5Gの技術を整理する 当初はなぜ高速大容量通信しか使えないのか?:5Gビジネスの神髄に迫る(2/3 ページ)
5Gは4Gの技術をベースに進化しており、高速大容量通信、超低遅延、多数同時接続という3つの特徴がある。だが5Gは4Gまでの進化と異なり、劇的な技術革新によって高性能を実現したわけではない。4Gまでの技術をベースにしながら、さまざまな技術を組み合わせているのだ。
クラウドの負担と距離を減らして低遅延を実現
一方、超低遅延を実現する上で用いられる技術は「モバイルエッジコンピューティング」(MEC)だ。
ネットワーク遅延が発生する理由は大きく2つあり、1つは通信をする端末と、その処理をするクラウドとのネットワーク上の距離によって発生する遅延だ。モバイル通信は、無線区間以外はほぼ光ファイバーを用いて通信しているが、光とはいえ日本から米国や欧州など、非常に遠い場所と通信をすると、どうしても遅延が発生してしまう。
そしてもう1つは、クラウドの処理に時間がかかることで発生する遅延だ。例えば監視カメラの映像をクラウドで処理し、離れた場所の端末で視聴するような場合、クラウド側で映像を圧縮してから映像を送ることが多いので、その処理時間が遅延につながってしまうのだ。
そうした2つの負担を軽減するために用いられるのがエッジコンピューティングである。要は端末に近い場所にエッジサーバと呼ばれるものを設置し、そこでクラウドでこなす処理の一部を負担することによって、クラウドにかかる処理負担を減らしながら、通信する距離も縮めて遅延を小さくするのである。
そのエッジコンピューティングを、モバイル通信に持ち込んだのがMECである。MECでは基地局など端末により近い場所にエッジサーバを設置し、そこで処理の一部を負担することで低遅延を実現する訳だ。
ネットワークを分割して3つの特徴を同時に生かす
そして多数同時接続、ひいては他の2つを含め5Gの特徴をフルに生かす技術とされているのが「ネットワークスライシング」である。
5Gではスマートフォン以外にも幅広い利用用途が想定されているが、実は5Gの3つの特徴を同時に必要とするものはあまり多くなく、例えば8Kの映像配信に多数同時接続は必要ないし、工場に設置してデータを取得するセンサーに高速大容量通信は必要ないはずだ。しかし従来のモバイルネットワークの仕組みでは、映像配信でもセンサーでも一律に同じネットワーク容量が割り当てられてしまっていたことから、無駄が多く効率が悪かったのだ。
また今後、5Gで超低遅延を活用し、遠隔運転などのクリティカルな作業を実現する上では、スマートフォンの利用が増えて混雑しているからといって、遅延が増えてしまうようでは使い物にならない。それゆえ5Gではネットワークの無駄をなくしてより多くの機器を同時に使えるようにし、なおかつ用途に応じた適切なネットワークの割り当てをする必要が出てきているのだ。
そこで登場するのがネットワークスライシングだ。これはネットワークの容量を仮想的に分割し、用途に応じて適切な容量を割り当てる技術であり、例えば映像配信には大容量、センサー用には小容量と、適切なネットワークの容量が割り当てられることで、多くのデバイスとの通信を同時に効率よくこなせるわけだ。
またネットワークを分割して割り当てることで、重要性が高い自動運転用の通信は、混雑が生じても確実に通信が継続できるよう一定の幅を確保するといった対応も可能になる。そうしたことから5Gが持つ3つの特徴を生かす上で、ネットワークスライシングは欠かせない技術といえる。
関連記事
- スマートフォンに収まらない5Gの可能性 何を生み出そうとしているのか
スマートフォンだけでなく、さまざまな業種、業界に影響を与えるとされる5G。その一方で、具体的な利用事例があまり見えていないのも事実だ。では実際に5Gで一体何が実現し、どのような産業に大きな影響を与えると考えられているのだろうか。 - NTTドコモが300の実証から見いだした、5Gビジネスでも「高速大容量」が重要な理由
5Gに対する漠然とした期待は非常に高いものの、ビジネスへの具体的な活用はあまり見えていないという企業は多いだろう。そうした5Gが抱える大きな課題に、積極的に立ち向かっているのがドコモだ。同社は5Gをビジネスに生かす上で、重要なポイントはどこにあると見ているのだろうか。 - 「5G元年」に出遅れた日本、5Gへの取り組みは本当に遅れているのか?
昨今大きな注目を集めている「5G」。日本では2020年3月にサービス開始予定だが、実は海外では2019年が「5G元年」であり、多くの国が既に5Gサービスを提供している。なぜ日本は5Gのサービス開始が遅れているのか? そして日本の5Gに対する取り組みは本当に遅れているのか? - 「5Gの発展」と「6Gの世界」はどうなる? DOCOMO Open House 2020で語られたこと
「DOCOMO Open House 2020」では、5Gの進化と、次世代の6Gに関するパネルディスカッションを実施。ドコモ、Ericsson Research、Nokia、エヌビディアのキーマンが参加。6Gの定義やキーテクノロジー、スケジュールなどについて語った。 - 5Gでどんなビジネスが生まれる? 「DOCOMO Open House 2020」で見られるソリューション
「DOCOMO Open House 2020」では、幅広いパートナー企業と「協創」したさまざまな取り組みが数多く紹介されている。ドコモが考えている5G時代の新しいビジネスやサービスの中から一部を紹介しよう。警備、ゴルフ、教育、広告、漁業、医療のソリューションを見てきた。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.