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スマホ×AIはどう進化すべきか Nothingのカール・ペイCEOと深澤直人氏が語る未来のプロダクトデザイン(1/2 ページ)

英Nothingの新製品発売を記念し来日したCEOカール・ペイ氏と日本を代表するプロダクトデザイナー深澤直人氏が、AIとデザインが融合する未来のスマートフォンについて語り合った。

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 英Nothingはスマートフォン「Nothing Phone (2a) Special Edition」の日本発売を記念し、東京・原宿のキャットストリートにコンセプトストアをオープンした。特別イベントではプロダクトデザイナーの深澤直人氏が登壇。自身もデザイナーであるNothingのCEOカール・ペイ氏との対談を通して、スマートフォンやAIについて興味深い議論を展開した。

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深澤直人氏(左)とNothingのカール・ペイCEO

 「Nothing Phone (2a) Special Edition」は、3原色をモチーフとした独特なカラーリングが印象的な限定モデルだ。透明なバックパネルデザインに3色を大胆にあしらった“魅せる”スマートフォンになっている。Nothingの象徴ともいえる背面が光るインジケーターも搭載しており、ホーム画面はモノトーンのウィジェットで落ち着いた空間を表現できる。

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Nothing Phone (2a) Special Edition

深澤氏が語るNothing 「何とも表現しがたい、新しい魅力」

 深澤直人氏は、日本を代表するプロダクトデザイナーとして広く知られている。氏を代表する作品としては、携帯電話のINFOBARシリーズが挙げられる。最近でもINFOBAR型のApple Watchケースが発売されるなど、長く愛されるデザインとなっている。

 個性的なフィーチャフォンの時代に数々の名作を世に送り出したデザイナーとして、深澤氏はスマホ時代への変化を以下のように振り返る。

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プロダクトデザイナーの深澤直人氏

深澤氏 INFOBARの頃はせいぜい数百万台売れれば結構ヒットという感じでした。そこにiOSとAndroidという2つのプラットフォームが生まれ、1つのグラウンドに対してもう何億人が同じものを使うというような時代に入っていく。この10年ほどは、個性を飾るということがなくなってきていた。

 しかし、深澤氏はこの状況に変化の兆しを感じているという。

深澤氏 でもそれから少しずつまたみんなが同じものを使うようになったら、今度はそれじゃちょっとつまんないんじゃないかなと。また波が来た。そこにカール・ペイさんが何とも表現しがたい、新しい魅力を持ち込んだ。

 カール・ペイ氏のNothing Phoneを「何とも表現しがたい、新しい魅力」と表した深澤氏。ペイ氏は以下のように応じた。

ペイ氏 テクノロジーが昔のように面白くなくなっていると感じた。面白くするためのツールとしてデザインを使う

 Nothingが強く意識しているのは、Appleだ。ペイ氏はNothingの目標を明確に示した。

ペイ氏 iOSが非常に人気なのは使いやすく、美しいことだ。われわれは競合としてiOSに対抗できるものを作りたいと思っている。

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イベントの展示の様子

プロダクトデザインの楽しさと苦しさ

 プロダクトデザイナーという共通項がある2人。仕事への情熱の傾け方には通じ合うものがあるようだ。深澤氏はこの仕事の楽しさを「作ることを一緒に、人と集まって作ることにフォーカスしている時間が一番楽しい。何もない姿が現れ始める瞬間というのがあって、その瞬間がすごく楽しい」と語る。

 ペイ氏も同じ楽しさを共有する。物理的なプロダクトを作ることの醍醐味(だいごみ)について、以下のように付け加えた。

ペイ氏 道を歩いているときに、自分の作ったものを付けてくださっている方がいる、そういったものを見ていると、非常にうれしくなる。

 しかし、ペイ氏はプロダクトデザインの喜びを語るだけにとどまらない。

ペイ氏 誕生した瞬間の喜びというのは、深澤さんもおっしゃる通り、私もそうなんですけれども、その裏には生みの苦しみというのもたくさんある。例えば、キャッシュフローにサプライチェーン管理に、人材管理も。なんでここまで来てやらなきゃいけないのって、思うことがある。

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Nothingのカール・ペイCEO

AIは“適切な姿”を得るべき テクノロジー企業には伝えることの責任も

 対談のテーマは「AIとスマートフォン」に及んだ。2024年のスマホメーカーにとって、AIは格好のアピールポイントとなっている。Nothing PhoneもChatGPTと連動するウィジェットを搭載し、ユーザーがより気軽にAIを試せるようにしている。

 深澤氏は、AIに対する世間の認識と実態とのギャップを指摘した。

深澤氏 一般的なユーザーの認識モデルだと、AIはだいたい人の形や脳のイメージを想像する。だから、自分の脳が外部にもう1つできてしまうのではないかと、急に不安になる。

 一般ユーザーの不安に反して、実体としてのAI活用はもっと「単純な実装」で進んでいると深澤氏は指摘する。例えとして、グラフィカル・ユーザーインタフェース(GUI)が導入されたときの変化を挙げる。

深澤氏 Xerox ParcでGUIが開発されて、画面に記号を打ち込んでプログラムするPCの常識が変わった。この変化は劇的なのに、当たり前のように伝わった。人々は変化にあまり気付かなかった。

 AIによる変革も、同じような状況にあるという。

深澤氏 もう僕らの世界がAIにどっぷりつかっちゃっている状態。今さら、AIがどう変えるのかと予測を立てる時代ではない。

 AI時代に求められるのは、この実体を適切な表現で示すことだ。深澤氏はAIに適切なインタフェースとしての「姿」や「形」与える重要性を指摘する。

深澤氏 (AIに必要なのは)エンボディーメント。抽象的な概念にボディーを与えること。そのボディーはブレインとか人間の姿とかアンドロイドのようなものだが、感覚的にもイメージとしても(AIは)そのような形ではないものではない、ではどういう姿を与えるかっていうことが大事になってくる。

 カール・ペイ氏は、コンピューティングの未来についてビル・ゲイツの記事を引用しながら語った。彼は、より便利で使いやすい未来のコンピュータについて3つの要素を挙げた。

 まず、1つ目の要素はコンピュータが人間をより深く理解し、情報を効果的に統合・提供すること。次に、ユーザーを積極的に支援し、日常的な作業をサポートすることで、より創造的な活動に集中できるようにすること。

 そして最後にこの要素を満たしたコンピュータは、「新しいデザインと直感的なユーザーインタフェースが必要になる。アプリがなくなるような時代には、感覚的な操作ができ、美しく使いやすいものをどう実現するか考える必要がある」(ペイ氏)とコメントした。

 ペイ氏は、これらの考えを基にNothingが新しいアプローチを追求していく意向を示した。さらに、ペイ氏はAIに対する一般ユーザーの不安に対処するため、テクノロジー企業の責任にも言及した。「作る側の企業がもっと丁寧に、何を作っているのか伝えるべきだ」(同氏)

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