世界に先駆け日本で「5Gショーケース」を展開したシスコの狙いとは:5Gビジネスの神髄に迫る(1/2 ページ)
5Gネットワーク環境を用いた実証実験ができるラボ環境の運用を開始したシスコシステムズ。無線以外の部分はほぼ実際の国内のネットワークと同じ環境を提供できることが特徴だ。無線技術を持たない同社がなぜ、5Gで遅れているとされる日本で、5Gのビジネス創出に向けたラボを設立するに至ったのか。
2020年11月12日、5Gネットワーク環境を用いた実証実験ができるラボ環境「5Gショーケース」の運用を開始し、5Gによる新たなビジネス価値創出に向けた取り組みを進めているシスコシステムズ。無線技術を持たない同社がなぜ、5Gで遅れているとされる日本で、5Gのビジネス創出に向けたラボを設立するに至ったのか。情報通信産業事業統括 システムズエンジニアリング本部 本部長の吉田宏樹氏と、情報通信産業事業統括 システムズエンジニアリング本部 部長の山田欣樹氏に話を聞いた。
5Gの「幻滅期」後を見越した取り組み
シスコシステムズといえば、ルーターやスイッチなど、コンピュータのネットワークに関連する機器などを提供する企業として知られるが、モバイルの無線通信技術は持ち合わせていない。その同社がなぜ5Gの取り組みに力を入れているのか、ピンと来ない人も多いかもしれない。
吉田氏によると、同社はインターネット関連の事業者だけでなく、固定やモバイルなどの通信事業者にもコアネットワーク関連を中心に多くの通信機器を提供しており、日本では高いシェアを獲得しているのだそうだ。そうした通信事業者に近い立場にいる同社が5Gショーケースを展開する狙いはどこにあるのだろうか。
吉田氏は「5Gがポテンシャルを発揮するには、これから多くのイノベーションを生み出していかないといけないと考えている」と話す。これまで5Gは非常に高い期待が持たれていたが、実際のサービスを見るとまだ特別なものではなく期待感が失われつつあり、ガートナーのハイプ・サイクルでいうところの「幻滅期」に差し掛かっているというのだ。
だが幻滅期はサービスが成熟する時期でもあり、そうした時期に何が求められているかを考えた結果、立ち上げたのが5Gショーケースだという。シスコシステムズは幅広い領域でネットワークプラットフォームを提供しており、企業向けのさまざまな製品群を持ち合わせていることから、それらを活用して5Gのポテンシャルを発揮するための技術課題を解決する環境を提供するに至ったわけだ。
ただしコアネットワークから無線、そしてデバイスに至るまでエンドツーエンドで5Gのネットワークを用いた検証環境を実現するには、シスコシステムズだけでは対応できない部分もある。そこでパートナー企業と連携し、無線基地局やアプリケーション、デバイスなどを持ち込んでもらい「世の中が期待する5Gサービス実現のためどのような技術課題があり、どうすれば解決できるかを実証実験する環境を作りたかった」と吉田氏は話す。
無線ありきではなくソリューション開拓を重視
もっとも国内では、実際の5Gネットワーク環境を用意して実証実験やPoC(概念実証)などができるラボを提供する取り組みは、既に多くの携帯電話会社やローカル5G事業者などが実施している。5Gショーケースのパートナー企業として公表されている企業を見ると、NTT東日本やNECなど自らローカル5Gを展開しラボを持つ企業も存在している。
そこで気になるのは、同社の5Gショーケースが他社のラボとどのような違いがあるのか? という点だ。吉田氏はその違いについて、「弊社のラボではほぼ日本のネットワークインフラのレプリカを用意できる」と答えている。
どういうことか。先にも触れた通り、同社は多くのインターネット通信事業者や企業のICTインフラのバックボーン部分で用いられている機器を多数提供している。そこでそれらの製品を用いることにより、無線以外の部分はほぼ実際の国内のネットワークと同じ環境を提供し、実際に検証ができることが、他のラボとの大きな違いとなるわけだ。
もっとも、同社は基地局など無線部分の製品は持ち合わせていないが、同社は基地局などのオープン化を進めるORAN Allianceの取り組みに賛同しているという。そこでORANのソリューションを提供している米JMA Wirelessや米Airspan Networksなどとパートナーシップを結び、無線部分の機材の提供を受け、相互接続検証などを進めているのだそうだ。
ただし5Gショーケースで無線通信をするためのローカル5Gの免許は現在進めている最中だという。山田氏によると2020年末から2021年初頭にかけて免許の取得申請をし、「2021年2月中には免許取得できるのではないか」とのこと。2021年の早い時期にはローカル5Gを使える環境を整えたいとしている。
当初免許を取得するのは28GHz帯だが、2020年中に割り当てが予定されている4.7GHz帯も取得する計画とのこと。ローカル5Gの周波数帯ではスタンドアロン運用ができる4.7GHz帯に対する注目が非常に高いが、山田氏は「いろいろな基地局ベンダーやアクセス方式への対応を、5Gショーケースの中で実現したいと考えている」と話し、複数の周波数に対応することを重視する考えを示している。
ローカル5Gが今後1つの周波数帯だけでカバーされるのではなく、いろいろな無線方式を混在させ、適材適所で使い分ける、マルチアクセス環境になることを想定していることから、より実態に近いマルチアクセス環境を構築したい狙いがある。5Gの無線通信だけにフォーカスするのではなく、5Gが社会に実装された今後を見据えたソリューションを包括的に開発・検証できる環境を用意することが狙いとなる。
それゆえ同社としては、ローカル5Gありきで5Gショーケースを展開するわけではない。技術やコストなどの理由から、自社でネットワークをマネジメントできないが、キャリアのネットワークを使いたいという要望が顧客から出てくることも考えられる。同社が仲介役となって顧客とキャリアを引き合わせることも「5Gショーケースでやりたいことの1つだ」と吉田氏は話している。
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