ドコモが通信品質改善を本格化しても残る疑問 他社との差を埋めるのに必要なことは?:石野純也のMobile Eye(1/3 ページ)
ドコモはパケ詰まりに対して基地局のチューニングや増設を行ってきたが、場所や時間帯によっては、依然として通信品質が低下する。このような状況を受け、ドコモは年末にかけて新たな対策を実施する。通信品質対策を本格化したドコモだが、他社に後れを取ってしまったのも事実だ。
2023年に入り、通信品質の低下に悩まされていたNTTドコモ。SNSで同社の“パケ詰まり”を訴える声は、日増しに増えている。事態を重く見たドコモは、4月に都市部の超高トラフィックエリアで発生している品質劣化の改善策を発表。基地局のチューニングや増設を夏までに行うことを明かした。その対策が7月に完了し、東京の渋谷、新宿、池袋、新橋といったエリアでは一定の改善効果が見られている。
一方で、上記4カ所でも依然として時間帯や場所によっては通信品質が大きく低下することがある。また、パケ詰まりが発生するのは東京都の上記4カ所に限った話ではなく、比較的人が集まりやすいエリアであれば、都道府県を問わずに起こり得る話だ。実際、対策の完了を発表した後も、通信品質の低下を示すSNSの投稿はたびたび目にする。このような中、ドコモは通信品質の改善に向け、次の一手を導入する。
トラフィックとキャパシティーのバランスが崩れたドコモ、対策は“点”と“線”で実施
夏までの対策として、ドコモは基地局の調整やエリアのチューニングを行ってきた。具体的には、人が集中しすぎている基地局のアンテナをより深い角度にしたり、出力を抑えたりすることでエリアを狭めて収容人数を減らすチューニングを実施。また、プラチナバンドなどの帯域幅が狭い周波数帯を使いすぎないよう、収容周波数を分散する対策を講じている。これと並行して、渋谷や新宿といった超高トラフィックエリアではキャリアアグリゲーションを解除するような措置も導入。渋谷などのキャパシティー不足が顕著な場所では、帯域幅の広い新周波数帯の5Gの基地局を増設している。
実際、対策完了後に渋谷駅周辺でドコモの通信状況を確認してみたところ、ハチ公口あたりからスクランブル交差点一帯が都内では数少ない5G SAエリアになっており、通信速度は大幅に向上していた。対策が遅れていた山手線渋谷駅構内も、他社との共用アンテナが導入され、100Mbps以上の速度が出るようになっている。ドコモ側でもこうした結果は確認しており、その一部はスループットという形で公開されている。
上記の渋谷以外では、新宿駅東口周辺や池袋駅東口周辺、新橋駅烏森口周辺で5G端末を使う場合、いずれも10月時点で100Mbpsを超えるスループットを記録しているという。チューニングや5Gにトラフィックが分散できた結果、4Gの通信品質も改善している。7月の対策を導入した結果、この3カ所に関しては、4G端末でも10Mbpsから30Mbpsと普段使いに問題のない速度が出るようになっている。最も通信状況が酷かった都内4カ所に関しては、チューニングや基地局増設の成果が出た格好だ。
ただ、トラフィックのパターンは日々変化しており、ドコモも対応に追われている。都内の上記4駅周辺でも、対策が追い付いていない場所がある。また、パケ詰まりはこの4駅より規模が小さなターミナル駅周辺や鉄道沿線でも発生している。首都圏はもちろん、地方都市でも通信品質の低下を訴える声は増えている。トラフィックとキャパシティーのバランスが崩れれば、同様のことは十分起こり得る。都市部は先行して問題が顕在化したが、その影響はじわりと日本全国に広がり始めているといえる。
こうした日常的なパケ詰まりに加え、野外音楽フェスやコミケ、花火大会など、短期間に人が集中する場所でのトラフィック対策も後れを取っていた。以下はソフトバンクが「三大夏フェス」におけるX(旧Twitter)のネガティブな投稿の数をAIで分析したデータだが、ドコモとみられる「B社」に対する不満の声が突出して高くなっている。他社と比べてあまりに数が多いため、グラフが省略されてしまっているほどだ。実際、夏フェスの通信環境を調査、取材した一部報道でも、ドコモのみ通信不能になっていたケースが見受けられる。
このような状況を受け、ドコモは年末にかけて新たな対策を実施する。改善方針として掲げたのが「『点』と『線』」。スポット的に通信環境が悪化する可能性が高い2000カ所に加え、鉄道沿線などの生活動線に沿ったエリアの通信品質を改善していく。前倒しする投資も含め、その額は300億円に上るという。ドコモのネットワーク本部長 常務執行役員を務める小林宏氏は、「この改善を確実にやり切り、お客さまに安心して使っていただけるネットワークにしていきたい」と意気込みを語る。
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