「Pixel 3」の“おサイフケータイ対応”とGoogle Payを取り巻く最新事情:鈴木淳也のモバイル決済業界地図(2/3 ページ)
米Googleは10月9日(米国時間)に「Pixel 3」「Pixel 3 XL」を発表する見込み。これら新機種では、Google製端末初の“おサイフケータイ”対応を実現することが複数の関係者の話として伝わってきている。今回はPixel 3からみる最新の「おサイフケータイ」事情についてまとめてみたい。
Google Payと“おサイフケータイ”の関係
なぜ日本国内で提供されるサービスをHCEベースにできなかったかといえば、FeliCa系サービスとHCEの相性が悪いからだ。NFC Forumが定める標準では、FeliCa向けのインタフェースとしてHCE-Fが用意されているが、これはあくまでFeliCaの通信確立に必要な仕様を網羅しただけであり、セキュアエレメント(FeliCa SE)のモバイル端末への搭載を規定したものではない。Android 7.0以降ではHCEのインタフェースを拡張した「HCE-F」に対応したものの、FeliCa SEそのものの仕組みまでソフトウェア的にエミュレーションするわけではないため、各ベンダーがFeliCa相当の仕組みを自力で実装しなければいけない。
このHCE-Fにおける問題は2つある。1つ目が「FeliCa SEと同等の機能をソフトウェア的に実装できるか」。日本国内で提供されるFeliCaサービスの多くはストアードバリュー(Stored Value)方式の電子マネーであり、高速処理のために電子マネーの“価値”をICチップ(FeliCa SE)内部に保持しているため、これを恒久的に安全に保持する仕組みが必要だ。
また処理速度の問題もあり、例えばモバイルSuicaのように交通系ICシステムで「200ミリ秒」という反応速度をソフトウェア的に実現できるかどうか分からない。FeliCa技術を開発するソニーによれば「端末依存だが、必ずしも安定した処理速度を実現できるか分からない」としており、ハードウェア型であれば一定したパフォーマンスが期待できる一方で、ソフトウェア処理は端末の性能や環境による部分が大きく、顧客側(この場合はJR東日本)の要件を満たせるとは限らないというわけだ。
問題の2つ目は「HCEは必ずAndroid Pay(Google Pay)を起動した状態で使用する必要がある」という点だ。正確にいうとAndroid特有の実装なのだが、HCEの利用にあたっては決済用アプリ(この場合はAndroid Pay/Google Pay)を必ずフォアグラウンドの状態にし、カードが選択されている必要がある。つまりAndroid端末のロック状態を解除し、アプリを起動し、決済に利用するカードが選択されている状態で、店舗のレジ横にある決済端末にスマートフォンをかざさなければならない。
iPhoneはiPhone X以降のFace ID導入で多少煩雑になったが、それでも本人認証を済ませてiPhone本体を決済端末にかざすだけで済むことを考えれば、Android側の面倒さが分かるだろう。だがここで「あれ? 自分が日本でGoogle Payを使うときは、こんな面倒な手順を踏まなくても端末をかざすだけで決済できているよ?」と思われるかもしれない。前述のように、現在のGoogle Payは「おサイフケータイ」そのものであり、使い勝手もまたおサイフケータイを踏襲しているためだ。そしてこれが、「HCE-Fにおサイフケータイを導入できない」最大の理由でもある。
Apple Payや海外のGoogle Payは能動的決済手段だといえる。それは、自分で決済端末を操作して決済手段を選ぶからだ。具体的には、決済に使うカードを自分であらかじめ選択しておき、相手に提示する。一般に、海外の決済シーンでは、店員相手に「カードで決済する」ことだけを伝えれば、後は自分で決済端末を操作して支払いを完了させる。その間、基本的に相手にカードを渡すことはない。
米国などではまだカードを手渡す文化が若干残っているが、ICチップ付きカードが広く利用されている欧州などでは、レストランで店員が決済端末をテーブルまで持ってきて、客にカード挿入からPIN入力まで行わせるのが普通だ。これはセキュリティ上の理由が大きく、日本も今後インバウンド需要に向けて対応する必要があるといわれている。
一方で、日本は受動的決済手段が一般的だ。最近こそPIN入力決済が増えてきたものの、ICチップ付きカードでさえ店員に渡して端末操作を促す場面が多い。電子マネーにおける決済でもそうで、店員にあらかじめ「○○で支払います」と宣言しておくことで店員がPOSや決済端末を操作し、ICカードやスマートフォンを読み取り機にタッチすることで支払いを完了させる。
現状のおサイフケータイはこの受動的決済文化を色濃く反映しており、決済端末側で利用する支払い手段を指定しておかないと決済が完了しない。より正確にいえば、決済端末側でサービスを指定しないと、どの手段で決済されるかその瞬間まで分からないということだ。おサイフケータイでは、登録されているクレジットカードや電子マネーのサービスが全て平等に待機状態となり、決済端末側からリクエストがきた段階で該当するサービスが反応し、決済が行われるようになっている。
つまり、海外の決済端末と同様に「総待受けで、利用者が選択したカード(この場合はカードブランド)に反応する」という仕組みの場合、おサイフケータイでは支払い手段がランダムで決まるというわけだ。以前にローソンで導入されていたPOSの場合、おサイフケータイ対応端末を読み取り機に置いておくことで利用可能な電子マネー一覧が表示されてユーザーが選択できる仕組みが提供されていたが、これは「おサイフケータイは総待受け」の仕組みを応用して、どの電子マネーサービスが利用できるかを順番に調べているだけだ。
また、この仕組みを逆に応用することで「Apple Payで支払います」という決済も可能になる。Apple Payでは、Expressではない設定のカードは1種類しか選択できないため、利用者が決済に使いたいカードはあらかじめ決まっている。そこで決済端末側は「Apple Payで支払います」宣言を受けた段階で「iDまたはQUICPay、あるいはSuica」の3種類で待ち受けを行っていれば、iPhone側で選択されているカードに応じて3種類のいずれかの手段で決済が行われることになる。例えばパナソニックのJT-R600CRのような最新決済端末では、POS側のソフトウェア改修でこのようなApple Pay機能を実装可能だ。
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