News 2001年2月19日 11:59 PM 更新

Lモードはなぜダメなのか?

Lモード端末の試作機は,固定端末による情報サービスの新しい可能性を感じさせた。しかし,Lモードに対する世間の風当たりはキツイ。

 NTT東西地域会社が計画中の「Lモード」サービスが,電気通信審議会でお預けをくわされている。KDDIなどの新電電各社は強固に反発し,行政訴訟も辞さない構えだ。なぜ,Lモードはここまで嫌われなければならないのだろうか?

 2月15日に行われた記者会見では,NTT東西地域会社が開発したLモード対応電話機のサンプルが披露された。10月の発表では,単なるモックアップだったが,今回はしっかり動作するものだ。


Lモード対応公衆電話。ICカードとLモードカード(Lモードのユーザープロファイルが記録されている)を2枚重ねて入れることができる。これにより,たとえNTT東日本の契約者が関西に行っても同じ環境でLモードを利用できるという。ローミング料金は当初から利用料金に含まれている


メイン画面。Lメニュー,マイメニュー,インターネットの文字が読みとれる。Lモードの仕様では,iモードと同じ256色までのGIFがサポートされているため,電話機メーカーによってはカラー画面に対応するだろう


Lモード対応電話機の試作品。Lボタンを中心に上下左右への移動ボタンが用意されている

 Lモードでは,最大2000字までのメールサービス「Lメール」をはじめ,情報検索サービス,インターネット接続の機能などが提供される。メール機能は,通常の電子メールや携帯電話とのやりとりも可能だ。基本的にiモードなどのブラウザフォンと同レベルのサービスと考えていい。

ユーザーとメーカーのメリット

 PCやiモードに慣れたユーザーなら,固定電話で,あるいは画面の小さなLモードには懐疑的な見方をするかもしれない。しかし,普及する要素はいくつもある。

 電話機の製品寿命はおよそ6年間といわれ,買い換え需要は年間600〜700万台に上る。当初Lモードが搭載されるのは,FAXやワイヤレス子機を持つ3〜4万円程度の付加価値モデルだが,この製品ラインも年間150〜200万台が販売されているという。これに「プラス5000円程度」(NTT東日本)の出費でブラウザフォンと同等の機能を付加できるわけだ。「メールは欲しいけれど,家族全員が携帯電話を持つと出費がかさむ」。主婦層をターゲットとするNTTの戦略は,的を射ている。

 一方,電話機メーカーにしてみれば,高付加価値モデルの買い換え需要という大きなメリットが期待できるため,Lモードを否定する理由はない。端末の価格は,技術の進歩に伴って下がっていくのが常であり,数年のうちに,エントリーモデルを除くほとんどの電話機にLモードが標準搭載されることになっても不思議はないだろう。こうした市場性を考えると,NTTの言う「5年後に1000万契約」は,むしろ控えめな数字にすら思える。

 何より,Lモードはインターネットの啓蒙活動として,相当の効果が期待できる。手軽なこのサービスは,もっと歓迎されていいはずだ。では,なぜ他社やマスコミには邪険に扱われているのだろうか。

NTTにとってのメリットは?

 まず,NTTにとって,Lモードサービスを行うメリットを挙げてみよう。

1.顧客の維持:Lモードは,2つの意味で顧客の維持・獲得に繋がる。1つは,最近携帯電話に抜かれた固定電話回線契約数の減少をくい止めること。2つめは,新電電を除外したサービスによる,自社契約者数の維持・拡大。

2.インターネットサービスでの地位確立:1000万回線を実現すれば,@niftyやBIGLOBEといった大手ISPの(現在の)会員数を上回り,有力インターネットサービス提供者の仲間入りを果たせるだろう。

3.既存の資産を活かす:Lモードは,既存のメタル回線や交換機を使う。インフラを延命させ,そこから収入を得る手段となるわけだ。また,コンテンツプロバイダーとLモードゲートウェイを結ぶ専用線なども収入源となる。

4.利益率の高いデータ通信:メリルリンチ証券の調査によると,現在NTTの回線を使うトラフィックはデータ通信が約8割を占め,音声通話は残り2割だという。これに対して,NTTは収入の8割がたを通話料金から得ている。つまり,今のNTTにとって高速なアクセス回線は「割にあわないシゴト」だ。軽いコンテンツを低速なアナログ・ISDN回線で提供するLモードは,状況を打開するサービスとなる。

なぜダメなのか?

 では,NTTにとってのメリットは,他社やユーザーに対して何を及ぼすのだろうか。

1.不公正な競争:顧客の囲い込みが公正な競争を阻害する。KDDIなど新電電がLモードに反対する根拠は,「事業範囲を県内に限定したNTT法に抵触する」という点。16日の発表で体裁だけは整えられたが,本質は変わっていない。より抜本的な,サービス内容の変更が求められるだろう。

2.NTTの新事業分野開拓:県間接続やISPへの接続は阻止されたものの,コンテンツや課金方法,端末仕様までを規定するインターネットサービスは,NTT法に縛られた事業内容から脱却するための“踏み台”になり得る。NTT再編の意義が問われている。

3.ネットワークの非効率的利用:電話用に開発された回線交換方式は,送信─受信間の専用オープンチャンネルを保証する。つまり,伝送時間中はその帯域をほかのユーザーから遮断するため,ネットワーク容量を効率的に使うことができない。携帯電話分野でWAPが失敗した理由の1つがこれ。インターネットインフラが進化し続ける中で,いつまで,旧態依然としたシステムを使い続けるつもりなのか。

4.高い通信料:Lモードはアナログ&ISDNに対応し,最大64Kbpsで3分10円かかる。携帯電話のメール機能では,短いものなら0.3円程度で1通のメールを受けることができるが,Lモードでは最低1回10円。Lモードユーザー間で行う「Sメール」(INSネットに限る)でも,1回の利用には2〜3円かかる。従量課金制である限り,容量の少ないコンテンツでは,かえってユーザーの負担は増加する。

 問題は,LモードがあくまでNTTの理論で考えられたサービスであるという点だ。サービスのコンセプトと意義は評価できるし,このまま進めれば,iモードに続く人気サービスとなる可能性もあるだろう。しかし,状況はドコモがiモードを始めたときとは異なる。NTTが目先の利益と前時代的な方法論を振りかざしている限り,前へ進むことは難しいように思えるのだ。

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[芹澤隆徳, ITmedia]

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