News 2003年2月21日 00:00 AM 更新

腕時計型“SPOT”の可能性――シチズン開発者に聞く

Microsoftのネットワーク対応スマートデバイス「SPOT」。この新デバイスには否定的な意見が多く、特にIT関連メディアの評価は厳しい。開発サイドではどう見ているのか、SPOTの製造パートナーであるシチズン時計に話を聞いた

 Microsoftが力を入れるネットワーク対応スマートデバイス「SPOT(Small Personal Objects Technology)」。シチズン時計は、CESで発表されたSPOTの製造パートナー3社では唯一の国内メーカーだ。同社でSPOT開発を担当する企画部開発技術室長の福島信人氏と、情報機器事業部営業部係長の前田浩司氏に、SPOTの可能性や同社のSPOT端末の事業展開について聞いた。


SPOT開発を担当する企画部開発技術室長の福島信人氏(左)と、情報機器事業部営業部係長の前田浩司氏(右)

 「Microsoftから当社にSPOTの話がきたのは約2年前だった」と前田氏は振り返る。MicrosoftがSPOTの開発に着手したのが約3年前というから、比較的早い段階で時計メーカーの同社にアプローチしてきたことになる。「SPOTのコンセプト自体は、Microsoftの中でかなり以前からあったもの。そして早い段階から時計スタイルでいくという方向性が確立されていた。だから時計メーカーにも早く声をかけたのだと思う」(前田氏)。


同社が試作した腕時計型のSPOT

 SPOTは昨年11月のCOMDEX/Fallで初めて紹介され、今年1月のInternational CES 2003でその詳細が語られた。しかし、この新デバイスに対するマスコミの報道は否定的なものが多く、特にIT関連メディアの評価は厳しい。

 確かにその仕様を見る限りでは、特に目新しい技術はない。逆に、サイズやバッテリー持続時間など不満点が目立ち、サービス内容も携帯電話など既存のものと大差がないように見える。だが、Microsoftが3年も前から準備を進めてきた新ネットワーク対応デバイスは、果たしてその程度の実力なのだろうか。

 前田氏は「SPOTのような新デバイスが登場すると、どうしてもそのテクノロジーが注目されがちになる。だが、Microsoftがこれで目指すものはインタフェースであって、テクノロジーではない。Gates氏が昔から提唱していた“指先に情報を”という提案を具現化するのがSPOT」と言う。

よりパーソナル化された“見えるラジオ”

 SPOTにはFM受信機が内蔵され、FMサブキャリア信号を使って情報の配信を行う。「簡単にいうと“見えるラジオ”の仕組み」と前田氏は説明する。

 「本体内のラジオチップは自動的にチューニングする機能が備わっており、地方が配信するFM電波を自動的に受信していく。基本的には“見えるラジオ”のシステムだが、それを全米規模でやるのがSPOT。Microsoftが持つ膨大なインターネットコンテンツが、全米の広大な土地でリアルタイムにワイヤレス配信される」(前田氏)。

 SPOTのサービスは米国とカナダで今秋から始まるとアナウンスされているが、前田氏によると、すでに米国では約8割の人口をカバーするインフラを構築しており、地区を限定してスタートするカナダでも、約2000万人の人口をカバーするという。

 SPOTの“売り”は、よりパーソナル化された情報の配信が行われる点だ。

 「SPOT機器には固有のIDが割り振られている。データの配信自体は全方位的に行うのだが、ID処理をSPOT内で行い、個人が設定した情報だけを吸い上げる。これによって、株価情報やスポーツの試合結果など自分が必要な情報だけをpush配信してくれる」(前田氏)。

 さらにSPOTはIM(インスタントメッセンジャー)の配信もサポートする。IMの情報はFM局まではインターネット網を使って送信され、暗号化されてFM電波に載せられる。「これは見えるラジオではできない機能。SPOTにIDが付与されていることで、個人別に特定情報を配信することが可能になる」(前田氏)。

 個人別の情報配信なら、携帯電話などですでに実現されているという声もある。だが米国では、全国をカバレッジする携帯電話のキャリアがなく、また携帯電話の電波がまったく届かない場所も多い。

 「全方位的に数十万、数百万人に一斉同報できるシステムとして、SPOTはかなり有効。1昨年のテロのような時も、このようなデバイスがあったら被害はもう少し減ったのではという声もあり、米国での関心は高い」(前田氏)。

“腕時計型”の可能性

 このように便利なデバイスも、常に身に付けられなければその魅力は半減してしまう。ここで重要となるのが“腕時計型”というスタイルだ。


 「腕時計は、持ち歩くことを意識せずに携帯できる。そしてチラッと目をやるだけで、情報が見られる。これはMicrosoftが考えるSPOTのコンセプトの中でも特に重要なポイント。PDAや携帯電話など高機能なモバイル機器はいろいろあるが、いずれも肌身離さずというわけにはいかない。常に腕に付けていられる電子機器というところをMicrosoftも評価している」(福島氏)。

 Microsoftが考えるSPOTの方向性は、腕時計というパッケージングの中でできることであり、PCに精通したユーザーでなくても気軽に使えるツールとして考えている。

 「時計としてのありかたを変えずにツールとして情報が飛び込んでくる。これは、シチズンが考える情報機器としての時計の方向性と合致する。SPOTはわれわれの時計の歴史の中でも、画期的なものになると見ている」(福島氏)。

 CESでは、同社が試作した2種類の腕時計型SPOTが紹介された。現在、今秋のサービス開始に間に合わせるため急ピッチで開発が行われている。

 「課題はいろいろあるが、特に難しいのがFMの電波を効率よく受信させるためのアンテナまわり。小型化のハードルも高く、全体の1/3を占めるバッテリーがネックになっている。逆に電池寿命は、内部の処理スピードやソフトウェアの改善によって当初よりもかなり伸びそうだ。仮にバッテリがなくなってもSPOT機能だけが自動的に切断されるため、時計単体で1週間ぐらいは駆動させることができる」(前田氏)。



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[西坂真人, ITmedia]

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