実際、uCloudlinkのWi-Fiルーターが大手キャリアに採用されたのも、初のことだという。

 ではなぜ、Y!mobileが701UCを採用したのか。ソフトバンクでY!mobile事業を統括する、執行役員本部長の寺尾洋幸氏と、uCloudlinkの日本法人で社長を務める林霖(Lin Lin)氏、同取締役の郁星星(Yu Xingxing)氏に話を聞いた。

ソフトバンクがuCloudlinkのルーターを採用した経緯

Y!mobile
ソフトバンクの寺尾洋幸氏

―― サブブランドではありますが、Y!mobileも国際ローミングは提供しています。なぜ、現地のキャリアと直接つながる701UCを発売したのでしょうか。経緯を教えてください。

寺尾氏 Y!mobileはもともとのイー・アクセス時代からPocket WiFiを出してきましたが、今、その市場がものすごく厳しくなっています。ソフトバンク全社としては、「ギガモンスター」のようなスマホのデータ通信の大容量化をしていますが、そこで何とかもう一踏ん張りできないかと、市場を探していました。

 ちょうど昨年(2017年)の秋口ぐらいに、uCloudlinkさんのサービスと出会いました。時々海外に行ったときにWi-Fiを見ると、ものすごい数の「Glocalme」というSSIDが出るのは気になっていました。決断できない中で林さんとお話しましたが、「まずは深センの工場を見に来てください」と言われてので、行くことにしたんです。

 uCloudlinkのある深センはテックカンパニーがいっぱいあるところで、マーケティングやヘッドクオーターのあるキレイなオフィスに案内されましたが、一番印象に残っているのは、開発フロアです。マーケティング部門とは部屋が分かれていて、「こちらが開発部門です」と紹介されたのですが、そこがものすごく汗臭かった(笑)。

 口だけの会社もある中で、僕らがPHSを始めたときのエンジニアの部屋と同じ匂いがしました。一生懸命開発をしている会社だったし、どういうステータスで開発が進んでいるのかという話も信頼できました。偶然の縁でしたが、林さんたちが面白かったので、もしかしたらうまくコラボレーションできるのではと思い、始めたのが背景です。

―― とはいえ、1日90円だと、国際ローミング収入が減ってしまう懸念もあったのではないでしょうか。この仕組みをキャリアが提供したことには、驚きもありました。

寺尾氏 (懸念が)ないわけではないですが、(月額基本料の)3980円(税別)は他のPocket WiFiのプランに少し足した金額になっているので、そこで解消はできると思っています。海外に行きっぱなしの人をターゲットにしたものではないので、年に数回の渡航なら問題ないと思っています。石野さんのような人(2017年実績で11回の海外渡航)に使われたら、赤が出てしまうかもしれませんが(笑)。

 ただ、プライベートでもローミング料金は高いと思っています。下がってはいますが、まだ(ドコモやauで)1日1000円程度はかかる。現地SIMを買うという手はありますが、これはこれでハードルが高い。ハードルが高いことに加え、普段のSIMカードでローミングしておかないと、緊急の電話にも出られなくなってしまいます。

 電話がかかってくるのは、本当に困ったときか、怒られるときです(笑)。これがつながらないと、結構ややこしいことになってしまう。ということを考えると、海外でのPocket WiFiでの需要はあるのではないかと思います。

―― 確かに海外で現地SIMを買い、日本で使っているSIMを別の端末に挿してカバンに入れておくと、電話を取り逃してしまうことがあります。

寺尾氏 そういう需要があると思いました。(海外に)あんまり行かないが、行くときにきちんとサポートが受けられる。MVNOのデータ通信速度にも不満があるとも聞くので、運がよければそのニーズも拾えるかもしれない。もちろん、これがビックリするほど売れるとは思っていませんが、手堅いところではあると思っています。

―― データローミングが1日約1000円というのは、他社の話ですが、御社ももう少し下げたりはしないのでしょうか。

寺尾氏 頑張ります。今の設定は明らかに高いので、改善しなければいけないと思っています。今後は、値下げした料金とこの商品のバランスをどう取るかという話も出てくるとは思っています。

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