Netflixが新プラン「広告つきベーシック」を導入する背景 成長は加速するのか
動画配信サービス大手のNetflixが、11月4日から新プラン「広告つきベーシック」を導入します。この背景には、ライバルとの競争激化やNetflixの会員数減少があると考えられます。動画配信サービスとして最大手のNetflixですが、2022年第1四半期には、2011年10月以来、会員数が初めての減少に転じています。
動画配信サービス大手のNetflixが、11月4日から新プラン「広告つきベーシック」を導入します。動画の再生前と再生中にスキップ不可の広告が再生されるというもので、広告の長さは当面は15秒または30秒。1時間あたり平均4分の広告が流れる予定だとしています。広告が流れる代わりに月額790円とベーシックプランよりも200円安くなっています。ただし、他のプランと違いダウンロードは不可。一部の映画やドラマはライセンスの関係で視聴できないなどの制限もあります。
Netflixが、広告を再生する代わりに低価格のプランを導入するというウワサは数年前から出ており、2022年第1四半期の決済報告に際し、投資家向けの説明会の中で広告付きプランの導入方針を明らかにしていました。Netflixはもともと広告導入には否定的で、第1四半期の決算報告でもグレッグ・ピーターズ CPO(最高製品責任者)は「私が広告の複雑さに反対し、サブスクリプションのシンプルさを絶賛していることを知っているはずだ」と述べていました。しかし、「低価格を望み、広告に寛容な消費者が望むものを手に入れられるようにすることは、非常に理にかなっている」と続け、消費者の選択肢を増やすために広告付きプランを導入する方針を示していました(参考リンク)。
当初、この広告付きプランは1〜2年かけて導入するとしていたのですが、ふたを開ければ方針発表から約6カ月でのスピード導入となりました。この背景には、ライバルとの競争激化やNetflixの会員数減少があると考えられます。
動画配信サービスとして最大手のNetflixですが、2022年第1四半期には、2011年10月以来、会員数が初めての減少に転じており、その会員数は、前四半期(2021年第4四半期)から20万人減の2億2164万人に。さらに第2四半期では97万人減少と2期連続での減少となりました。200万人の減少もあり得ると予想されていただけに、97万人の減少で済んだのはまずまずの結果と言っていいのでしょう。売上自体も前年同期比8.6%増と伸びています。第3四半期には会員数は240万人増と増加に転じていますが、その成長率は4.5%にとどまります。長らく急成長を続けていたNetflixもその成長が止まり、現状維持のフェーズに移行しつつあるようです。
ただし、その現状維持についても楽観できる状況ではありません。例えば、主にスマートホームやストリーミングサービスなどのレビューを実施しているReviews.orgが、米国ユーザーの4人に1人(25%)が2022年内にNetflixの解約を考えているという調査結果を発表しています。
解約を考える理由として最も多く挙がっているのが、Netflixの料金プランの値上げです。米国では2022年1月に3年ぶりの値上げが実施されており、最も安価なベーシックプランが月額9.99ドルに。これにより、コストパフォーマンスが悪くなったと考えている人が多いようです。また、8月にはライバルとなる米Disiny+が、月額7.99ドルの広告付きプランを12月に導入すると発表しており、価格競争の面でNetflixに不利に働いています。
こうした価格競争に対応するためにも、広告付きの安価なプランの導入は急務と考えたとしても不思議ではありません。ただ、Netflixが対応に苦慮しているのは、価格競争だけではありません。不正なアカウントの共有にも長年頭を悩ませていました。
Netflixでは、最大5つのプロフィールを作成し、アカウントを共有することが可能です。ただし、この共有は一緒に暮らす同一世帯を想定したもので、例えば離れて暮らす家族との共有は認められていません。しかし、同一世帯以外と共有を行っているユーザーが多く、会員数が減少に転じた第1四半期の決算報告でも、「1億世帯がアカウントを不正に共有しており、それが会員数増加を難しくしている」としていました。
これに対応するため、中南米の一部地域で、不正なアカウント共有の監視を強化。同一世帯以外の人ともアカウントを共有する場合には、追加料金の支払いを求めるテストを行っていました。2023年にはこれを全世界で展開するとしています。家族や友人のために追加料金を支払いたくない場合は、今まで共有して使っていた人は個別にアカウントを作成する必要があり、これの受け皿として安価な「広告つきベーシック」を考えているようです。これに合わせて、既存のプロフィールを別のアカウントに移行できる機能も発表されました。
Netflixは第3四半期の決済報告の中で、「競合他社は全てストリーミングで損失を出しており、今年(2022年)だけでも、当社の年間営業利益50〜60億ドルに対し、年間の直接営業損失の合計は100億ドルをはるかに超えると思われます」と自社の優位性をアピール。競合他社は最終的に、価格の引き上げやコンテンツへの支出抑制など、持続可能で収益性の高いビジネス構築を目指すはずだとしています。つまり、現在の価格競争は一過性のものであり、ストリーミングビジネスに特化したNetflixが成長し続ける余地は大いにあるというわけです。
停滞気味の成長が、アカウント共有の取り締まりや広告つきベーシックプランの導入などで再び加速するのか、その結果が分かるにはもうしばらく時間がかかりそうです。
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