小型スマホ「Zenfone 9」開発秘話 ハイエンドなのに10万円を切る価格を実現したワケ(2/3 ページ)
片手でも持ちやすいコンパクトなボディーに、フラグシップモデルならではの高い処理能力を詰め込んだ「Zenfone 9」が発売された。かつて“性能怪獣”をうたったZenfoneだが、その言葉通り、性能はハイエンドモデルの中でもトップクラス。価格は9万9800円(税込み)からと、ハイエンドモデルの中では比較的手に取りやすく、費用対効果の高いモデルといえる。
ROG Phoneで培った冷却システムをZenfone 9にも搭載
―― 具体的には、どういったノウハウを持ってきたのでしょうか。
阿部氏 「ROG Phone 6」では冷却システムを一新しています。その結果、同じSoCを搭載した端末より、熱くなってもすぐに排熱ができるようになりました。ROG Phone 6はそういったところで評価されていますが、そのノウハウをZenfoneに持ってきています。ハイエンドのチップを積んでいるメーカーは、どこも悩んでいるところではないでしょうか。発熱対策をするためのスペースを取るのも大変です。
これをやったおかげで、Zenfone 9は、4K、60fpsで電池が切れるまで動画を撮影し続けることができました。トータル4時間半ぐらいは撮れています。熱で撮影が終了してしまうAndroid端末も見かけますが、Zenfoneだとそういうことがありません。ROG Phoneの発熱対策が生きている証拠です。
どんな場面でもブレない写真を撮れるよう、カメラにジンバルを搭載
―― フリップがない代わりに、カメラにはジンバルが搭載されています。これは、動画撮影のニーズを反映したものでしょうか。
新島氏 今はSNSの時代で、ご自身のスマホで動画を撮り、スマホで編集してそのままTikTokなどに上げる方も多い。動画を美しく撮れることを、求められていると思います。
阿部氏 確かにジンバルを搭載することで注目されるのは動画ですが、ジンバルは静止画の撮影にも効いています。手ブレ補正がしっかりかかるので、夜景など、構えて撮影しなければいけないシーンにも効果があります。しっかり構えて撮影するのは大変ですが、ジンバルがあればそれも簡単になります。
ジンバルがあることで、シチューエーションによらずブレが少ないというのも大きいですね。より撮影が大変なアウトドアのような環境でもしっかりした写真や動画を撮ることができます。それもあり、アウトドア用のアクセサリーも出しています。
―― アウトドアと言えば、日本では「ゆるキャン△」とのコラボも話題になっています。そういうつながりだったんですね。
新島氏 防水・防塵(じん)やジンバルでアウトドアに最適であることは、ユーザーの方にも見せていきたいと考えていました。ご縁があり、この秋に登場したゆるキャン△の「つなげるみんなのオールインワン!!!」というゲームとコラボすることになりました(※インタビュー後の11月25日に、同タイトルのリリースが2023年春に延期されることが明らかになった)。Zenfone 9の日本版にのみ、限定壁紙がプリインストールされています。
Twitterでもなかなかの反響がありました。「なんで?」という声もありましたが、製品の特徴を知っていただき、「なるほど」と思っていただけるようにしていきたいと考えています。人気のコンテンツとコラボすることで、ITリテラシーがそこまで高くない方にも知っていただきたいという思いがあります。
Zenfone 8以降、おサイフケータイに対応した背景と苦労
―― コラボはローカライズの一環だと思いますが、もう1つ、ローカライズと言えばおサイフケータイがあります。初対応はZenfone 8ですが、Zenfone 9にも搭載されています。なぜ、このタイミングでおサイフケータイに対応したのでしょうか。
阿部氏 コロナ禍において、キャッシュレスを求める風潮があります。お店によっては、キャッシュレスだけで現金を受け付けていないようなところもあます。個人的な話で恐縮ですが、この前僕が行った足つぼ(マッサージ)のお店も、現金が使えませんでした。また、おサイフケータイの搭載を求める要望が、以前からかなりあったのも事実です。
―― ただ、グローバルモデルからのカスタマイズとなると、販売数量が少ないハイエンドモデルに搭載するのはなかなか大変だという話も聞きます。
リー氏 2年連続で搭載しているので、(コスト的には)ある意味バランスが取れている証拠だとご理解いただければと思います。Androidスマホが進化、成長をし続ける中で、ASUS JAPANからも、小型、防水・防塵、FeliCaを搭載してほしいという要望は本社に出していました。この要望をある程度聞き入れてくれたということです。こうしたリクエストは世界中から上がってきますが、(Zenfone 8で)ようやく合意を取ることができました。
―― 今回は2回目ですが、Zenfone 8は初めてのおサイフケータイです。技術的にもなかなか大変だったのではないでしょうか。
阿部氏 通常、Zenfoneはグローバル版の発表から大体3カ月後に出ています。ただ、Zenfone 8で実装しようとした際にスケジュールを見積もったら、普通にやると倍ぐらいかかってしまうことが分かりました。まだノウハウもなかったので、そのままだと発売が年明け(22年)になってしまう。グローバル版が発表されると、「日本はいつなのか」という声が上がりますが、「来年」と言ったらとんでもないことになります。
―― どうやってその時間を縮めたのでしょうか。
阿部氏 私がFeliCaの試験会場に直接行くなどして、なんとかスケジュールを圧縮しました。最初は本当にノウハウがなかったので、資料を見るだけでもなかなか大変で。日本だけで対応するのは難しいので、本社と協力しながらいろいろな人を動かしました。FeliCaの試験場は千葉県の木更津にありますが、5日連続ホテルに泊まって張り付くなど、なかなか大変でした。ただ、今は実績もあり、ノウハウも蓄積されたのでだいぶ楽にはなりました。スケジュールも維持したままできています。
―― Zenfone 9は去年より簡単だったということですね。
阿部氏 私が慣れたということもありますが、去年よりは落ち着いています。Zenfone 8で対応したことで、Zenfone 9のグローバル版が発表された後も、「FeliCaはつくのか?」という声を見かけるようになりました。私たちの端末におサイフケータイがついているのは当たり前ではなかったので、これを当たり前というイメージに変えていきたいですね。
―― FeliCaが搭載されたことで、Zenfoneを取り扱うMVNOから引きが強くなったというような話はありますか。
リー氏 そういう印象は正直ないですね(笑)。あるはずだとは思うのですが……。
阿部氏 その感触は、あまりありません。FeliCaといってもスマホのいちスペックという扱いなので、特になかったと思います。ただ、MVNOだと取り扱える製品の数に限りがあるので、(選択肢として選びやすくなったことで)歓迎はされていると思います。
新島氏 日本のお客さまにとって、おサイフケータイは当たり前のものです。それがないことで、(購入時の)選択肢から外れてしまっていた方もいたと思うので、これからもがんばっていきます。
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