News 2002年12月5日 10:56 PM 更新

“成層圏プラットフォーム”の実用化は、どこが早いか?(2/2)


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 また、英国ATGの提案する飛行船は気球の概念で、何度も再利用できて格納庫など地上インフラを持たなくてもいいコストパフォーマンス重視型を狙うなど、早くもビジネス化を見据えた取り組みを行っている。

 このように成層圏プラットフォームの技術開発は欧米主導で行われているが、高高度飛行体の動力源として最も有力視されている太陽エネルギーの技術に関しては、日本にアドバンテージがある。

 「燃料電池を動力源に使うアイデアもあるが、クリーンな太陽エネルギーを使ってこそ、成層圏プラットフォームといえる。太陽電池の利用などそれほど難しくないのではと思われるだろうが、家の屋根に設置するものと違い、飛行船はそれ自体が動くし、太陽の位置も刻々変化していく。この環境で太陽電池を使いこなすには、ダイナミックな技術革新が求められる。また、すでに成層圏飛行に成功した“Helios”も、太陽電池だけで10億円もかかっている。実用化には、コスト面もブレークスルーも必要」(江口氏)。

早期実用化を目指す産総研の“気球ロボット”

 成層圏プラットフォーム向け高高度飛行体として日本をはじめ世界各国が目指している飛行船の大きさは、全長150−250メートルクラスのものだ。一方、国内の省庁連携プロジェクトとは別に、成層圏プラットフォームの早期実用化を目指した動きがある。

 独立行政法人 産業技術総合研究所(産総研)が掲げる飛行船サイズを30−60メートルに抑えた「気球ロボット」というプロジェクトがそれだ。

 産総研の恩田昌彦氏は「日本の省庁連携プロジェクトでは、3年後に高度4キロの定点滞空実験が予定されているが、米国では数年後に成層圏飛行が可能な実用プロトタイプが試作される。このままでは日本は追い越されっぱなしになる。もう少し目線を下げて、小さくて使い捨てだけど安価で早期実用化が可能な飛行船でも、ビジネスとして十分ニーズはある」と語る。


産業技術総合研究所の「気球ロボット」

 産総研の気球ロボットは、省庁連携の成層圏プラットフォームでの目標仕様に比べてサイズで1/4になっているほか、搭載可能重量も20−40キロに抑えられ、滞空時間も1カ月程度と短くなっている。

 しかし、省庁連携案が1機50億円なのに対して、気球ロボットは1000万円とコストは1/50となり、実用化時期も5年後を目指すなど早期実用化の面で欧米に対してのアドバンテージも得られる。

 「ITSなど高度交通システムや電子政府、航空管制、火山観測、地震予知など気球ロボットの市場規模は大きい。研究レベルの成層圏プラットフォームが、気球ロボットによってビジネスとして早期に立ち上がる。それも、日本で先に立ち上がって欲しい」(恩田氏)。



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[西坂真人, ITmedia]

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