強化した暗所撮影機能が作品作りを変える――落合陽一氏が感心する新型iPhoneのカメラ性能:iPhone 12 Pro評
大きな飛躍を遂げた「iPhone 12」のカメラ性能について、林信行氏が写真家でもある落合陽一氏に話を聞いた。その心は――。
メディアアーティスト、研究者、実業家、教育者とさまざまな顔を持ち、八面六臂(ろっぴ)の活躍を続ける落合陽一氏。実は学生時代から写真の仕事をしてきた写真家として別の一面も持つ。
「イメージによる表現」と「物質による表現」の間にある表現の可能性を模索した2019年には、写真雑誌「IMA(イマ)」などを発刊するアマナのギャラリーで大規模な写真展「質量への憧憬 〜前計算機自然のパースペクティブ〜」や、ライカ銀座プロフェッショナルストアで写真展「情念との反芻」を開催し、デジタルとアナログの間にある質量性に着目した写真作品を多数展示。
そして2020年の夏には、渋谷モディで開催された「未知への追憶」でも多くの写真作品を展示。一方で、ヒューマンコンピュータインタラクションの研究者としてコンピュテーショナルフォトグラフィーに対しても造詣が深い。
その落合氏に、発売直前からiPhone 12 Proを使ってもらい、その印象を聞いた。忙しい合間をぬって撮影したサンプル写真もいくつかもらえたので、それと一緒に紹介しよう。
充電するのが面倒だったんだ――MagSafeに感心
本題であるiPhone 12のカメラ性能の評価に入る前に、まずはiPhone 12 Pro全体の印象について聞いた。最初に気になったのは、iPhone 4や5を思い出させるフラットエッジのデザインだ。
iPhoneは日本で発売された最初の製品、iPhone 3Gから使っていたという落合氏。その初代製品は側面が丸みを帯びていたが、その後、平らな側面を持つiPhone 4が登場したことで、道具としてのリアリティーが変わったと落合氏は回想する。今回、iPhone 12 Proが再びフラットエッジになったことで、その時と同じ「非常にいい印象」を持ったという。
一方、落合氏が全体の印象の中で、一番感心したのはMagSafeだ。「iPhoneを(充電ケーブルに)挿すの面倒くさかったんだな、俺」と改めて気づかされたという。
また、ここは素人目にはなかなか気がつきにくい部分だが、ディスプレイがわずかに大型化したことで表示領域が広くなり、ディスプレイが明るくなった点にも感心したようだ。
さらに画像を含めた処理も速くなったと感じたようだが、期待の5Gに関しては、まだ、ほとんど5Gでつながることがなかったという。
暗所対応の強化がコンピュテーショナルフォトをより効果的に
続いて、落合氏にカメラとして見たiPhone 12 Proの印象を聞いた。
短い期間での評価だったが、さまざまな撮影条件下で本製品を試していた落合氏。Twitterで一番話題になっていたのは、薄暗いバーカウンターに置かれた落合氏が愛用しているライカのカメラの写真だ。
暗い場所で、ポートレートモードを使って撮影したという。
被写体(ライカのカメラ)と被写体の周囲がすごくシャープに撮れつつ、後ろがきれいにボケている写真。
大学の研究室では、コンピュテーショナルフォトグラフィーについて研究することもある彼だが、これまでの暗いところに弱いカメラでは、暗所のコンピュテーショナルフォトグラフィーは難しかったという。暗いところでもきれいに撮れるiPhone 12 Proでは、暗所で撮った写真でもきれいな合成ができていると感心する。
上の写真は、同じライカを明るい場所で撮ったものだが、こちらと比較すると背景のボケ方などの基本処理は全く一緒だ。つまり、暗いところで撮った写真は、LiDARにより暗所でもきれいに被写体を背景と区別できたおかげで実現したiPhone 12 Proならではの写真だと落合氏は分析する。
ちなみに、別のタイミングで話したとき、落合氏はこのiPhoneのボケ味をカスタマイズするオプションが欲しいと熱弁をしていた。落合氏の研究室には、ボケ味の違いをコンピュテーショナルフォトグラフィーで実現する研究をしている人もいたという。
HDR写真も鮮やか、手ブレ補正にも感心
iPhone 12 Proのコンピュテーショナルフォトグラフィーといえば、明暗のコントラストが大きいハイダイナミックレンジ(HDR)の写真でも大きな効果を発揮する。
落合氏は、この特徴も検証しており、秋葉原の路地裏から漏れてきた太陽の光を捉えた写真を撮っていた。ビルの間の暗く狭い路地裏、その間からのぞいた太陽の中心から伸びた光の筋(光条)。下にはカメラのレンズを通したときに必ず現れるゴーストが描かれている。
通常は、この太陽の光の明るさに引っ張られて、路地裏の左にある鳥居や右にある壁の影のグラデーションなどは暗く潰れてしまうところだが、それがきっちり描かれているのがすごいと評価する。ちなみにこの写真、iPhone標準の写真編集機能でフィルターをかけただけで、特殊なアプリは一切使っていないという。
ここでも写真が精細に感じるのは、暗い部分がしっかりと撮れているからだと分析する。
その後も、より暗いゴミが放置された路地裏の写真も撮っている。自動的にISO感度が上がっていて、本来ならノイズが乗った粒子の見える写真になるはずだが、それが目立たず、エアコンの室外機の暗い部分などもよく描かれていると感心していた。
暗いところでノイズが乗りにくいということで、バーカウンターのようなところに漂う煙を撮っても写真としてしっかりと成立する。
さらにナイトモードを使えば、手持ちで撮影したシャッタースピード3秒の写真でも、例えば深夜、六本木の坂で見かけたグラフィティのディテールもよく描かれ、実は夜になると街灯も少なく真っ暗になる目黒川の流れにある暗い部分のディテールも、しっかり描けている写真が撮れたという。
だが、落合氏が、さらに感心したのは動画撮影機能だ。特に手ブレ補正の部分だった。歩きながらの撮影やタクシー移動中の風景など、さまざまなシチュエーションで試し撮りをしたが、縦揺れも横揺れもほとんど感じず、まるで手ブレ防止のジンバルに載せたカメラで撮ったような安定感があったと感心する。
本格的なカメラよりもはるかに扱いやすいiPhoneで、ここまでの映像が撮れるとなると、これを数台購入して映像を使った作品作りに使えばと、作品作りの可能性にも広がりを感じたようで、このiPhone 12 Proよりも、さらに強力な手ブレ補正がついたiPhone 12 Pro Maxにも大きな期待を寄せていた。
落合氏とのやりとりは、冒頭のYouTube動画でも実際に確認することができ、落合氏がiPhoneの標準機能を使って写真を加工する様子も披露してくれている。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
関連記事
「映像美」を再定義するiPhone 12シリーズの新たな可能性
Appleが10月13日(現地時間)に行ったスペシャルイベントで、新型iPhoneとHomePod miniが発表された。そこから見えてくることについて、林信行氏がまとめた。
AI時代に向けたこれからのiPhone――林信行の「iPhone XS」「iPhone XS Max」実機レビュー
それは「最上質」を目指したフラグシップ。林信行氏が「iPhone XS」「iPhone XS Max」の魅力に迫る。
「iPhone 12」「12 Pro」を試して分かった実際の違い 11 Proから写真は大進化
10月23日の販売開始に先駆けて「iPhone 12」「iPhone 12 Pro」を数日間試用した。iPhone 11からさらに進化したカメラの性能を中心に、実機を使い比べたインプレッションをお届けする。
「iPhone 12」は“高くてもProの方がお買得”と思う理由 違いは望遠カメラにとどまらず
例年と異なり1カ月遅れで、そしてオンラインのイベントで発表された「iPhone 12」。最小の“mini”が加わったiPhone 12シリーズか、さらに大画面化した“Max”を含むiPhone 12 Proシリーズか――選び方のポイントとは?
「iPhone 12」シリーズは4GのSIMでも使える? 各社のSIMを試してみた
「iPhone 12」シリーズは5Gに対応したが、SIMの挙動が気になるところ。これまで使っていた4GのSIMは利用できるのだろうか。各社のSIMを実際に挿して通信できるか確認してみた。






