News | 2002年9月17日 09:09 PM 更新 |
HTテクノロジPentium 4やBaniasの陰に隠れてしまった感はあるが、Universal Plug and Play(UPnP)に関して、大きな進捗が報告されている点は、先週、米サンノゼで開催された「Intel Developer Forum Fall 2002」の中で、見逃せないポイントである。
Intelはデジタルホーム構想に必要な構成要素として、PCそのもののデザインやコンセプト、無線LANのPCへの統合、リモコン操作が可能なPC対応のアプライアンスの存在、ディスプレイ単体でPC画面にアクセスできるスマートディスプレイに加え、UPnP技術の開発と普及を挙げている。
アプリケーションプロトコル標準化で用途広がるUPnP
UPnPと言えば、近年は自動コンフィギュレーション対応のブロードバンドルータを思い浮かべる読者が多いだろうが、元々はIPネットワークにおいて特別な管理ホスト無しに、デバイス同士を認識、機能の把握などを行う、コネクティビティ向上のための規格である。UPnPを用いると、物理的なネットワークの構成を意識することなく、同一ネットワーク内のデバイス同士がコミュニケーションを行えるようになる。
しかし、UPnPは基本的なコネクティビティを向上させるものの、実際のアプリケーションに関しての取り決めは進まなかった。これはおそらく、UPnPを最初に提案したMicrosoftが、アプリケーションレベルの取り決めは、UPnPよりも上のレイヤで行う方が良いと考えていたためだろう。実際、MicrosoftはUPnPを、HAViやJiniなどと組み合わせて使う手法を提案していた。
しかしアプリケーションレベルのプロトコルは、ベンダー間の利害関係が大きいこともあり、なかなか業界標準を定めることが難しい。そこでUPnPの延長線上でアプリケーションプロトコルも策定するようになってきたのが最近の流れである。
たとえばおなじみのUPnP対応ブロードバンドルータでは、ルータが返答するXML情報の標準化や、ルータ設定の変更指示を行うための取り決めが決められている。UPnPルータ対応ソフトウェアは、ルータからグローバルIPアドレスを取得し、必要なポートマッピングをルータに指示した上で、パケット内に埋め込む自IPアドレスをグローバルIPアドレスに設定してアクセスするなどの機能を提供する。これにより、パケット内にIPアドレスを埋め込んで通信するタイプのアプリケーションでも、NAT環境下で正常に動作するようにできた。
このことからもわかるとおり、コネクティビティの枠から一歩踏み出して、新しい決めごとを行えば、UPnPが有効に使える範囲は大きく広がる。IDFの技術トラックでは、その進捗に関する細かな情報も伝えられた。UPnPに関する現状報告は、別途プレス向けセッションの一部でも伝えられている(/news/0209/12/nj00_standard.html)。
Intelによると、現在標準化が進んでいる(あるいは作業を追えた)UPnPのアプリケーションプロトコルには、ルータや無線LANアクセスポイント向けの「UPnP Gateway」、メディアサーバ/メディアレンダラー(メディア再生ソフト/デバイス)を規定した「UPnP A/V」、プリンタやスキャナを利用するための「UPnP Imaging」、照明制御などホームオートメーションシステムのための「UPnP Automation」、認証とアクセス制御を行うための「UPnP Secutiry」、双方向リモコンを実現させる「UPnP Remote I/O」などがある。
今後、UPnPの標準化グループは基本的なコネクティビティを向上させるUPnPフレームワークから、アプリケーションやサービスの標準化を進める方向へとフォーカスポイントをシフトさせるという。
また、IntelはUPnPアーキテクチャに基づくアプリケーションやサービスを構築するための開発ツールを提供しており、共通APIを通じてUPnPの基本的なサービスやXMLパーサ、SOAPなどの利用を可能にしている。開発ツールの提供を通じて、より幅広いUPnPアプリケーションの開発を促進させる活動を続けるという。
家庭内ミュージックサーバ/ビデオサーバを実現させるUPnP A/V
中でも注目したいのがUPnP A/Vである。UPnP A/Vとはオーディオやビデオなどのメディアデータのサーバ、オーディオやビデオをサーバから取得して再生するレンダラー、それらを制御するAVコントロールポイントの3つを定義したもの。
平たく言えば、これを用いることで先日発表されたソニーのVAIOシリーズが実現しているVAIO Mediaの世界をUPnPを用いて実現できる。UPnP A/Vが標準仕様として広まれば、メーカーの相互運用性を意識することなくA/Vデータの再生をネットワーク経由で行えるようになるわけだ。
理想的に機能するようになれば、ビデオケーブルを接続すれば簡単に映像を映し出すことが可能なように、ネットワークにプラグすればすべての映像と音を楽しめるようになる。同様の世界はIEEE1394でも可能になるはずだが、UPnP A/Vは物理的な接続手段を意識しなくても良い点で優れている。
UPnP A/Vは、メディアデータのディレクトリアクセスや検索、ファイル作成や削除などのファイルシステム操作に加え、再生、停止、録音(録画)、一時停止、シークなどのコントロールコマンドを双方向をSOAP経由でやりとりする手順などが取り決められている。
具体的にはメディアコントローラ(リモコンやPC上の操作ソフトウェア)がサーバから情報を取得し、その情報を元に再生したいメディアを指定すると、メディアサーバからメディアのアクセス先を取得してメディアレンダラーに再生指示を送ることで、サーバからレンダラーへとデータが転送されて再生が行われる。つまり、レンダラーとサーバは直接対話せず、間に必ずメディアコントローラが介在する形式となる。
ソニーのRoomLinkのような機能を持たせる場合は、アプライアンスにレンダラーとメディアコントローラの機能を両方実装する形を取ることになる。コントローラをレンダラーとセットにしなかったのは、構成の柔軟性を高めるためだ。IPベースのユニバーサルリモコンをメディアコントローラにすることも可能な他、PC上のアプリケーションがメディアコントローラになることもできる。
双方向の高機能リモコンも可能に
UPnP A/Vのメディアコントロール機能は、あくまで基本的なコントロール制御を行うための取り決めでしかない。そこでUPnPでは、双方向のリモートコントロール操作をUPnPネットワークで実現するための「UPnP Remote I/O」という規格策定が進められている。
UPnP Remote I/Oはあらかじめ決められたコントロールコマンドを片方向に流すだけでなく、操作される側の機器がリモコン側にユーザーインタフェースを表示させることができる。たとえばビデオレコーダの予約操作を行う場合を考えてみよう。
UPnPリモコンでビデオ予約機能を呼び出すと、UPnP対応ビデオレコーダが予約機能を立ち上げてリモコンに対し、ユーザーインタフェースとなるメニューを報告する。するとリモコン上ではビデオ予約のためのメニューが表示され、その中で操作した結果をビデオレコーダに対して指示。必要ならばリモコンに対してメニュー表示の更新や切り替えを指示する。
つまりリモコンでの操作性を、操作される側の機器がリモコンに対して指示できるようになるのだ。現在でも高機能なユニバーサルリモコンは存在するが、高機能で汎用性が高いほどカスタマイズが面倒だったり、ユーザーインタフェースの構築が難しかったり、敷居が高くなる。しかしUPnP Remote I/Oを使えば、それらのカスタマイズを行う必要がない。
UPnP Remote I/O対応の専用リモコンの他、UPnP Remote I/O対応アプリケーションをPDAやPCで動かしたり、テレビにUPnP Remote I/Oでデバイスを操作する機能を持たせるといった使い方が考えられる。
これらUPnP準拠のアプリケーションは、対応するデバイスが存在しない。しかし、いずれも既存の標準技術を拡張したものであり、実装そのものは難しくない。ここまで話が進んでくれば、あとは対応ハードウェア次第で普及も見えてくる。現在はAVベンダー/PCベンダー各社が独自に進めているA/VとPCのネットワーク統合が、UPnPによってさらに加速され、相互運用性の向上に繋がってくることを願いたいものだ。
[本田雅一, ITmedia]
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