短期間に1.5Mから8Mへ
そして、さらなる高速化
“ブレークスルー”という言葉がある。難問を解決し、障害を取り払うことの意味に使われる。ADSLは、まさにブレークスルーと呼ぶにふさわしい技術といえる。ADSLが登場するまで、電話回線を利用したデータ通信の速度は、ISDNの64Kbps×2=128Kbps*1が上限だった。NTTが提供する企業向けの専用線においても128Kbps以上のメニューは、光ファイバーを引き込む必要があった。だがADSLの登場で電話回線におけるデータ通信の速度は、512Kbps→1.5Mbps→8Mbpsと、2、3年の間にみるみる向上した。そして、ADSLは進化の足を緩めず、さらなる高速化を実現しようとしている。
既存の技術を拡張し
最大速度を底上げ
アッカ・ネットワークス(以下アッカ)、イー・アクセス、Yahoo! BBの各ADSL事業者は、8Mbps(下り)を超える高速版のメニューをこの秋をめどに導入すると発表した。また、一部報道によるとNTT東西地域会社もフレッツ・ADSLに8Mbpsオーバーの高速版メニューを追加するもようだ。
今回Yahoo! BBを除く各社が導入する技術は、従来からあるAnnex C*2のフルレート版(G.992.1)を新開発のDSLチップを使って拡張したもの。スペック的には最大で下り12Mbpsの通信速度を実現している。規格上の最大通信速度が向上するのはもちろん、ほぼすべてのユーザー実効スループットが500Kbpsは底上げされるという。
向上するのは速度だけではない。ADSLの弱点である、電話局からの距離の問題も改善されている。従来の8Mbps ADSLの場合、電話局から路線長*3で4〜5キロ離れると十分な速度が得られないだけでなく、通信そのものができない場合も多い。だが、12Mbps ADSLでは、最大伝送距離が7キロ程度まで延びる。これまで距離の問題でADSLを導入できなかった人には朗報だ。
ADSLモデムの技術革新
チップの改善で高速化可能に
さて、今回の12Mbps版の導入には、モデム内蔵用の新型ADSLチップが相次いで開発されたという背景がある。ADSLの場合、日本だけをとってみても毎月約30万加入のペースで利用者が増加しており、チップベンダー各社としても、この急成長分野に研究費・開発費・人材を投入しやすい環境が整っている。
ちなみに、前出の2社とは異なるAnnex A方式のADSLを採用するYahoo! BBも、拡張技術である「Annex A.ex*4」を使った12Mbpsの試験サービスを開始している。地域限定で1万3000名のモニターを募集し、秋の実用化に向けて試験中だ。
これら3社に加えNTTのフレッツ・ADSLも8Mbps超のサービス競争に参入するようなので、この秋以降のADSL競争がますますおもしろくなりそうだ。
つい2、3年前までは幸運な一部のCATVユーザー以外はISDNの64Kbpsに甘んじていたのが信じられないほどだ。
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