スマホから“手数料無料”で口座のお金を移動 「エアウォレット」の仕組みと決済戦略に迫る:モバイル決済の裏側を聞く(1/2 ページ)
送金アプリ「エアウォレット」は、リクルートと三菱UFJ銀行のジョイントベンチャーである「リクルートMUFGビジネス」が提供している。手数料無料で金融機関のお金を移動できるのが特徴だ。ためたお金は決済ブランド「COIN+」による決済も可能だ。
リクルートと三菱UFJ銀行のジョイントベンチャーである「リクルートMUFGビジネス」が提供する「エアウォレット」アプリ。ここ数年、銀行の振込手数料や時間外のATM手数料が値上げされる中、手数料無料で金融機関のお金を移動できることが注目されている。なぜこのようなことができるのか、サービスの仕組みを探った。
手数料無料、回数制限なしで送金や出金ができるエアウォレット
エアウォレットアプリは2021年12月からサービスを提供している。友達への送金だけでなく金融機関への送金・出金も可能で、決済ブランド「COIN+(コインプラス)」による支払いもできる。
「これら全てが無料でできるところが特徴です。送金サービスを行っている事業者さんはたくさんありますが、金融機関からの出金のときは手数料がかかったり、回数制限があるケースが多かったりすると思います。エアウォレットは出金においても手数料がかからず回数制限もないので、細かなお金の移動がすごくやりやすいと思います」とサービスを提供するリクルートMUFGビジネス 取締役 COOの西脇源太氏。
エアウォレットのお金の移動方法は次の通り。
- COIN+のアカウントを作成して必要な金融機関の口座を登録する
- 出金元の口座からCOIN+残高にお金をチャージする
- COIN+残高を出金先の口座に移動するため出金の申請を行う
チャージや出金は1円から可能。出金に要する時間は当初、申請から2日ほど時間がかかったが、現在は営業日の午前10時までに申請すると当日中に出金ができる。しかも回数制限なく何回でも無料だ。
連携する金融機関は37行(2023年8月28日時点)あり、三菱UFJ銀行、三井住友銀行、みずほ銀行のメガバンク3行の他、ゆうちょ銀行、ネット銀行の楽天銀行、PayPay銀行などでも利用できる。
自分の口座間のお金の移動であっても他行間でやりとりすると、基本、手数料がかかってしまう。そのため、ATMで給与口座からお金を引き出して、ローンや家賃などの引き落とし口座にわざわざ入金しに行っているという人が多いのではないだろうか。それがエアウォレットを利用することで、スマホから手軽に、しかも無料でお金を移動することができる。
「お客さまの声では、高齢のご両親の代わりに買い物をして、その立て替え金をエアウォレットで送金してもらっているという話がありました。それまではご両親がわざわざATMでお金を引き出していたそうで、そのような行動が不要になったそうです。その他、お子さんに仕送りする場合も、送金後に銀行から無料で引き出せるので、使い勝手がいいと評価していただいています」と西脇氏はその手応えを語る。
取り扱いできる金額は1日30万円が上限になる。COIN+残高を友達などに送金する場合は、相手の携帯電話番号やユーザー番号を入力するか、送金したい相手のQRコードを読み取る必要がある。
手数料無料でお金を移動するために重要なCOIN+
エアウォレットアプリでは決済サービスのCOIN+が利用でき、ローソンや無印良品、100円ショップのキャンドゥ、スーパーのオオゼキなど、全国40万店舗以上の決済に利用できる。支払い方はトップ画面に表示されているQRコードもしくはバーコードを提示して、店舗側の端末で読み取ってもらうスタイルだ。
リクルートでは、クレジットカードや電子マネー、QRコード決済など、さまざまな決済手段に対応した店舗向けの決済サービス「Airペイ」を提供しているが、店舗が申し込むことで、COIN+にも対応することができる。Airペイの加盟店は39万4000店舗超(2023年3月末時点)になるので、ますますCOIN+が利用できる店舗は拡大していくだろう。
実は加盟店が支払うこのCOIN+の決済手数料が金融機関の手数料に充てられているため、お金の移動が無料でできるようになっている。
「リクルートが提供するさまざまなサービスでは中小企業と取引することが多いので、COIN+の加盟店側の決済手数料を0.99%(税別)に抑えています。一般的なキャッシュレス決済の手数料は3〜5%なので、できるだけ負担が少なくなるように安価に設定しました。この手数料収入で全てがまかなわれているので、金融機関の手数料負担が多くなると厳しいのですが、世の中に便利な価値を提供することで、収益は後からついてくると思っています。まずはそこを見極めようという感じですね。今は多くの人に知っていただくフェーズなので、金融機関の入出金などから使ってもらえるとうれしいなと思います」(西脇氏)
COIN+はさまざまな事業者の決済基盤として組み込むことができ、現在、リクルートが運営する「ホットペッパービューティー」や「ホットペッパービューティーグルメ」のアプリでも利用できる。その他、良品計画のアプリ「MUJI passport」にも採用され、全国約250店舗の無印良品での決済時にも利用することができる。店舗は今後も拡大予定で、Airペイを利用している中小店舗や大手の店舗と話を進めているという。
リクルートではAirペイの他、ビューティーやグルメ、旅行、車、住まい、結婚など、さまざまな事業を展開している。それら相性のいいサービスにCOIN+を拡大しながら、「長い目で見て、グループ全体で事業を拡大していこうと考えています」と西脇氏は言う。
なお、COIN+では利用者にポイントなどを付与しない代わりに、スタンプカードのサービスを加盟店に無料で提供。現在、カフェやパン屋、サロンなどが店舗独自で導入し、5回決済するとドリンク1杯無料などのお得な特典を用意する。
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