News 2002年9月13日 11:59 PM 更新

東芝Dynabookに見るBanias搭載機

IDF会場で唯一、動作しなかった東芝製のBanias搭載機。しかし、単にバッテリが充電されていなかっただけのようだ。東芝の開発担当者により詳しい話を聞くことができたのでレポートしよう

 「Intel Developer Forum Fall 2002」の2日目に、各社のBanias搭載機が展示されたことをレポートした(9月11日の記事)。だが、その中で東芝のDynabook SS Sシリーズをベースにしたモデルだけが、動作していなかった。この時は、このマシンに入ると思われる超低電圧版Baniasのサンプルが出ていないためかと思ったが、どうやらIntelが持ち込んだ試作機のバッテリが充電されていないだけだったようだ。

 IDF会場で会った東芝のノートPC開発担当者に、話をうかがいながらこの試作機に触れることができたので、簡単にその時の話をまとめてみたい。

 Dynabook SS Sシリーズは、超低電圧版モバイルPentium IIIの熱設計電力枠である7ワットをターゲットに、開口率が高く省電力な「低温ポリシリコン液晶パネル」、高性能な「リチウムポリマーバッテリ」、小型かつ低消費電力の「1.8インチハードディスクドライブ」などを組み合わせて完成させた薄型軽量のA4ノートPCである。薄型、軽量なボディと拡張バッテリとの組み合わせで7時間近いの長時間バッテリ駆動を実現。ThinkPad Xシリーズと並んで、仕事でモバイルコンピューティングする業界関係者に人気の高いモデルである(かくいう筆者もその1人。ちなみにモバイルチャンネル副編集長の斉藤健二氏も愛用している)。

 そのDynabook SS Sシリーズの薄型きょう体にBaniasを組み込んだ試作機は、Intel製チップセット(非公開)をベースにデュアルバンド無線LANチップ(IntelのCalexico)、Bruetoothチップなどが組み込まれている。なお現行機種にはPCI接続の高速なSDカードスロットが備わっているが、本機のSDカードスロット相当部分はふさがれていた。Dynabook SS Sシリーズとの外観的な違いはこの部分と、銘板(海外版のPORTEGE2000の銘板になっている)のみ。


東芝製Banias搭載試作機(奥)と、筆者が使用している現行Dynabook SS S5

 東芝によるとSDカードスロットが存在しない理由は、単純に実装面積が不足したためとのこと。Bluetoothチップを搭載していることもあるだろうが、Dynabook SS Sシリーズで採用しているALiのCyberAladdinチップセットに比べ、試作機で採用しているインテル製チップセットの方がパッケージサイズが大きいことが影響しているという。

 ただし来年、この製品ラインの延長線上にあるモデルとしてBanias搭載機を発売する際には、SDカードインタフェースチップも搭載されることになるという。また、その時には現在のメモリ専用のSDカードスロットから、SD I/O対応のスロットへと機能アップする予定だ。

 搭載されるBaniasの動作電圧に関してはコメントをもらうことができなかったが、ターゲットとしている熱設計電力枠は、(同じきょう体のため当然ではあるが)モバイルPentium III機と変わらないという。現行機は7ワットがターゲットになっているため、搭載されるBaniasも超低電圧版になるはずだ。IDFの技術トラックでは、超低電圧版Baniasの熱設計電力枠は7ワットであると記されているからだ。

 チップセットの種類についても東芝はコメントを控えたが、超低電圧版Baniasとバリデーションが進められているチップセットはMontara-GMであることから、おそらくチップセットもグラフィック機能統合型のMontara-GMになっていると考えられる。現行Dynabook SS Sシリーズが、やはりグラフィック統合型チップセットを搭載し、さらに実装面積に余裕がないことを考えても、Montara-GMの搭載は妥当な結論と言えそうだ。

 ただし、SDカードインタフェースが省かれていることも合わせ、あくまでも試作機であることも忘れてはならない。おそらくはこのまま製品レベルへと開発が進められるものと予想されるが、何らかの変更が加えられる可能性ももちろんある。また、東芝によるときょう体のデザインやバッテリ構成などに変更が加えられる可能性もあるそうだ。なお、熱設計電力枠が変わらないため、きょう体サイズがさらに小型/薄型化することはない。

 さて、気になるのは、そのパフォーマンスとバッテリ駆動時間だろう。

 超低電圧版Baniasと仮定すると、その登場は来年の第2四半期で、クロック周波数は900MHzになると見込まれている。現行のDynabook SS Sシリーズは超低電圧版モバイルPentium III/800MHzを搭載しているが、パフォーマンスは体感ではっきりとわかるレベルで大幅にアップするという。

 一方のバッテリ駆動時間に関しては、現在まだチューニングが完了していない段階で、標準バッテリ時で10分程度延びるそうだ。Dynabook SS Sシリーズの標準バッテリは容量が非常に小さいため、わずか10分でも大きな違いである。おそらく大容量バッテリを搭載した状態であれば、30分以上のバッテリ持続時間の延長が期待できるだろう。

 さらに来年の第2四半期までのバッテリセル容量増加や、液晶パネルの改良による消費電力の低減、そしてさらなるチューニングなどを考慮すれば、現行機と同じバッテリ構成で拡張バッテリ付き8時間というバッテリ持続時間が見えてきそうだ。

 試作機が展示されたIBM ThinkPad X30の次世代機X31は、おそらく一足先に来年第1四半期に通常電圧版Banias(おそらく1.3〜1.4GHzだろう)を搭載して登場することになりそうだが、第2四半期に登場すると見込まれるDynabook SS Sシリーズの後継機も、12.1インチ液晶クラスのノートPCを求めるユーザーには気になる存在となりそうだ。

 現在、容量面での不足を感じる20Gバイトの1.8インチハードディスクも、今年の年末には40Gバイトに容量アップする。そうなれば、現在のDynabook SS Sシリーズよりもさらに多くのファンを引き付ける製品になるだろう。



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[本田雅一, ITmedia]

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