実は始まっていた「povo3.0」への布石 povo2.0は他社対抗も含め“完成形”に:石野純也のMobile Eye(1/2 ページ)
auのオンラインブランド「povo」の次期構想「povo3.0」が明らかになった。povo自体が黒子になり、パートナーのサービスに通信機能を組み込んでいく仕組みを進めていく。データ通信専用や外国人向けプリペイドでpovo3.0への布石も打っている。
KDDIは9月3日〜4日の2日間にわたり、「KDDI SUMMIT 2024」を開催した。会期2日目の4日には、オンライン専用ブランドpovoを運営するKDDI Digital Life(KDL)の代表取締役社長、秋山敏郎氏や、同社とともにpovoの運営に携わるシンガポールのCircles CEO、ラメーズ・アンサル氏らが登壇。povo3.0の目指す姿が明らかになった。
“povo3.0構想”は2月にスペイン・バルセロナで開催された「MWC Barcelona 2024」で初めて公開されたコンセプト。そのより具体的な形が、KDDI SUMMITで明かされた格好だ。その間、KDLは着実にpovo2.0を進化させ、3.0へのアップデートに向けた布石を打ってきた。ここでは、そんなpovoのこれまでの歩みと、povo3.0の特徴を解説していく。
MWCで明かした新コンセプト、黒子になって生活に浸透するpovo
2月にスペイン・バルセロナで開催されたMWC Barcelonaで明らかになったのが、povoのホワイトレーベル化だ。簡単に言えば、povo自体が黒子になり、パートナーのサービスに通信機能を組み込んでいく仕組みのこと。動画サービスから直接それを視聴するための通信を購入できたり、テーマパークでマップの表示やチケット購入をするためのアプリに通信がついていたりといったように、回線ありきではなく、コンテンツやサービスに合わせて必要な回線を提供できること想定している。
ワンショットでトッピングを購入し、自由に料金やデータ容量などをカスタマイズできるpovo2.0の特徴を発展させたものといえる。それに合わせ、KDLはSDKを開発。povoのサービスを外部アプリから呼び出せる環境を整えている。MWCでは、サンプルとしてアイドルのファンサイトから直接povoの回線契約ができたり、トッピングを購入できたりするデモを披露し、海外キャリアにもその取り組みをアピールした。
その場ですぐに通信手段を提供できるようにするには、eSIMが欠かせない。オンライン専用ブランドとして成長してきたpovoは、サービス開始当初からeSIMに対応しており、その利用比率も一般的なキャリアと比べると高い。KDDI SUMMITで秋山氏が「eSIMの比率は非常に高く、大体半分ぐらいがeSIMになっている」と語ったように、現状では、2人に1人が物理SIMではなく、eSIMを選択している状況だ。
同じオンライン専用ブランドでも、ソフトバンクのLINEMOは約4割としていたため、eSIM比率ではpovoが一歩リードしていることが分かる。これは恐らく、バックアップ回線として取りあえず端末に入れておく用途も多いためだろう。実際、KDLは2023年末のコミックマーケットで前週比約2.4倍の契約を獲得するなど、イベントに合わせて成長してきた実績もある。ここでの主体はあくまでpovoだが、こうした事例は、サービスに通信が溶け込むコンセプトの原型を示しているといえそうだ。
「デジタルネイティブ向けということで、全てオンラインで完結させる」(同)という下地があったからこそ、ホワイトレーベル化が可能になるというわけだ。機種変更が簡単にできるよう、iOS、iPadOSの「eSIMクイック転送」に対応するなど、eSIM化を推進するための利用環境づくりにも取り組んできた。
データ通信専用や外国人向けプリペイドでpovo3.0への布石を打つ
一方で、ホワイトレーベル化するとなると、より簡易に契約できる必要がある。日本では、音声通話が可能な回線の契約にはより厳格な本人確認が義務付けられており、マイナンバーカードや運転免許証などの提出が必須だ。犯罪での利用やなりすましを防ぐためだが、トレードオフとして、契約のハードルが高くなってしまう側面があることは否めない。
MWCで秋山氏を取材した際にも、その課題は認識していることがうかがえた。その対策としてpovo2.0に導入されたのが、データ通信専用SIMだ。3月に開始された「povo 2.0 データ専用」は、文字通り、音声通話機能を省いたサービス。トッピングなどの仕様は共通しており、基本的には電話やSMSが利用できない以外の違いはない。
MVNOのように、基本料がかからないぶん料金が安いといったメリットもなく、データ専用の存在意義に疑問を覚えた向きもあるはずだ。確かに、音声通話やSMSがないぶん、サービスは限定的になる。その反面、データ専用であれば本人確認を自己申告だけで済ませられる。マイナンバーカードや運転免許証を使ったeKYCも必要なく、利用を始めるまでの時間を大幅に短縮できるのが、そのメリットだ。
実際、筆者も音声通話ができないiPad Pro用の予備回線としてpovo2.0 データ専用を契約してみたが、記録のためにスクリーンショットを取りながらでも、わずか数分で作業が完了した。一見、タブレットやPCに特化したサービスのように見えるが、このサービスの導入も実はpovo3.0への布石だったというわけだ。それでも契約を伴うため、Wi-Fiのように簡単に接続するというわけにはいかないものの、ホワイトレーベル化に向けて大きく前進したことは間違いない。
データ専用プランは、既に訪日外国人観光客向けのサービスにも応用している。同社は、東京都内を中心とした一部のローソンで、プリペイドeSIMの販売を開始した。これも、将来的には「インバウンド向けのアプリSDKで(povoを)組み込んでいくというユースケース」を目指し、その布石として展開しているものだ。
また、4月ごろからpovo2.0にも新たなトッピングを加え、他社対抗路線を明確化している。4月には、楽天モバイルのデータ容量無制限に料金面で真っ向から対抗した「データ放題 7日間×12回分」を導入。8月には、LINEMOの「LINEMOベストプラン」より安い料金を狙った「120GB(365日間)」などを定番トッピングに追加し、ラインアップを充実させている。今後も、競争環境に応じてデータ容量などを変えていく可能性はありそうだが、ひとまずpovo2.0としての完成形を迎えつつあることがうかがえる。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
関連記事
KDDI「povo3.0」の姿が明らかに B2B2Cモデルで他サービスと連携、“生活に溶け込む通信”へ
KDDIは9月4日、KDDI SUMMIT 2024の中で、同社の携帯電話ブランド「povo」の新たな展開について講演を行った。「povo3.0」では、B2B2Cモデルで他社サービスとの連携を目指す。パートナーには富士ソフト、ワイヤ・アンド・ワイヤレス(Wi2)、ABEMAの名前が挙がった。
「povo2.0」に“最短3分”契約のデータ専用プランが加わった背景 新サービスへの布石か
KDDIのオンライン専用ブランド「povo2.0」に、データ専用プランが加わった。音声通話やSMSには非対応ながら、「最短3分で開通」することを売りにしている。実際に契約しながら、データ通信専用プラン提供の狙いを考察する。
KDDI高橋社長が語る「povoのオープン化」「ローソンとの提携」 他社との決定的な違いは?
KDDIはMWC Barcelona 2024で、GMSAが発足した共通APIを活用した5G SAのユースケースや、povo2.0のホワイトレーベル化、さらにはStarlinkとの取り組みを紹介していた。海外事業者とのパートナーシップ構築や、海外展開のアピールの場としてMWCを積極的に活用していたことがうかがえる。そんなMWCを、KDDIの代表取締役社長CEO、高橋誠氏はどう見ているのか。
2周年を迎えた「povo 2.0」の現在地 トッピングはSuicaから着想、“オープン化“も視野に
オンライン専用プランの「povo 2.0」がサービス開始から2周年を迎えた。povo 2.0は2周年の節目として、「もっとできる、一緒なら。」を表現したpovo2.0のテーマソングを公開した。povo 2.0の今後の方向性について、KDDI Digital Lifeの秋山俊郎社長が語った。
好調「povo2.0」の向かう先 サブ回線の利用増でも“基本料金0円”を維持できるワケ
2022年9月に1周年を迎えたpovo2.0だが、2022年は楽天モバイルの0円プラン廃止や、KDDI自身の大規模通信障害もあり、バックアップ回線としても再び脚光を浴びた。トッピング自体は、サービス開始当初から大きくは変わっていないが、期間限定のトッピングを投入している。KDDI Digital Lifeの秋山敏郎社長は、「本来挑戦したかったところにはまだ至っていない」と話す。






