キャッシュレス決済の売り上げを毎日入金 JCBとpringの実証実験で見えたこと:モバイル決済で店舗改革(1/2 ページ)
キャッシュレス事業者から店舗への入金は即日であることは少なく、場合によっては「翌日の仕入れ」に影響しかねない。そうした課題を解決するために、pringアプリを通じてJCBから店舗へ売上金を毎日入金するという実証実験を行っている。店舗側の潜在的なニーズを探ることも目的の1つだ。
手持ち現金と銀行手数料――。店舗にとってのキャッシュレス決済の課題として、この2つが挙げられることは多い。キャッシュレスの支払いが増えるほど、店舗にとっては翌日の仕入れなどに使う手持ち現金がなくなり、現金を引き出すためなどの手数料がかさんでしまう。キャッシュレス事業者から店舗への入金も即日であることは少なく、場合によっては「翌日の仕入れ」に影響しかねない。
そうした課題を解決するために、JCBとpringが共同で実施しているのが、pringアプリを通じてJCBから店舗へ売上金を毎日入金するという実証実験だ。実験は7月1日から行われており、東京・武蔵小山商店街の10店舗が実験店となっている。
こうした実験を実施する背景と実際の利用動向を、両社や武蔵小山商店街振興組合の尾村優太事務長に聞いた。
入金サイクル短縮化のニーズが高まっている
キャッシュレス決済における店舗側の課題としては、決済手数料が広く知られているが、他にも課題として挙げられているものはある。過去に行われた調査では、店舗の24.8%が手元現金が減って翌日の仕入れに支障が出ることを懸念しているという結果が出ている(参考記事)。
特にクレジットカードでは、以前は入金が1カ月に1回だけ、という例も多かった。最近は月2回、毎週、といった細かく入金するサービスも出ているが、JCBによれば、現状で月2回の支払いが多く、入金サイクル短縮化のニーズは正しく把握できていないという面があった。
とはいえ、入金サイクル短縮化のニーズは、このコロナ渦でさらに高まっており、「早急に何か手がないかと検討していた」(JCB)という。仮に毎日入金することになると、特に小規模店だと1日の売り上げが低いので、1回の入金額が少なくなる。その場合、振込手数料をJCB側が負担しているので費用対効果が低くなるという課題もあった。「入金サイクルを早めながらコストを抑え、ビジネスとして成立させるために、銀行振り込み以外の手段がないか検討していた」とJCB。
そこで出てきたのが「加盟店Wallet」という仕組みで、直接現金を入金するのではなく、加盟店のウォレットアプリに対して、電子マネーのようなバリューで支払えないか、という案だ。
クレジットカードの支払いでは、カード利用して商品が購入されると、利用総額が加盟店からカード会社に請求され、決まったタイミングで売上金が支払われるが、これを加盟店Walletに毎日振り込むというのが今回の仕組み
pring法人送金サービスを使って売り上げを入金
それを実現するために協業したのがpringだ。Googleの買収で話題となった同社だが、法人向けの送金サービスとして、1件50円という比較的安価な金額で送金する「pring法人送金サービス」を提供している。今回の実験では、店舗側にpringを導入してもらい、それに対して送金することで、毎日売り上げを入金することが可能になった。
pringに入金された残高は、pringのコード決済機能を使って別の店舗での支払いにも使える他、店舗の好きなタイミングで銀行ATMから出金することができる。入金された売り上げは店舗の法人口座に出金されて仕入れなどに使われると両社はみているが、実際にどういった使われ方をするのかを、今回の実験で検証していく。
実験が行われる武蔵小山商店街は、商店街としてJCBとの包括契約があり、商店街代表者を中心に柔軟に対応してくれることから選ばれた。
店舗側の潜在的なニーズを探ることも目的の1つだ。もともとJCBは、楽天ペイメントやリクルートのAirレジ、Squareといった他の決済サービス事業者が加盟店獲得をしているケースもあり、そうした事業者が入金サイクルを決めている。即日払いも提供している事業者もあり、店舗側のニーズ自体はあるとみている。
毎日入金のニーズはどれだけある?
武蔵小山商店街でのキャッシュレス比率は「20%いかないぐらい」(JCB)。まださほど問題となっていないが、この比率が40〜50%までいくと、手元現金が減って資金繰りの問題が出てくることは「容易に想像できる」という。JCBではそうした場合に毎日の入金が必要になるとみている。
ただ、問題は1日の売り上げがそれほど多くない店舗への日次払いだ。「毎日(売り上げが)数万円というレベルだと、手数料の200円、300円というのは非常に苦しい」(同)ため、pringを導入することで手数料を抑える。
こうした毎日の入金は「全ての店舗が必要とはしていない」というのが両社の考え。JCBからの入金は毎日実施しつつ、pringからの引き出しタイミングがいつになるか、1カ月に何回行うか、といったデータを実験で取得。何回入金すれば適切かを探っていく。
pring法人送金サービスでは、経費精算や業務委託費といった一部の支払いで使われていたが、今回の実験では店舗への支払いに使われる形で、こうした使われ方は初めてだという。その結果、pringへ入金されたバリューがどのように使われるかの興味を持って実験に参加するという。単に出金されるだけ、という形もありえるが、それだけだとpring自体のメリットが薄く、「その場合はpringの中身を改良することもある」(pring)。
pringは、入金された残高を銀行に出金したりATMから出金したりできる。毎月2回までは無料だが、今回の実験で「有料でも3回以上引き出したい」といったニーズがどれほどあるかも検証する。引き出したい回数が見えれば、サービスの実用化も見えてくる。
キャッシュレスの歴史が長い武蔵小山商店街
実証実験の舞台となった武蔵小山商店街は、クレジットカードの包括契約を40年前から行っており、キャッシュレスの歴史は長い。既に6割程度の店舗がキャッシュレス対応しているが、コロナ禍で導入自体は思うように進んでいない面もあるという。組合では、店舗の通信環境の整備や使い方のレクチャーなど地道な取り組みを続けていて、キャッシュレスに対する親和性の高い商店街といえる。
来店客のキャッシュレスニーズも高く、特にコロナ禍での接触機会削減のため、キャッシュレス決済比率は拡大。振興組合が把握している店舗では、この1年半で決済回数は2倍、取扱高も2倍以上になっているそうだ。
組合が包括契約を結んでいるため、売り上げはまず組合側に振り込まれ、それを各店に振り込むのだが、従来は月1回の入金だった。2020年からはこれを月2回に増やしているが、これ以上の回数になると、事務作業とコストメリットのバランスが難しい、というのが尾村氏の認識だ。
そうした中で、JCBとpringによる実証実験の話を聞き、商店街として各店のニーズを把握したいという考えで実験に参加した。これまでも、月1回の入金は厳しいという声は多く、仕入れに影響する場合には組合が建て替えることもあったそうだ。正式に月2回になってからは、より早期の入金を求める声はあまりないというが、それでも毎日になることで、尾村氏は新たなニーズの掘り起こしにつながることを期待する。
ちなみに、今回の即日入金の対象となるのはVisa、Mastercardでの支払いを除くJCBやアメリカン・エキスプレス、ダイナースといったクレジットカードと、コード決済、電子マネーの売り上げだ。JCBやpringだけの売り上げではないため、おおむね「売り上げの半分ぐらい」の比率になるそうだ。
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