News 2003年5月13日 07:48 PM 更新

10万円切る家庭向け製品の布石?――エプソン、低価格データプロジェクタ

セイコーエプソンが、15万円を切るデータプロジェクタ「EMP-S1」を発表。“光学系の内製化”と“中国生産”などで徹底したコストダウンを図り、低価格ながらも従来機と同等以上の基本性能を装備した

 セイコーエプソンは5月13日、14万8000円という普及価格のデータプロジェクタ「EMP-S1」を発表した。実売では12万-13万円前後となる見込み。6月2日から発売する。


普及価格のデータプロジェクタ「EMP-S1」

 これまで同社のデータプロジェクタでもっとも低価格だったのは、昨年10月に発表したELP-52の24万8000円。今回のEMP-S1は、これを一気に10万円も引き下げた。しかも、コストダウンにともなってELP-52から省略された機能はほとんどなく、1200ANSIルーメンの輝度や、リアルSVGA(800×600ピクセル)表示、使用シーンに応じて選択可能な6つの画像モード、狭い部屋でも投写できる短焦点レンズ採用など、ELP-52と同等の基本性能を備えた。

 さらに、ELP-52にはなかった機能・装備も追加されている。まず、カード型ワイヤレスリモコンのほかに、PC操作用に機能を限定した「プレゼンテーションリモコンキット」を標準で添付。ページのアップ/ダウンやマウス操作など、プレゼンテーションに必要最低限の機能を手のひらサイズに装備した。


PC操作用に機能を限定した「プレゼンテーションリモコンキット」を標準で添付

 また、直径80ミリの大口径クーリングファンを採用(従来モデルは直径70ミリ)。騒音レベルは33デシベルと、同社プロジェクタの中でも最低レベルの静かさになっている。そのほか、約6秒で起動するクイックスタートアップや約20秒で終了するクールダウンなど、動作スピードも向上している。


大口径クーリングファンを採用。本体は丸みを帯びたラウンドシェイプデザイン

 「1998年に発売したモバイルSVGA機のELP−5500が84万8000円と軽自動車並みの価格だったが、今回の新製品はそれから6分の1の価格になった。昨年末発売したELP‐52と比べても、約40%のコストダウンを図っている。ただし、価格を安くするために機能を削っては意味がない。安かろう悪かろうではなく、ユーザーが納得する機能を備えて低価格を実現した」(セイコーエプソン映像機器事業部長の内田健治氏)

 EMP-S1の主な仕様は以下の通り。

型番EMP-S1
方式3原色液晶シャッタ式投影方式
液晶パネル0.5型ポリシリコンTFT液晶
パネル画素数800×600×3(横×縦×枚数)
輝度1200ANSIルーメン
コントラスト比400対1
投影サイズ30‐300型
対応ビデオ信号NTSC/PAL/SECAM、D1‐D4
対応PC信号SXGA(リアル対応)、VGA/XGA(リサイジング対応)
インタフェースRS-232C×1、ミニD-SUB15Pin×1、RCA×1、S端子×1
サイズ370(幅)×265(奥行き)×106(高さ)ミリ
重さ約3.2キロ
価格14万9000円
発売時期6月2日

コストダウンの秘密は“光学系の内製化”と“中国生産”

 実質的な機能アップを図りながら大幅なコストダウンを達成できた理由は、「光学系部品の内製化率アップ」と「中国への生産移管」だ。

 同社のプロジェクタは自社開発の液晶パネルを搭載しているが、新製品は液晶パネルに加えて、プリズム、偏向ビームスプリッタ(PBS)、ダイクロイックミラーなど、光学系キーパーツを内製化したほか、非球面レンズを採用することでレンズ枚数を従来の約半分(11枚から6枚)に削減するなど投写レンズも新規に設計。さらに、昨年秋から行ってきた中国での生産を加速させ、金型から中国で作り始めるなど、現地調達度を高めた。


非球面レンズを採用することでレンズ枚数を従来の約半分に削減

10万円を切る家庭向けプロジェクタは、次世代デバイス採用モデルから?

 全世界同時発表となった今回のEMP-S1。同社は「米国でのストリートプライスは1000ドルを切る」(同社)という戦略価格で、プロジェクタ市場の拡大とシェアアップを図る構えだ。

 同社は昨年8月に、実売15万円を切る多目的プロジェクタ「ELP-30」を発表した。今回のEMP-S1は、輝度でELP-30(800ANSIルーメン)を上回るなど、性能を向上させながら実売ではEMP-S1の方が安くなっている。

 もっとも今回の新製品は、プレゼンテーションなどビジネス用途を目的とした“データプロジェクタ”で、色再現性などはホームシアター向けに設計されたELP-30に分がある。そこで期待したいのが、今回のコストダウン技術を生かした、低価格の家庭向けプロジェクタだ。10万円を切る製品の登場が、一般家庭へのプロジェクタ普及のブレイクスルーになるとの期待も大きい。

 同社は今年3月に、次世代プロジェクタ向け高温ポリシリコンTFT液晶パネル「D4」(開発名称)を発表。従来の液晶パネルよりも小さいサイズで高開口率と高解像度を可能にするこの次世代デバイスは、プロジェクタ製品の低価格化にも貢献する。


次世代プロジェクタ向け高温ポリシリコンTFT液晶パネル「D4」は、プロジェクタ製品の低価格化に貢献

 今回のEMP-S1には、ELP-52などにも採用された1世代前の液晶パネル「D3」が搭載されている。D4は6月からサンプル出荷が開始されるが、量産が始まるのは9月から。同社に、10万円を切るプロジェクタの可能性を聞いてみた。

 「今回の新製品には実績ある従来のデバイスを使っていかにコストダウンできるかに取り組んだ。D4を使えば、さらなる低価格化も可能になる。D4搭載モデルは量産が始まる9月以降に発表される予定だが、10万円を切るかは現時点では答えられない。ただし、ユーザーの期待には応えていきたい」(同社)。

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[西坂真人, ITmedia]

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