ソフトバンクがY!mobileの“全面的な値上げ”に踏み込まなかった理由 板挟みの競争環境で打ち出した戦術:石野純也のMobile Eye(1/3 ページ)
大手キャリアが値上げに踏み切る中、Y!mobileの新料金プランは各種割引適用後の月額料金を据え置きとした。PayPayカードやPayPayとの連動性も、より強くなっている。こうした料金設計は、収益性向上と同時に競争力を維持したいソフトバンクの思惑を反映している。
ソフトバンクは、Y!mobileに新料金プランの「シンプル3」を導入する。9月25日から提供を開始する。名称を引き継いでいることからも分かるように、シンプル3は大胆な料金改定というのではなく、S/M/Lという3つのデータ容量の中から選択できる仕組みは変わっていない。割引も自社グループのクレジットカード割引と、固定回線もしくは家族割引のどちらがつく点も同じだ。
大手キャリアが値上げに踏み切る中、各種割引適用後の月額料金も据え置かれた。一方で、その内訳は大きく変わっている。割引前の基本料が上がり、より割引の比重が増した格好だ。また、PayPayカードやPayPayとの連動性も、より強くなっている。こうした料金設計は、収益性向上と同時に競争力を維持したいソフトバンクの思惑を反映している。シンプル3から見えてくる、同社の戦略を解説する。
コスト増の吸収と低価格を両立――割引後の料金は据え置きに
「しっかり事業基盤を維持する体制を作りながら、低価格のサービスをお届けする。これを両立する料金サービスを作っていくのがわれわれの使命だ」――こう語ったのは、ソフトバンクの専務執行役員 コンシューマ事業推進統括の寺尾洋幸氏だ。ソフトバンクは、以前から料金値上げを示唆していたが、シンプル3はその回答ともいえる。
背景にあるのは、コストの増加だ。物価や人件費の上昇に加え、円安ドル高の為替相場も、ネットワーク機器を海外から購入しているソフトバンクを直撃している。また、トラフィックが年々増加しており、そこに対応していく必要もある。寺尾氏は「電気料金だけで数百億円規模」のコストが増加しているといい、これを吸収する必要があることを強調した。
一方で、シンプル3は割引後の金額が現行の料金プランである「シンプル2」から1円も変わっていない。しかも、Sプランのデータ容量は4GBから5GBに増量されている。割引条件は変わっていないため、シンプル2を最安価格で使えている人であれば、基本的にはプラン変更をかけた方がおトクになる。PayPayカードと固定回線だけと、割引の数も少ない。
この割引条件を全て満たしているY!mobileユーザーは、「半数を超えて、もう少し高い比率」(同)だという。その意味で、過半数のユーザーには、条件が改定されただけの新料金プランということになる。金額が変わらないため、あえてプラン変更をかけるモチベーションは低くなりそうだが、その分サービスを拡充させた。
1つが、海外ローミングを2GBまで無料にすること。システム改修の都合で実際に開始されるのは2026年夏からとなるが、それまでの間は現行の「海外あんしん定額」を7日分無料にすることで対応する。また、PayPayの決済が一定回数を超えるとデータ容量が加算される「PayPay使ってギガ増量キャンペーン」も付く。M/Lプランの場合、10回以上で1GB、20回以上で5GB、30回以上で10GBの増量になるため、移行するメリットは十分あるといえそうだ。
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