格安SIMの“音声定額”は実現するのか? 食い違う日本通信とドコモの主張:石野純也のMobile Eye(1/3 ページ)
MVNOの日本通信が、来週、音声定額サービスを投入する。背景には、不調に終わっていた日本通信とドコモの協議に、総務大臣裁定が下されたことがある。一方で、現時点ではまだ協議が完全に合意に達したわけではなく、日本通信とドコモの間には、認識の相違も存在する。
MVNOの日本通信が、来週、音声定額サービスを投入する。同社の代表取締役会長である三田聖二氏が、Twitterで新サービスの投入を示唆しており、「合理SIM」や「音声定額SIM」などの名称になることがうかがえる。背景には、不調に終わっていた日本通信とドコモの協議に、総務大臣裁定が下されたことがある。一方で、現時点ではまだ協議が完全に合意に達したわけではなく、日本通信とドコモの間には、認識の相違も存在する。その中身を読み解いていきたい。
2019年11月から続いた日本通信対ドコモの戦い、総務大臣裁定までを振り返る
日本通信の申請した総務大臣裁定が確定したのは、6月30日のこと。もともと同社は、2019年11月15日に、ドコモとの協議が進まないことを受け、総務大臣の裁定を求める申請を行っていた。その目的は、音声通話サービスをより廉価にすること。日本通信が求めていたのは、音声通話サービスの卸提供の料金見直しや、かけ放題オプションなどのプランを卸に加えることだ。2020年2月4日には、総務省が裁定案を電気通信紛争処理委員会に諮問。卸価格を原価に適正な利潤を加えた額に設定するよう求めた一方で、定額プラン、準定額プランの提供については却下されている。
新型コロナウイルス感染症拡大の影響もあり、総務大臣への答申が遅れたが、6月10日、11日に文章での審議を行い、定額プランの提供は、原案通りに日本通信の主張が退けられている。これに対し、卸提供の料金見直しについては、総務大臣が両社からの意見聴取したあと、裁定すべきとの意見が添えられた。2社からの返答を踏まえ、6月30日に正式な裁定がくだされた格好だ。裁定までの経緯は、以下の記事が詳しいので、流れをつかむ上で一読しておくといいだろう。
日本通信が主張していた卸提供の料金とはどのようなものか。日本のMVNOは、データ通信に関しては自社で交換機などを持ち、ドコモやau、ソフトバンクといったMNOと相互接続している一方で、音声通話はMNOの設備をほぼそのまま利用している。ドコモの約款を見ると、その料金は30秒20円。定期利用3年、1001回線以上で17円、2001回線以上で14円と、いわゆるボリュームディスカウントも実施している。MVNOの通話料が、おおむね30秒20円程度に設定されているのは、こうした卸料金に基づいているからだ。
一方で、料金は定額ではなく、従量課金のため、MVNOを契約するユーザーには少々使いづらい料金設定といえる。こうした不満の声を受け、MVNO各社は中継電話と呼ばれるサービスを導入している。ドコモの設備を迂回(うかい)して電話を発信することで、料金を下げる仕組みのことだ。各社ともサービス名称は異なるが、仕組みは同じ。発信時には「プレフィックス」と呼ばれる識別の番号をつける必要があるが、スマートフォンでは、これをアプリで行っている。
日本通信にも「b-mobile電話」というサービスがあり、iPhone、Android向けにアプリが用意されている。料金は30秒10円と、通常の電話の半額。5分までの通話がかけ放題になるオプションも用意されており、月額500円で利用できる。他のMVNOも、仕組みはおおむね同じで、中継電話サービスを利用すると、通話料はおよそ半額になる他、定額、準定額プランなどのオプションに対応する会社も少なくない。
関連記事
- 日本通信が申請した「総務大臣裁定」が確定 「音声定額を含む携帯料金4割削減プラン」の提供を表明
日本通信が2019年11月15日に申請した総務大臣裁定が、ついに確定。同社のNTTドコモに対する「通話料金」の値下げについては主張が認められた。これを受けて、同社は「音声定額を含む携帯料金4割削減プラン」を速やかに提供するとしている。 - 日本通信の「総務大臣裁定」申請、裁定案が諮問される 内容は「1勝1敗」?
日本通信が2019年11月に行った「総務大臣裁定」の申請について、総務省がその裁定案を諮問した。諮問先である電気通信紛争処理委員会での議論が順調に進んだ場合、3〜4月をめどに正式な裁定が下されることになる。 - 日本通信が通話料を巡る「総務大臣裁定」を申請 ドコモとの協議が不調
日本通信が、電気通信事業法に基づく「総務大臣裁定」を申請した。卸電気通信役務に関するNTTドコモとの協議が不調に終わったことを受けた措置で、音声通話定額サービスの卸提供などを求めている。 - 「IP電話」や「中継電話」の通話料金はどうして安いの?
格安SIMで音声定額を実現するハードルは高いのですが、通話料金を安く済ませられるサービスは数多く存在しています。IP電話やプレフィックス番号を付けるサービスがありますが、これらはなぜ安くできるのでしょうか? - 格安SIMに「通話定額プラン」がないのはなぜ?
電話をヘビーに使う人にとっては便利な通話定額。しかし、「格安SIM」には通話定額プランが事実上無いそうです。なぜなのでしょうか?
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.