「いいね数」に振り回されたくない “盛れないSNS”が若者に人気のワケ
Z世代(15歳〜25歳)の50%(女性は61%)の人達が、SNS疲れを感じているとの調査結果が出ています。SNSになった途端、加工された自撮りと自慢気な投稿を見ることになり、自分も同じような投稿をしなければと追い立てられる気持ちになります。そんなストレスから解放してくれるユニークなSNSが人気を集めています。
SNSといえば、誰もがうらやましがる人気スポットで、美顔加工をばっちり施した自撮りを撮影して投稿するもの。でもそんな「SNSしぐさ」が若者の中で時代遅れになりつつあります。幼い頃からネットとともに育ち、親や友人とスマホで常に写真を撮り続けてきた若者たちは、SNSに虚構の世界を作り上げ、いいね数に振り回されることに疲れてしまったのかもしれません。
野村総合研究所が2022年2月に発表した「生活者年末ネット調査」によると、Z世代(本調査では15歳〜25歳)の50%(女性は61%)の人達がSNS疲れを感じているとのこと。Z世代女性では「友達やフォロワーの投稿を見て自分と見比べてしまう(41%)」「自分が投稿した内容に『いいね』や共感コメントが得られるか不安になる(39%)」といった、自分と周囲との比較に疲れている様子がうかがえます。
SNS疲れをする理由として、Z世代の女性は「友だちやフォロワーの投稿を見て自分と比べてしまう」「自分が投稿した内容に『いいね』や共感コメントが得られるか不安になる」という理由が特に多く挙がっている(野村総合研究所の調査より)
ほとんどの若者達は、リアルの生活では友人と一緒にファストフードを食べ、ふざけ合い、何をするでもない時間を共有して楽しんでいます。でも、SNSになった途端、加工された自撮りと自慢気な投稿を見ることになり、自分も同じような投稿をしなければと追い立てられる気持ちになります。「気の置けない友人とリアルを共有したい」「ありのままの自分でいたい」、そんな若者達のニーズに応えるSNSが流行し始めているのです。
通知が来たら2分以内に投稿しないといけない「BeReal」
「BeReal(ビーリアル)」は、リアルを共有するSNSです。アプリから1日1回、ランダムな時間に通知が来るので、2分以内に撮影して投稿します。アプリのカメラで撮影した写真しか投稿できず、しかもアウトカメラとインカメラの両方で撮影するため、自分がどこで何をしているのかを全てさらけ出すことになります。また、自分が投稿しなければ、友達の投稿を見ることができません。2分間に間に合わなかった場合は後から投稿できますが、「何時間遅れ」と投稿に表示されます。
他のユーザーの投稿には絵文字でリアクションできますが、自撮りで表情を作って送る「Instant Realmoji」だけ。コメントは友達になっている人だけに送信できます。そして、絵文字やコメントの数は本人しか見られません。つまり、「インフルエンサーになりたい」「人気ユーザーと人脈をつなげたい」といった野心を抱いても、誰が人気者なのか分からないのです。
つながっていないユーザーの投稿が見られる「ディスカバリー」には、ユーザーが楽しそうに過ごしている様子や、部屋でまどろんでいる様子などが見られます。興味を持った人と友達になることはできます。
過去の投稿を友達から見られないことも特徴の1つです。過去の投稿は「思い出」として、自分だけが見られます。「私はこんな人物なんだ」と盛れている投稿でプロフィールを埋め尽くす必要がないのです。
一般的なSNSとはかなり異なる設計思想ですが、このアプリは若者から支持されています。フランスで開発され、2020年1月にリリースされたBeRealは、欧米の若者を中心に人気となり、米国の調査会社「data.ai」によると、BeRealのダウンロード数は1000万以上(2022年5月時点)で、2021年第4四半期から390%も増加しています。
そして、日本の若者にも注目され始めています。2023年1月にバイドゥが発表した「トレンド寸前!次世代SNS TOP10」には、9位にBeRealがランクイン。「加工しないからラク!!!」「ありのままの雰囲気が楽しめるから」といったコメントが寄せられています。
BeRealへの注目度の高さは、他のプラットフォームの動きからも分かります。ショート動画共有サービス「TikTok」を運営するByteDance(バイトダンス)は、2022年9月、BeRealにそっくりな「TikTok Now」を開始しました。TikTok Nowは、1日に1回、ランダムな時間に送られてくる通知を開き、3分以内に前後カメラで撮影します。TikTokは若者を中心に人気が高いため、TikTok Nowも人気アプリとなるかと思われましたが、App Storeの様子を見ると、苦戦しているようです。
今後、BeRealがどこまで広がるかは未知数ですが、全員が「盛れない」環境を提供するSNSなら、親しい友人と心置きなく楽しめそうです。
他人に撮影してもらった写真を他人が共有するSNSも
BeRealが注目され始めた頃、新たなSNSとして若者に人気となっているサービスがありました。米国のスタートアップTTYLが2021年5月にリリースした「Poparazzi(ポパラッチ)」は、他人に撮影してもらった写真を他人が共有するSNSです。
一般的なSNSでは、自分のプロフィール画面に自分で投稿した画像や動画が並びますが、Poparazziは他人がタグ付けしてくれたコンテンツしか表示されません。つまり、友達が自分を投稿してくれなければ、自分のプロフィールには何も表示されないのです。
友達にタグ付けしてもらうとなると、自分好みに加工することは難しくなります。自分が投稿してほしい写真も、友達にお願いするしかありません。リア充でなければ厳しい仕様ですが、他撮りに価値を感じる若者の心をつかみ、1年でダウンロード数が500万回を超えました。しかし、その後話題がなく、人気が伸び悩んでいるようにも見えます。
SNSは人と交流するためのプラットフォームなので、たくさんの人が集まらなければつまらなくなり、別のサービスへと移動してしまいます。一方で、Twitterのように多くの人を集めても、収益の面では厳しいサービスもあります。若者が注目するSNSにはユニークなものが多いのですが、若者がどれだけプラットフォームにお金を落としてくれるのかというと、難しい面もあるでしょう。
とはいえ、ネットで「ありのまま」を共有したい若者達が増加していることは事実です。BeRealがこのまま日本でも人気となっていくのか、もしくは別のサービスが誕生するのか、今後も注目していきたいと思います。
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