News:アンカーデスク 2003年2月24日 11:00 AM 更新

Centrino普及で踏み出したIntelの危険な“一歩”

Centrino普及でIntelが進めるプラットフォーム戦略は、かつてベンダー主導で行われた新市場創造のリード役を同社自らが担おうとするものだ。笛吹けど踊らぬ業界に、ついに業を煮やしたと言えそうだが、そのアプローチはある種の危険もはらんでいる
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 昨年秋の「Intel Developer Forum Fall 2002」で約束していたデュアルバンド無線LANの融合という約束は果たせなかったものの、Centrinoは強力なマーケティングプログラムによって離陸を果たしそうだ。3月12日、日本から順に行われるCentrinoの発表イベントは地球を半周し、ニューヨークでフィナーレを迎えることになる。イベントの規模は過去最大のものになるようだ。

 CentrinoはIntelがIDF Spring 2003で繰り返し強調してきた、技術の融合による新しい可能性や市場の創造というテーマを、ある意味において具現化したものである。ノートPCと無線LANをマイクロコンバージェンスし、その周辺で発生するマクロコンバージェンスを生み出す。それにより、ノートPCの新しい可能性を見つけようとしたわけだ(マクロコンバージェンス/マイクロコンバージェンスについてはこの記事参照)。

 しかもCentrinoのプログラムは、マイクロコンバージェンスだけを提供するモノではない。無線LAN付きのノートPCがより高い付加価値を得るため、あらかじめ想定されているマクロコンバージェンスのエリアに力を注ぐことで、市場拡大を加速させようとしている。

 たとえば各方面と協力して進めるホットスポットの増加プログラムは、無線LAN付きノートPCをインフラ面で支える役割を果たす。さらに軽量で薄型の持ち歩きやすいフォームファクタというニーズが、これまで以上に高まることが容易に想像される。

 もちろんワイヤレス製品に電源コードは似合わない。また場所を移動するごとに変化するネットワーク接続環境の違いを吸収し、目的のネットワークに最適な方法で繋がる接続性の高さも、ノートPCの移動が頻繁になるほど高くなるはずだ。

 Centrinoの中核を成すPentium-Mプロセッサは、電力効率の高さという意味においてx86互換プロセッサの中では比肩するものがないほど優秀な製品として登場する。プロセッサベンダーであるIntelが、プロセッサとしての優秀性だけをアピールするだけであれば、もっとメッセージはシンプルだったに違いない。しかしCentrinoの戦略に置いて、Pentium-Mプロセッサは中核要素ではあるものの、あくまでもいくつかの構成のうちの1つに過ぎない。

 本来、Intelが言うところのマクロコンバージェンス、すなわち技術と技術の融合が生む様々な影響や新市場は、融合された製品が登場することで市場の中に自然とデマンドや問題点が浮かび上がりそれに対する解決策として生まれたり、融合製品にインスパイアされて新しい切り口やアプローチを思いついたビジョナリストによって考え出されるものだろう。

 これまでIntelは、業界が必要とする構成要素を提供し、さらにその組み合わせ例としてコンセプトデザインを提供することでベンダーの裾野を広げてきた。Intelのサポートが無ければ、製品開発もままならないベンダーもあるかもしれないほど、Intelのベンダーサポートは手厚い。そして、構成要素やコンセプトデザインを毎年、可能な限りの努力で前進させてきた。

 つまりマイクロコンバージェンスを引き起こす役割をIntelが果たし、ベンダーたちにマクロコンバージェンスを進めることを期待していたと言い換えてもいい。実際、IDF Spring 2003最終日の基調講演で、Intel最高技術責任者のPat Gelsinger氏は、Intelの役割は半導体技術を基にしてマイクロコンバージェンスを生み出すことだと述べた。その言葉の裏には、マクロコンバージェンスにこそ、“聴衆”であるデベロッパーたちのビジネスチャンスがあるとのメッセージが込められている。

 しかしここ数年、Intelが期待していたほどにマクロコンバージェンスは生まれなかった。IT業界への不信が、そうした読み違いを引き起こしたとも言える。Centrinoが示すIntelプラットフォーム戦略の本質とは、なかなか進まないマクロコンバージェンスが生まれるきっかけを、Intel自身が作り出すことにあるのかもしれない。

 火種としてのマイクロコンバージェンスが徐々に燃え広がり、より大きな炎へと成長していくのを待つのではなく、最初から大きな炎が生まれるように火種(Pentium-MとPRI/Wirelessチップ)を投入する前に、周辺へ別の火種をあらかじめをまいておくわけだ。

 しかしこうした戦略は、PC業界に対して大きなインパクトを与えるリスクも存在する。Centrinoマシンを生まれながらに使い易いものにするため、IntelはCentrinoマシンを名乗る条件を制限している。その結果、どんなCentrinoマシンを購入しても、すぐにその能力を発揮する環境をユーザーは手にすることができる。

 ところが、本来はPCベンダーが自らの製品の価値を高めるために努力するはずだったところまでIntelが提供するようになると、すべてのCentrinoマシンが同じような機能を持つことになる。

 今のところ(あくまでも今のところだが)、IntelはCentrinoの戦略に関してある程度の節度を持って行動しているようには見える。新しい市場を作り出そうとすれば、少々強引に見えてもこの程度のリーダーシップは必要なのかもしれない。あらかじめ火種となる材料を仕込んでおく程度なら許される。

 しかし別の火種を仕込んで炎の成長速度を高める程度ならばいいが、より強い刺激を求めてガソリンをかけて燃やすようになると、あっという間に燃え尽きてしまうかもしれない。

 Intelがそうした愚行に走ることはないと思いたいが、かつて水平分業による業界構造のメリットを説いていたIntelは今、自ら禁を破ってサードベンダーの入り込む隙間を少しずつ奪うようになってきている。ビジネス環境の変化は将来、Intelという会社を変えてしまう可能性もあるだろう。

 今回のCentrino戦略に関しては、少々やりすぎの感は否めないが、ギリギリ賛成票を投じたいと思う。しかし、今後のIntelの動向については、なおも注意深く見守る必要がある。



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[本田雅一, ITmedia]

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